第14話 海と塩と初戦闘
「海だー!」
小高い丘を越えると、水平線が見えてきた。
遠めに見る限り、崖とかになってるわけではなく、砂浜が長く続いている感じだ。海水浴も出来るかもしれない。
『ヒュンッ』
油断していた俺のすぐそばを、後ろから一本の矢が通り過ぎる。
「ヒェッ」
思わず情けない声が出た。後ろを振り返ると数匹の餓鬼が弓矢を構えて此方に射かけてる。
『ガスガスッ』
立て続けに二本ほどの矢が胸と腹にあたる。着込んでいた神様製のプロテクターのおかげで刺さることは無いけど、衝撃はかなりのものだ。
情けないことにしりもちをついてしまった俺に向かって、石器の斧を持った餓鬼どもが群がってくる。
「春人さん、結界魔法です!」
ナミヒメの助言がなければ、タコ殴りにされて、また泉に逆戻りしていたかもしれない。
「プロテクション!」
設定した発動キーワードで魔法が発動する。俺を中心に3メートルほどの範囲に不可侵の結界が張られた。
「うげぇ…」
弓の衝撃で胃の中のものを吐き出してしまう。決定的な隙なんだけど、結界のおかげでなんとか無事だ。
「春人さん、なんでもいいので武器を持って反撃してください!」
頭の中真っ白になっている俺は、ナミヒメの助言のままに体を動かす。
震える手でスマホのアプリからアサルトライフルを取り出して引き金を引く。
だけど、当然あたらない。素人がそう簡単に本当の命のやり取りの中で相手の命を刈り取るなんて出来るわけが無い。
「魔法でアシストしてください!」
「エイムアシスト!」
一から十までナミヒメのお世話になりつつ、魔法を発動してやっとあたった。7匹ほどいた餓鬼がミンチにかわっていく。
見た目、一番わかりやすく言えば、肌の色が緑色なら洋風にいえばゴブリンだろう。
だけど、浅黒い肌色をした餓鬼は、ゴブリンより人に近い。
人を殺した罪悪感。そんな言葉では表現出来ない何か酷い感情に押しつぶされそうになって、胃の中のものを吐き出す。吐き出すものが無くなって、胃酸だけになっても吐き気は収まってくれない。
「春人さん、餓鬼は奪う事でしか幸せを感じられない魂、殺してでも奪うって事は守るために殺されても文句は言えない存在です。身を守るために当然の事ですよ」
うまく感情をコントロールできなくなってる俺にナミヒメは優しく声をかける。
「泉の水を飲んでください。精神安定剤としても作用するはずです」
言われるがままにポーションを飲む。それでも少しの間、気持ち悪さがこびりついて離れない感じがして、落ち着かない。
「本来、こんな存在は紛れ込まないはずなんですけど、色々と異常事態の影響で例外が多いです。もっとフォローできればいいのですが、直接的な干渉は出来ないので。ごめんなさい」
泉のポーションの効果か、だいぶ落ち着いてきた。
「ナミヒメが謝る事でもないよ。それに、助言助かった。ナミヒメがいなかったらまた殺されてたと思う」
まだ体の震えは収まらないし、人っぽいものを殺してしまった罪悪感から気持ち悪さも残っているけど、ナミヒメに対応出来る程度には回復した。
「春人さんのような魂と、餓鬼のような魂は本来出会うことは無いんです。餓鬼はさっきも言いましたが、常に飢えて、他者から奪う事でしか幸せを感じられないどうしょうもない魂です。そんな魂にも神は救済を与えます。似たような魂だけ集めた世界で隔離して、奪い合わせる。残酷なようですが、それもまた救済の一つの形なんです」
救済になってるように感じないのは、俺自身が他者から奪う事に幸せを感じるような魂ではないからなのだろう。
奪うことでしか幸せを感じられない存在が幸せを感じられるような世界を作る。確かに救済の一つの形なのかもしれない。
「彼らを殺した事に罪の意識を感じる必要はありません。本来ここに居てはいけない存在なんです。あるべき世界に返してあげた、その程度に思ってください」
言葉の上では納得できても、感情というものは中々にやっかいだ。
「まぁ、頑張って慣れるよ。じゃないと何度も死ぬ事になりそうだ」
精一杯強がってみる。あたりを見回すと、ミンチになってた餓鬼がきれいさっぱり消えていた。
「あぁ、餓鬼達なら本来の世界に送還されましたよ」
言葉だけでなく、本当に本来の世界に返しただけらしい。たとえ見た目ミンチでも。
俺は自分が思っているよりも現金な奴かもしれない。餓鬼達が見えなくなると、途端に気分は晴れて、目の前に広がる海に興味が移る。
もちろん、泉製のポーションの効果も影響は大きいのだろうけど。
「さぁ、塩をたくさん作らないとな!」
ナミヒメがクスクスと笑う。ここからは神アプリの出番だ!
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