第16話 リスポーン地点
死ぬとどうやら、初めの泉に再構築されるらしい。俺は海で死んだはずなのに最初の泉にプカプカと浮いていた。
ここがゲームでいう所のリスポーン地点らしい。
気持ち悪い。頭に酸素が回らない、意識の遠のいていく感覚が妙に恐ろしく、気を失ったら二度と戻らない。その恐怖を思い出して、体の芯から震えがくる。
何度経験しても、どんな死に方をしても、心の芯が恐怖で震えるようなこの感覚には慣れそうもない。
ボーっと空を見上げてたら、やっと目のピントが合ってきた。心配そうに覗き込んでるナミヒメと目が合う。
「お説教の前に、大丈夫ですか?と聞いておきます」
お説教されるのは変わらないらしい。
「大丈夫ではないかな、まだ頭が回らない感じがする」
「泉の水を飲むと多少落ち着くと思いますよ」
アドバイスに従って、手ですくって水を飲む。頭の芯まで届いてる感じがする。何がとか詳しくは言葉に出来ないけど。
「ありがとう、だいぶ落ち着いたと思う」
「それはよかったです。では、お説教です。なぜ春人さんは準備不足のまま思いついたままに突っ走るんですか?いえ、準備不足という自覚すらないでしょうから、これからは確認作業を挟む癖をつけてください」
おっしゃる通り、海で楽しくてはしゃいでた、なんて言い訳にもならないよな。
ため息一つついて、タバコをクラフト。まだ両切りタバコでフィルターなんてついてないけど気にしない。
メンソール風のタバコを吸って一息つく。
「善処します」
政治家のような返答しか出来ないあたり、まだ頭はまわっていないのかもしれない。
とりあえず何もする気になれず、無駄に豪華につくってしまったログハウスでゴロゴロとしてみる。
ちなみに、海まで走って落としたはずの贅肉は、再構築時にきっちり戻ってきてしまいました。まさにリセット、ローグライクゲームの武器商人かと。
「元の体に再構築されても、トレーニングされた事実は無駄にはなりません。体が元に戻っても、魂がちゃんと鍛えられてた事を覚えてますから」
ナミヒメ先生曰く、無駄にはならないらしい。魂が鍛えられるという概念がよくわからないけれども。
平たく言えば、トレーニングの効果が出やすくなっているという事らしい。
無駄にならないと言われても、じゃあ頑張るかとはならないわけで。
タバコを無駄に吸いながら今後の事を考える。
流石に死ぬのはこたえる。いくら再構築されるからといって、死んでもいいからなんでもしよう!とはならない。
心の一番奥の部分が、死を拒否する。本能というべきものなのかもしれない。
海側にも餓鬼といわれる敵がいた。それに素潜りだとリスクが高すぎる。
せめてスキューバ装備をつくってからにしたいけど、酸素ボンベとか金属類がどうしても必要になる。高圧酸素をため込める強度は、石や木にはない。
ちなみに、魔法系で海中探索という選択肢はない。水圧の関係で、効果時間が切れたとたんに、かけなおす暇もなく溺れてしまう。
神様的にはここでおとなしく、戻れるまで平穏に暮らしてほしいっぽいけど、暇が過ぎれば何かしたくなるのが人間だ。
「よし、今度は北側へいってみよう」
「ちゃんと準備はしてくださいね?」
ナミヒメは反対はしないらしい。そういえば鍛えるのもお勧めされてたな。それで海まで走ったんだっけ。
「北側の鉱山周辺には敵は居ないの?」
「いくら神霊でも、そこまで万能じゃないです。行ってみるまでわかりませんね」
ナミヒメ先生でもわからない事があるのか。まぁ、当然といえば当然だけど。
山に行く準備と言っても、軍用装備がある時点で装備面ではそんなに心配はない。心配があるとしたら食料方面だけど、最悪レーションがある。
「準備って、なにすればいい?」
「そうですね、高山病対策に呼吸系の魔法を組んでおくといいと思いますよ」
そうか、今から行く山がどの程度の高さがあるのか判らないけど、気圧の関係で高山病とかもありえるのか。
準備なんて必要ないじゃんって思ってたけど、確認って大事だなと思い知った。
「数日は死んだショックでのんびりするかと思ってましたけど、意外と立ち直るの早かったですね」
ナミヒメがそんな事を言ってくる。
「泉のポーションは万能ですよ。きっと精神安定剤の代わりにでもなってくれたんだよ」
適当なことを言ってみるけど、意外とあたりな気がする。
あれこれと相談しながら山登りの準備に一日かけた。さぁ、明日から山登りだ。山の前に森を抜けなきゃだけど。
「そうだよ、森も抜けなきゃいけないし、道と結界作る魔法を改良しとかないとまた、魔力枯渇で死んじゃうじゃん。あぶねぇ」
「リミットは春人さんの魂の力に合わせて設けてますから、鍛えたら効果範囲や時間が伸びたりしますよ」
意外なところで魂の鍛錬の効果を実感することになった。身体強化の効果時間は最大で10分まで伸びていた。
魔法も改良して、少しずつ森の獣道を切り開く感じで進むことにする。
今度は危ない事はなければいいな。
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