第19話 高原で一週間
牛や豚を狩った高原で一週間ほど滞在している。
牛肉や豚肉の確保もついでにしていたけど、なんと、沼地にコメの群生地を見つけたからだ。
先に作った牛丼やカツ丼のお米は自衛隊の軍用レーション、缶飯から流用していた。この世界のお米、元の世界の品種改良したお米より、なんと美味しいのだ。
「牛丼やカツ丼もいいですけど、天丼や海鮮丼もすてがたいです」
とは、ナミヒメのお言葉。どうやら丼ものにハマったらしい。
一部を残し、群生地を狩りつくすつもりで、魔法で収穫している。結構広い範囲に群生していて、年間消費量以上をすでに確保済みだ。
一週間もうろちょろしてると『まざりもの』とも当然それなりに遭遇している。
慣れって怖いもので、奴らを狩るのにもう戸惑いも後悔も無い。
ただ、せっかく用意した攻撃魔法はほぼ使っていない。魔力枯渇で死んだのが軽くトラウマになっているんだ。
戦闘状態だとほぼ必須になる、気配遮断、身体強化、エイムアシスト。みっつも魔法を重ね掛けしてる状態だ。その状態で出力の高い攻撃魔法はちょっと怖い。
神様配給の武器群で攻撃する事で用は足りるのだからそれでもいいんだろう。
身体強化のトレーニング効果は高く、小太りだった体系は非常にスッキリし、20代くらいの体を取り戻したと錯覚するほど。
錯覚してるっていうのは、体が動く様になっても中身はおっさんだから使いこなせていないのが原因。
とことん俺は主人公には向かないらしい。
華々しい場面なんてほとんどなく、ナミヒメが遠距離で察知、気配遮断で射程内に、エイムアシストを使って狙撃。それがパターン化している、アサシンにでもなった気分だ。
まざりものと言われる外来種?にも色々いるらしく、ゴブリン似の餓鬼いがいにも、本物のゴブリンや豚顔のオーク、鬼によくにたオーガとか、お約束っぽいものもたくさん出てきた。
「ナミヒメが居るおかげで奇襲はされないし、もう『まざりもの』が出てきても平気かもしんないな」
「もっと感謝してもいいんですよ?」
エッヘンって感じで胸を張るナミヒメ、うん、可愛い。
「けど、『まざりもの』ってどこからくるんだろうな?」
「そのあたりはまだ調査中です。まずは滅茶苦茶になっちゃった元の世界の修復が大前提で、そちらに多くの神々が四苦八苦しています」
神々といえど、色々と大変らしい。神々がブラックだから人間社会もブラックになってる説。妙な事を考えてしまった。それだと人間はブラックから抜け出せないじゃないか。困る。
「まだそっちに手を取られてるようじゃ、俺の帰還は当分先になりそうだな」
「はい、まだまだいっぱいご一緒出来そうです。うれしいですか?」
いつものフラットなしゃべり方でいきなりぶっこんで来た。
「あ、あぁ、うん。うれしいよ…」
しどろもどろになって、やっと答えたけど、それでもナミヒメは満足そうだ。
人間判らないものだ。死ぬなら死ぬでいいって思ってた。今思えば心が疲れ切ってたんだろうと思う。
生きる理由なんて無い、そんな風にも思ってた。けど…。
今は、死ぬ事なんて考えてない。死が終わりじゃないこの世界だと、死は努力を台無しにする最悪な現象だ。
生きる理由なんて未だに見つからないけど、今は生きたいと思っている。
案外、やるしかないと追い込まれて、狩猟や採集っていう原始的な行動を自然と取るのは心の栄養にでもなっているのかもしれない。
一人で全部しなくていい。箱庭世界には俺一人しか人間は居ない。だから全部って思ってたけど、元の世界でも一人で全部出来る人なんて居なかったんだ。
だから神様は神アプリを俺にくれた。一人で全部しなくていいと。
「今日はなにをするかなぁ」
「そろそろ泉に戻った方がいいと思いますよ?スキューバ装備作って、海底油田から原油を採取しましょう」
原油まであんのか、この世界。
原始時代から始まった箱庭世界の生活は、ナミヒメというナビゲーターを得てずいぶん文明が進んだ。
このまま何もなく、平和に過ごせたらいい。本当にそう思う。
ナミヒメは、基本的に相談相手くらいの距離感を崩さない。あれをしなきゃダメ、これはこうしなきゃダメ。
そんな事は絶対言わない。
人間、周りに一人こういう理解者が居てくれないと生きていけないのかもしれないな。
基本的に人間なんて一人だ。孤独だ。同じ世界に生きてても、別の人生を歩む、別世界の住人なんだ。
だけど、孤独だからこそ、自分の見えてる世界の理解者っていうのは必要なんだろうな。
妙な事を考えながら、そろそろこの山からも撤退だと準備していた。
帰り道をマップアプリを使って確認してたら、ひときわ大きな赤い点が高速でこちらに向かってきている。
「春人さん、何か来ます!」
ナミヒメからも警告が飛ぶ。
この速度、きっと空を飛ぶ奴だ。晴れた青空を目を凝らして見つめる。
「あれ、ひょっとして、グリフォン!?」
さすが色々と混ざっちゃってる世界だ、とんでもない奴が現れたもんだ。
いつも通り、気配遮断、身体強化、エイムアシストを発動しながら、アンチマテリアルライフルを構える。
強敵を前にひどく汗をかいている。ここからでも危ない奴だってひしひしと感じてしまうほど、グリフォンの存在感はプレッシャーを与えてくる。
バクバクとうるさい心臓の音を聞きながら、敵が有効射程に入ってくるのをじっと待つのだった。
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