第十五話〜第二十一話
第十五話
標準的な吹奏楽には五十人程度の奏者が必要
吹奏楽コンクールの課題曲の演奏に関しては、の話です。適正な人数は曲によって異なり、各団体のスタイルやメンバーの技量にもよりますし、単純に屋外演奏か、屋内演奏なのかによっても大きく変わります。
日本の学校吹奏楽は、良くも悪くも全日本吹奏楽コンクールが大きく影響してきましたから、だいたい五十人(高校は五十五人)のレギュラーで音楽を作っている例が圧倒的で(マーチングは、また別の人数規定があります)、本来八十人ぐらい必要な楽譜も適当に丸め込んだり、三十五人で充分なのにダブらせたりと、音楽的に見ると、やってることは結構いいかげんです。部活動ですから仕方ないのですけれども。
最近は、少子化に伴って中編成・小編成の団体の割合が増え、それに合わせた楽譜が出回るようになった一方で、五十人編成を無理に十数名でやりくりしたり、これはこれで見ていると面白い例も 笑。
チューバ三人だと絶対に多すぎる。
実力のあるチューバ吹きがいるなら、五十人編成だとチューバは二人がちょうどいいぐらいですが、曲によっては三人いてもいいし、後継の育成も考えて四人並べてる吹部もあるでしょう。
作中の樫宮中は、四十五人前後の編成で、少なくとも唐津君は「本調子ならスゴい人」という設定ですので、こういうセリフが先生の口から出てくるわけです。
タマ降ろせ。ケツの穴閉めろ!
管楽器とか声楽の指導で野郎ばかりの現場だと、こういう言葉が飛び交うこともあります 笑。
私自身は、これは個人的に言われたセリフじゃないんですが、「(男子は)おもりをしっかり下ろして」というお言葉を頂いたことがあります。今だとセクハラになるのかな。該当者が少ない現場だったし。
でも真面目な話、下腹部の筋肉をどう扱うかは、呼吸とか体共鳴なんかの重要なポイントなんですよね。問題視されない言い方だと、どう言えばいいのか。あと、「ケツの穴閉めろ」はピアノの演奏でも言われることがあるほどです。何と言っても、へそとか股とかアレとかは体の中心部だし、演奏指導では避けて通れない部位ではあるんですよ。
トゥッティ
tutti。全員で、の意味。総奏などと訳されています。つまり、奏者全員が音を出している状態のこと。ただ、楽団全員じゃないのだけど、金管全員が音を出しているので「金管のトゥッティ」などという言い方もないでもないです。さらには、厳密に言うと打楽器がほとんどいないとか、ピッコロ・フルートが抜けてるなんて状態でも、「ほぼ全員」だからトゥッティと言ってしまうことも、ままあるでしょう。
一方でこの語には別の使われ方もあって、たとえば管弦楽の弦楽器や吹奏楽のクラリネットなどは、一パートに複数人がいるわけですが、ごくたまに「パート全員じゃなくて一人だけで吹いて」と、soloの指示が入ることがあります。その独奏を解除して「ここから全員に戻って」と言いたい時は、tuttiの文字を譜面に載せます。この場合は全員奏、あるいは全奏と呼ばれる例ですね。
本来の使い方では音量に関係なく、全員が演奏していればトゥッティですが、暗に「全員で力いっぱい吹く」という意味合いで使われるケースが多いです。特に吹奏楽は。
第十六話
サンダーシート
作中に描写があるような形態のもので、バチなどで叩いたり、シートの端をつかんでゆすったりして雷らしい音を出すものらしいです。金属板はアルミニウムの他、鉄、ステンレス等でもいけるようです。一応、楽器としてレンタルなんかもしてるらしいですが、自作は簡単なんで、収納スペースがあるのなら、たいてい作ってしまいますね。もちろんその際の工作担当は、パーカスの部員です。
バスドラムの中に小玉を入れ、楽器を転がして「ゴロゴロゴロ」という擬音を発するものは、サンダーマシーンと言って、これとは別物です。
落雷の音を出す楽器……というか、道具。
サンダーシートのように、元々舞台の効果音作りに使われていたようなものを「楽器」と呼ぶか「道具」と呼ぶかは悩ましいところがありますが、曲の演奏の中で使われていたなら、何でも「楽器」と言い切ってよいです。では、舞台から下ろしたらそれは何なのか、という問いは、「あなたはその物体をどう認識するのか」ということと関わる問題で、立派な学問的命題ではありますが、それでその物体の名称が一義的に決まるものでもありません。
音を出すための道具なのだけれども、楽曲演奏に使われるとは限らない、というモノをくくるために、四十年ぐらい前に「音具」という言葉が議論されたこともありましたが、その後それほど広がってはいません。サンダーシートなどは、まさに「音具」のカテゴリーにふさわしい品物ではあるのですが。
マレット
パーカッションを叩く「バチ」には、カタカナだと三種類あって、
・スティック つまりは棒。ドラムセット叩く時の、あの素朴な木製の棒です。あれが基本形。
・マレット 棒の先端にフェルトや木などの丸い玉をつけているもの。ティンパニ、シロフォン、マリンバなどで使われているのが代表例。
・ビーター トライアングルで使う鉄棒が代表例。他に、ドラ(ゴング)やバスドラムなどの、マレットと言うには玉が大きすぎるものを、ビーターと呼ぶことも(マレットで通している人も多いです)。
日本語は全部「バチ」で通せますんで、結構楽ですね。もちろん、そう一括してしまっても間違いではありません。
第十八話
パートリーダーのお仕事、とは
念のために書いておくと、この話はフィクションです(笑)。高校吹奏楽の全国大会常連校あたりになると、色々と複雑な運営を実践しているのかも知れませんが、中学校バンドでのパートリーダーの仕事なんて、まあせいぜい部内の人間関係を平穏に保ち、パート練習である程度主導権を取ることぐらいです。新入生の指導というのはあるでしょうが、ことさらに部外の時間まで使って自己研鑽に励め、などのいうメニューを、細かく具体的に義務としている部は多くはないでしょう。
そうは言っても、好きな部員は誰から指示されずとも、夜なべして音楽聞いたり専門書読みふけったりするし、中二あたりからアレンジに手を出したり作曲の勉強始めたり、はたまた目を輝かせてスコア読んだり、ビョーキに取り憑かれる者は一定数出るものですが。
第十九話
クラも三パートに分けりゃいい
多くの吹奏楽曲ではクラリネットは三パートあります。で、日本の学校吹奏楽では、クラの各パートに三人前後を配置している例が一般的です。つまり、
バスクラ
バスクラリネットの略。普通のクラリネットの、だいたい一オクターブ下の音域を受け持つ、テナーサックスを細く直線的にしたような形をしているクラリネット。標準編成の吹奏楽団で一人または二人を配置。これが入るだけで、木管の和音の厚みが全然違ってきます。
バリトンサックスほどではないにしてもよく鳴る楽器で、クラリネット属だから音域は広く、速いパッセージもお手のものなので、現代音楽、ジャズなどで広く用いられています。吹奏楽でも、日陰者のような扱いである割にはソロなどよく回ってくる方ではないかと。
ライブラリアン
学校の部活での普通の呼び名は「楽譜係」。顧問の指示に従って、棚から楽譜を探し出してきて、パート別に配布、あるいは回収する係、というのが一般的かと思います。学校によっては、コピー譜を作ったり破れてるのを補修したり棚全体の整理したり、という仕事も範囲に入るかも知れません。
プロ楽団の「ライブラリアン」になってくると、楽譜の準備・回収などは小手先の仕事で、楽譜の購入、レンタル譜の調達交渉、新作の場合は自筆譜からのパート譜作成に関わる行程管理などなど、ちょっとした音楽図書館並みの内容の業務を請け負うことになります。これこれ出版のここのパート譜は、何小節目のこの音が指揮者用のスコアと食い違っていて、実はパート譜の方が正解である、なんて知識が必要なことも。
これは電子オルガン?
この映画の該当箇所の音は、よくよく聴くとクラリネットの音である、という話もあります。ただ、美緒がそれをただちに聞き分られるとは考えにくいし、画面のキーボードにつられて、普通の視聴者は「電子オルガンの音だ」と認識すると思いますんで、このように書いております。
ロンドンシンフォニーの、えーと何てったか、すごいチューバ吹きがいて、
ジョン・フレッチャー(1941〜1987)のこと。BBC交響楽団、ロンドン交響楽団などでチューバ奏者を務め、日本では、フィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブルでの活躍ぶりが有名。1980年発売のLPレコード「魔法のチューバ」は、日本中の学生チュービスト(多分プロチュービストも)の度肝を抜いたもんでした。
ただし、この映画にジョン・フレッチャーが参加していたかどうかというのははっきりしてないところもあるようで、この文を書く時点で確証は取れていません。
ジョン・ウィリアムズがそれに惚れ込んでこんな音にしたって話だ
なんかそんな話を聞いたような気がする、という、湾多自身のあやふやな伝聞情報に基づいた記述です 笑。
この映画は『スターウォーズ』と同じ年だからな。
そろそろお分かりの方はお分かりかと思いますが、「この映画」とは「未知との遭遇」で、公開は1977年でした。
第二十話
フォルテ五つの大音声で
強弱記号であるf(フォルテ・強く)とp(ピアノ・弱く)、これが一段階上になるとff(フォルテシモ・とても強く)、pp(ピアニシモ・とても弱く)にそれぞれなるわけですが、上には上がありまして、ffの上はfff(フォルテシシモ)、ffff(フォルテシシシモ)、fffff(フォルテシシシシモ)と続きます。
はっきり言って読みにくいので、日本人同士だと「そこの和音はフォルテ五つでっ」のような言い方で通すこともしばしば。何にせよ、強弱記号は絶対的な音量の指示ではありませんから、ただのfでも全力で吹くフレーズもあれば、ppだけれども真ん中レベルの音量で、というようなことはいくらでもあります。あくまで奏者の演奏設計センスの問題ですので。
第二十一話
ベルカント
ベルカント唱法のこと。イタリア語で「美しい歌」の意味で、イタリアオペラの伝統的な歌唱法のこと……などと、ものの本には出ていますが、はっきりした定義はできません。ベルカント唱法に対してドイツ唱法、xx唱法などを比較して並べる記事も多いですが、ぶっちゃけ、声楽の専門家ではない音楽ファンの会話で「ベルカントみたいな歌い方だと……」というセリフが出た時は、ロックやフォークのようなマイクロフォンの使用前提での歌唱法ではない、クラシックスタイルの歌い方、ぐらいの意味しかないことが多いです。
文中の使用例も、まさにその意味で使ってます。
身体共鳴
必ずしも声楽理論で定義された言葉ではなく、ネット記事にはスピリチュアルな用語として使われている例もあるほどなので、作中の説明はあくまで意見の一つとしてお読みください。歌の業界で「共鳴術」とか「体共鳴」みたいな術語が作られてそうなもんなんですけれど、実際に声楽家が言ってることはみんなてんてんばらばらで、この程度の内容にも統一的な言葉が見当たりません。でも、実際にレッスンなんかでやってることは、まさに「身体共鳴」とでも呼ぶしかない内容なんですよね……。
フルート教室に通っていて……「共鳴」という言葉を聞いた
フルートの指導専門書をのぞいてみると、頭蓋骨内部の共鳴を響きに活かすような訓練メニューが実際に存在します(頭共鳴と呼ばれます。すべてのフルート奏者が実践しているわけではなく、詳述した入門書は多くはないですが)。「喉の奥で響きを回すように」「鼻の奥から頭のてっぺんに突き抜けるように」「眉間から音を出すように」などなど、門外漢には禅問答をやってるようにしか見えないのですが 笑、実際にそんな感じで音を出す気になると、初級レベルでも結構さまになった響きになるようです。
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