第6話 小さな問題と大問題
あれから数日たった。ログハウスも無事に作れた、だけど、着替えや洗濯とか小さな問題もあった。着替えは強い繊維質な雑草から布地、花を付ける植物から染料を作れてそれなりな服もアプリで作れたし、洗濯は魔法アプリで洗浄魔法を組み上げて何とかなった。
ただ、一つだけ大問題があって、あれから森の中に入ることが出来ない。
森の周辺までなら、なんとか耐えられるが、森の中に入って視界が遮られ、草原が見えなくなると体が震え、吐き気がするようになった。
実際に吐いたりはしないけど、気持ち悪くて仕方ない。地図アプリである程度の安全は確保できてるはずなのに、どうにも心配でキツイ。
「情けないけど、出来ないものは出来ないんだよなぁ」
いきなり殺されるような経験をして、それでも平気で同じ場所に行ける程、俺の神経は図太く無かった。
今の行動範囲でも、十分出来ることはあるので、急いで森の探索をしないといけないわけでもない。そんな風に気分をごまかしながら、俺はクラフトアプリで食器類の種類を増やしていた。
木製のナイフやフォークに意味があるのかは判らないけど、とりあえず作る。たとえ箸しかほとんど使わなかったとしても、何かしてないと気がまぎれないのでしかたない。
「他になんか必要になりそうなもの無いかな」
大量に切り倒した豊富な木材を使って、色々作る。作りまくる。
ログハウスに置くテーブルやタンスなんかも作りまくって、今日は日が暮れる。
日が暮れて暗くなりはじめて、やっと明かりがないことに気づく。
「明かりって言っても、今の材料じゃ松明くらいしか…。火事になるのは怖いし、今まで通り暗くなったらすぐ寝よう」
ここ数日、暗くなったら眠り、明るくなったら起きるという、超健康的な生活を送っていた。それはそれでいいのだろうが、いい加減光源になるものを作りたい。
レンガでも作ってログハウスに暖炉でも作ろうか。それはそれで、室内が暑くなってたまらない。
いつも通り煙草をふかしながら、明かりについて考えていた俺は、唐突に気付いた。
「俺バカじゃねぇか。光源なんて魔法アプリでどうとでもなるじゃん」
こういう所、本当に頭が回らない。愚図な自分を再認識して嫌になる。
まぁ、ここでは好き放題噂話するような他人も居ないし、いつもほどへこむわけでもないのだけれど。
一人きりで上等、誰にも迷惑かけないで済むし、神アプリのおかげで、自分で出来ない事も何とかなる。
だけど、何か物足りなさを感じてしまう。どうしょうもない俺を見捨てず、常に気にかけてくれていた親類に少しだけ申し訳なく感じてしまう。心配かけてないだろうか…。
『ピコン』
スマホの通知音がなる。ここでスマホに届く通知は神アプリ関係だけだろう。
『北村様へ
異常事態への対処に忙しく、状況説明さえ十分に出来なかった事、お詫び申し上げます。
現在、異常事態からの復旧作業に追われていて、満足にケア出来ない事をお詫びします。現状で北村様がお気になさっておられるであろうご家族関係ですが、北村様の戻られる予定の時間軸は、北村様がこちらにいらした直後へとお返し出来る予定です。
ご心配なく心安らかに過ごされる事を願っています。
また十分な返答、応答は叶いませんが、アプリ関係でのご不便など無いように、できる範囲で対応させていただく所存です。
要望等ございましたらこの度追加されたメッセージアプリを使ってお申し出くださいませ。
北村様が健やかなお時間をお過ごしいただけるように尽力いたします』
どうやら俺は、この箱庭でどれだけ時間を過ごしても元の時間軸へ戻してもらえるらしい。
と、いうことは、だ。戻ったら80歳とかいうことは無いだろう。ここでどれだけ時間が経過しても、俺の体は歳を取らないと言う事だと思う。寿命すら生きることを諦める理由にはさせてもらえないらしい。
「いつまでここに居なきゃいけないのかさえわかんないけどな。案外そのうちあっさり戻れたりするかもしれないし」
希望的な感想を口にして、気分をごまかす。この箱庭世界で天国みたいに過ごせるか、地獄のような苦痛にまみれて過ごすのか、それは全部自分次第だ。
「そういえば、敵についてなんにも情報なかったな。一応苦情ってほどじゃないけど、疑問をぶつけておくか」
神アプリシリーズに新しく追加されたメッセージ機能を使って、奇襲されて痛い目にあった事、神様が作ったばかりの世界でどうしてそんな危ない敵が存在してるのか。簡単に説明と質問をしておく。
他にアプリに関して不満なんて無いし、当面は身の危険を感じるその件についてだけだ。
いつ戻れるのかわからないけど、ここで死んで終わりに出来ない以上、ここで過ごす間はできる限り快適に過ごしたい。
自分の注意力次第だし、発想次第でどうにでも出来る力を与えられてるんだから、なるべく使いこなせるように頑張ろう。
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