第25話 赤い月

 発展していく拠点、無意味に自動化したりするのは楽しい。


 工場のラインを考えて、物流経路を作って、加工工場を配置して。

 リアルなストラテジーゲームをやってる感覚で物資をどんどん貯蓄していく。


 もちろん、先生はナミヒメだ。

 俺一人では持て余してた神アプリの使い方を丁寧に教えてくれて、俺だと意味を理解出来なかったクラフトレシピや魔法設定なんかも丁寧に解説してくれる。


 魔法アプリで魔道具系のエンチャントが出来るとか、教えてもらわないとわからない要素だったよ。


 無意味に、思うままに発展していく島のマップ状況を眺めながらナミヒメが居て本当に良かったと思っている自分が居る。


 この箱庭世界に落とされた当初、死んでばっかりだった。

 ナミヒメが来るまで、神アプリ貰っても何も出来てないに等しい状況だった。

 引きこもりの人嫌いの俺でも、本当に一人きりになるのはやっぱり寂しくて、しゃべる相手が居る事がこんなにも安心するのだと言う事に気付かされた。


「ん?なんですか?」


 ミニサイズ、と言ってもナミヒメのサイズだと標準サイズなんだけど、牛丼をもぐもぐしているナミヒメを見つめてたら、その視線に気付いたナミヒメが可愛く首を傾げている。


「いや、ナミヒメが来てくれて本当に良かったなって思って」


「そうでしょう、もっと崇めてもいいんですよ」


 いつも通り胸を張って腰に手を当てるエッヘンポーズを決めながらナミヒメがそんな冗談を言ってくる。


 そんな何でもないやり取りをしながら、島の発展について相談しながら進めていく。

 各種ロボットによる自動化は、現代技術じゃ不可能なレベルのAI技術で支えられている。

 そのAIの組み方を教えてくれたけど、全然理解出来なかった。結局ナミヒメが組んでくれたマザーをコピーしまくって使ってる。

 基本データさえ学習すればどんなことにも対応出来るとか、汎用性高すぎる。


 そんな日々が日常になったある日のよる。俺はナミヒメに叩き起こされた。


「春人さん、起きてください!」


 珍しく焦ったような声で文字通りペシペシと顔をたたかれて、眠い目をこじ開ける。


「どうしたの、ナミヒメ」


「春人さん、あれを見てください。月が赤いんです」


 ナミヒメに言われて、ログハウスの窓から空を見上げる。確かに赤い月が浮かんでる。

 月食かな?と最初は思ったけど、おかしい。満月じゃなく、三日月だ。


「なんだ、あれ…」


 恐怖というか、不安というか、負の感情を掻き立てるような赤い光。


「この箱庭世界によくない事が起こってます。今原因を調べてますので泉の結界内で休んで下さい」


 ナミヒメに言われて、泉の結界内にテントを出してそこで休む。

 なんとなく、神泉の周りの結界内には何も作らないでそのまま残してたんだよな。


 電化製品とか充実させてたログハウスに比べたら不便だけどしかたない。

 ナミヒメが慌ててる時点でただ事ではないだろう。普段なら不安で眠れなくなるところだけど、万能ポーションたる泉の水で俺はあっさりと眠りについた。


 翌朝、目が覚めると、雨が降っていた。台風でも来てるの?ってくらいの強風付きでだ。


 箱庭世界に来てから、小雨程度が降ることはあってもこんなに激しく天候があれることはなかった。


「ナミヒメ、なにがおこってるの?」


 言葉に出して初めて気が付いた。ナミヒメが居ない。

 悪天候も関係なく、神泉の結界が防いでくれてるけれど、俺は不安な気持ちになる。


「あれ、そういえば…」


 神泉の結界は、俺以外の生物が入れない結界であって、強風や雨風を防いでくれるようなものじゃなかったはずだ。


「結界が強化されてる?」


 結界の強化が必要な事が起きているって事だ。なんだ?何が起こってる?


『ピコンッ』


 久々に神アプリの通知音が鳴る。俺は慌ててアプリのメッセージを確認する。


『北村春人様。ナミヒメは現在原因の調査のために貴方のそばから離れざるを得ません。簡単にですが、結界を強化しておりますので、当分の間、結界から出ないでください。ご不便をおかけしますが、身の安全を最優先にしてください。原因究明出来ましたらまたご連絡差し上げます』


 神様もまだ、はっきりと原因をつかんでいないらしい。

 台風並みの暴風雨に雷まで落ちてる。

 安全な神泉の結界内で、出来ることもなく俺は二度寝するのだった。

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