第7話 不測の事態と過剰武装
数日後、問い合わせていた敵の件について、返答があった。よく考えると俺とやり取りしてくれている神様の名前さえ俺は知らない。
丁寧な言葉遣いから、泉の女神像の女神様だと思い込んでいたけど、違う可能性もあるんだよな。
『北村様へ
お問い合わせのありました、敵性生物についてですが、簡単にですが調べることが出来ました。
本来、無条件に他者を襲うような生物は存在しないはずでしたが、小さいとはいえ世界そのものを急造したため、異物と呼べる要素が混じってしまい、危険な存在へ成長した可能性が高いことがわかりました。
ご不快な思いをさせたうえで恐縮ですが、一度確定した存在へは我々神は介入出来ません。無理をすると世界に歪みが生じて、最悪壊れてしまします。
北村様の助けになりますように、多少の武器を倉庫アプリへ送らせて戴きました、ご活用ください』
やっぱり神様の名前は書かれていない。現状では、たいして重要な情報ではないと言う事なんだろうか。
女神像の勝手なイメージから、剣や刀をイメージしていたけど、倉庫アプリに送られてきてたのはえらく近代的な武具だった。
ケブラー繊維製の防弾防刃ベストや、カーボン製の各種プロテクター、拳銃からライフルまでの各種銃火器。挙句の果てにはロケットランチャーなんてものもあった。それぞれに使用する弾丸は各種1,000発くらいは入っている、しかも、使った分だけ補充してくれるらしい。試し撃ちをした時に取り出した分だけ補充されてびっくりした。
何度も言うけど、道具がどれだけよくても、結果は使い方次第だ。俺がまともに命中させられるわけもなく、ちょっとはしゃいじゃったのは最初だけで、試射を終えた今では、大型のサバイバルナイフが一番頼もしく感じてしまう。
それでも、武装出来てるって安心感はものすごく感じる。特に、カーボン製の軽くて丈夫なヘルメットの安心感というと言葉に出来ないレベルで嬉しく思ってしまった。
「普通に撃ってあたらないなら、魔法でエイムアシスト作ればいいじゃん」
俺もやっと魔法という存在になじんできたのかもしれない。今回は失敗する前に気付けた。
とはいえ、魔法アプリは要素をうまく組み合わせて魔法をくみ上げる。いい感じに仕上げるまで少々時間がかかった。
魔法アプリの構造は、まるでパズルゲームのような感じになっている。
各種ピースは豊富に用意されており、細かく指定していけばきりがないのだけれど、大雑把にわけると『何に』と『何を』の二つだ。
『何に』に相当するのは魔法の対象物、ターゲットで、『何を』に相当するのが、魔法の効果だ。
着火の魔法を例に挙げると、何にが指先に、何をが小さな炎を。
頭の良い人だと、同じ効果を得るために、複数の方法が思い浮かぶのだろう。例えば、『何に』に相当する部分を、指定空間に、空間の指定方法にしても、空間魔法から相対的な座標取得しての座標指定とか、視線上の任意の位置に指定をしたりとか。
要するに、頭の出来次第でほぼ何でも実現出来そうなアプリが魔法アプリというものだ。そのかわり、相応のイメージ力を要求される。
応用の利かない俺なんかだと宝の持ち腐れ感がすごい。もちろん、要素の存在しないピースは実現不可能なのだけれど、例えば、時間に関するピースは存在しない。若返る魔法を作りたかったけれど、物体の時間に干渉するために必要なピースは存在しないのだ。
だから、醗酵が必要なものを魔法で作ることはできない。そっち系はクラフトアプリの領分なんだろう。
今回作るエイムアシストは『何に』の部分に銃口、つまり、銃を保持する手の部分を。『何を』の部分は、視線で指定した『敵』に向けて、つまりあたる弾道で手を固定するように組む。さらに、チェインと呼んでるシステムを使う。魔法が1セット終了したことをトリガーにして発動させるシステムだ。
今回は弾が発射された直後に弾道を安定させるため、弾道上を空間指定して、風属性で道を作って実際の弾道を安定させる。
くみ上げた魔法の発動キーワードはそのまま捻らず『エイムアシスト』とした。
「エイムアシスト!」
早速くみ上げた魔法を使った試射を行う。
結果は上々。視線が通る場所にならほぼあたるようになった。たまに外れるのは俺が認識出来ていない障害物があった場合くらいだ。
一度風に吹かれた木の葉が弾道上に割り込んで、アシストの風魔法に干渉した関係で5ミリ程的からずれた。100メートルの距離でその程度なら誤差だ。
「それにしても、神様も過保護だよな。おかげで不意打ち受けても即死って事態はなくなりそうだけど」
実体化した不純物とやらの排除は俺自身が行うしかない。今はまだそんな気力はないけど、いつかはやらなきゃいけないんだろうな。
陰鬱とした気分になりながら、嫌でしかたないけど、それでも俺は準備するのだった。
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