第20話 死闘の結末
アンチマテリアルライフルを構えて、その時が来るのをじっと待つ。すでに有効射程には入っているけど、確実にダメージを与えるのに、1km圏内まで待ちたい。
素の俺のスキルだと1kmの狙撃なんて絶対あたらないけれど、エイムアシストの魔法が、銃口をあたる位置に固定してくれる。
プレッシャーを前に早く引き金を引いてしまいたくなるけれど、そこは我慢だ。
気配遮断の魔法を使い、草むらに身を潜め、銃の反動を抑える為に身体強化の魔法も重ねがけする。
相手も伝説級の魔物だ。遠距離魔法くらい持っていてもおかしくない。念のために防御障壁の魔法も張っておく。
気配察知の魔法が相手との距離を感覚的に教えてくれる、ここだ!
「ダーンッ!」
引き金を引いた瞬間、銃口が跳ね上がる。スコープを覗いても空しか見えないから、直接目視で狙撃の結果を確認しようとする。
「だめです。あたりましたが、あたってません」
いつも通りのフラットなしゃべり方で冷静にナミヒメが狙撃結果を教えてくれる。
素の視力だとよくわからないので、遠視の魔法を発動してグリフォンを観察する。
すると、グリフォンの周りに風の障壁のようなものが展開されている事がわかる。この障壁に守られて銃弾は本体にまで届かなかったのだろう。
「まっすぐこっちへ向かってきてますね、こちらの位置は元々ばれていたようです。多分、目がいいんですね」
今度は光学迷彩の魔法でも作っておかないといけないかな。
そんな事を考えながら、倉庫アプリからロケットランチャーを引っ張り出す。エイムアシストの魔法をかけてから、即、グリフォンに向かって発射。
ロケットランチャーは別名無反動砲。反動が少ないので視界のぶれも無い。今度は自分でも効果は確認できた。
やっぱり本体に届く前に、風の障壁に阻まれている。
「クワァー!」
ひときわ大きな鳴き声とともに、不可視の風の刃が飛んでくる。ロケランの爆風を切り刻んでこちらに向かう風の刃は、こちらの防御障壁の魔法にあたって消滅する。
「うへぇ、これは接近戦かぁ、今から逃げられないかな」
「ごめんなさい。最初から逃げられません。見つかっていたみたいなので。逃げれるなら最初に逃げるように助言してます」
ナミヒメの言う通りだなと思いながら、サバイバルナイフを手に構えながら身体強化と防御障壁の魔法を改めて掛けなおす。リミッターがあるから、効果が上がるわけじゃないけど、効果時間はリセット出来るから最低限の準備だ。
「来ます。よけてください」
ナミヒメの警告と同時に、急降下と言っていい角度で一直線に体当たりしてくるグリフォン。
来るとわかっていれば、避けるくらいは…。
「うわっ」
失敗した、風の障壁をまとっているグリフォンは、多少避けたくらいじゃ避け切れない。障壁に巻き込まれて吹っ飛ばされる。
「こちらも風の障壁を使って相殺してください」
ナミヒメの的確なアドバイス。防御系の魔法もナミヒメが来てからアドバイスを貰えるようになって充実している。
「また来ます!」
グリフォンの奴、簡単に吹き飛ばせたから俺を舐めてるのか、今度は地上を走って突っ込んでくる。
「これで、どうだ!?」
障壁を相殺して、突進をよけながらサバイバルナイフを突き刺す。
素人に難しい事は出来ない、補充されるナイフは消耗品として使い捨てる。ただ突き刺すだけなら何とか出来なくもない。
すごい勢いで突進してきた勢いに、案の定ナイフは持っていかれる。刺さりはした、ダメージは与えられているだろう。
「グワッ」
あまりダメージを気にした様子もなく、こちらに向き直るグリフォン、威嚇の咆哮をあげながら、鋭い爪を振り上げる。
「やばい」
思わず硬直して、ダメージに備えて腕でガードする。だけど、こちらの防御障壁を抜けなかったのか、目の前でグリフォンの爪が止まる。
「いまです、ナイフと魔法を!」
一瞬呆けてしまった俺にナミヒメからの激が飛ぶ。
手にしたナイフを突き刺して、攻撃魔法からスタンダードなファイアボールを選択する。
ナイフ越しに発動した魔法はグリフォンの胸のあたりに傷をつけた。
「グオオオオオオォ!」
今度こそ痛みに咆哮するグリフォン。いったん距離を取るためか、上空へ飛びあがり、頭上を旋回している。
旋回しているグリフォンが緑色の光に包まれる。
「回復しています。春人さんも今のうちにポーション飲んでおいてください」
アドレナリンで興奮状態なのか、自身の回復にまで頭がまわっていない。
冷静なナミヒメのアドバイスは本当にありがたい。泉の水を飲むと、気付けなかった魔力消費を回復してくれている感覚が全身に染み渡る。
「もう一度魔法を…。いえ、来ます!」
再度急降下の突進。今度は風の障壁と防御障壁に阻まれて、吹き飛ばされるようなことはなかった。
「エクスプロージョン!」
爆発を伴う火球魔法をすれ違いざまぶち込む。お互い吹き飛び、お互いすぐに飛び起きる。
ダメージはグリフォンの方が上だろう。爆心地から離れていた俺は吹き飛ばされるだけですんだ。
「グワッ!」
油断した訳じゃないと思いたい。でも、やれると思っていた自分を殴りたい。
今まで奴は遊んで、じゃれて居た位だったのか、突進してきたグリフォンのスピードは今までの比じゃなかった。
「春人さん!避けて!!」
もろに突進を受けて、吹き飛ぶ俺。防御障壁を抜いて大ダメージを受けてしまった。骨が数か所折れたかも。
とっさにポーションを飲むと痛みも引いた。
「春人さん、だめ!」
ナミヒメの警告を耳にした時には胸から奴の爪が生えていた。
「ゴフッ」
妙に生ぬるく感じる液体を口から吐き出す。
ポーションを飲むためにグリフォンから目を離した。たったその数秒で奴は俺の後ろを取った。
いつの間にか、魔法の効果時間が切れていたのだろう。防御障壁も身体強化も効果切れだ。そんな状態で攻撃を受けたら、当然致命傷だ。
傷口は痛いと感じるより熱いと感じた。
投げ捨てるように、グリフォンは腕を振るう。無様に転がる俺の体は、だけど力が入らなくて。
血を流しすぎたのか、意識がブラックアウトする。
あぁ、俺はまた死んだのか。
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