第5話 意外と快適な生活
トラウマになって震える体を誤魔化しながら、森の浅い部分の木の伐採を始める。もちろん索敵魔法は発動してマップアプリで周囲の確認は怠らない。
昨日の奇襲は何者だったのか、未だにわからないままだけど、索敵魔法の効果時間中はマップアプリとリンクして半径300メートルくらいはマップ上に脅威を黄色~赤色の点で段階的に表示してくれる。今のマップには青い点しか表示されていない。
ちなみに、たいして脅威にならないものは青色の点で表示されるけど、最初の設定だと小さな虫まで表示されて青点だらけになったのでちゃんと設定で小動物程度に調整済みだ。
「ウィンドカッター!」
強く意識した目標に、不可視の刃が飛んでいく。カッコいいと思ってしまうのは男がいつまでも子供だからだろうか。
この魔法、大木と言える大きさの木を軽くなぎ倒す程度の威力はある。魔法発動前にカメラで対象指定して、倒れる前に倉庫アプリに収納する。何本か自分の方に倒れてきて焦って避けた経験から身に着けたちょっとした小技だ。
魔法の威力は十分だと思える程で、昨日のような奇襲さえ受けなければ大丈夫なように思えるけど、油断大敵。魔法耐性とかもってる敵がいるかもしれない、身体強化もキッチリ練習しないといけないな。
ある程度丸太を素材として集めたら、小屋を作るつもりでクラフトアプリを立ち上げる。レシピ上に表示される、小さな小屋と、『ログハウス』
うーん、これは悩む。もうちょっと木材を集めてログハウスを立てたい。ログハウスは浪漫だ。
どうせならログハウスを作りたいとおもって伐採に精を出してたら一日が終わった。
今日も野宿決定である。
ただ、森の近くに根菜類の群生地を見つけたので夕食は昨日よりは豪華だ。
「大根やジャガイモっぽい芋がこんなに美味く感じる日が来るとは」
葉野菜とハーブ系のスープだった昨日と比べるべくもなくお腹に溜まる。
例のごとくクラフトアプリで作ったスープだけど、ちゃんと温かいスープが出来るのがこのアプリの凄い所だと思う。
「草原をよく探したら、ひょっとして米とか小麦とか自生してるのかもしれないな」
いや、食べられるほどの量が自生してたら目立つし、それは無いかと、心の中でツッコミを入れる。
食後の煙草を楽しみながら明日の予定を考える。
明日もう少し丸太を集めたら念願のログハウス。とはいえ、金属系の素材はまだ見つけてないので作れないものも多い。
マップアプリで確認してみたら、ちゃんと鉱山も表示されてたけども、北へ三日間くらいは歩かないといけないっぽい。
「金属類は欲しいけど、森の深い場所は怖いんだよなぁ・・・」
奇襲してきた敵の正体もわからないし、何よりまともな武具が無い。
魔法アプリの力は凄いけど、俺自身使いこなせてないから役に立つかどうかも怪しい。結局道具の良し悪しよりも、どう使うかが重要なんだよな。
どんな凄い力持ってても、敵を殺す覚悟が無ければ宝の持ち腐れになりかねない。
今の俺にその覚悟があるとは思えないし、なんなら害の無い獣であっても殺せるとは思えない。
「肉食べたいけど、動物狩るって事は、殺すって事だよな、俺に出来るのかねぇ」
マップアプリに青点で表示される無害な動物。鳥や兎なんかは目視出来た。
だけど、魔法使って狩って食べるって発想にはならなかった。
「こんな状況なのにまだ甘い事言ってるんだろうな、俺は」
日本というぬるま湯で産まれて育った俺は、当然食肉加工なんて見た事も無く、動物を絞める所なんて見たこと無い。なんなら魚でさえ殺した事は無い。
俺が殺したことがあるのは、昆虫みたいな小さいものくらいだ。蚊とかGとか。
どこまでやれるのか判らないけど、50近くなるまで人生サボりまくってたようなもんで、その罰が当たったと思ってやるしかない。
なんせ死んでも痛い思いするだけで死ねないんだから、諦めてもそこで終わりって許してもらえそうもない。再構築されて強制的に人生の続きを生きる事になる。
「ある意味地獄だよな。人によっては夢にまで見た状況なのかもしれないけど」
人間、環境が変われば慣れる生き物だっていうけど、俺はそうは思わない。
環境、状況が変わっても、自分で自分を変える意思を持たなきゃ何も変わらないし変えられないと思う。俺自身が今までそうだった。変われなかった。
「変わりたいとは思ってても、具体的にどう変わるのかイメージ出来ないんだよなぁ」
変わった結果、夢も希望も無く働き続ける機械のようになるのが嫌で、じゃあ他に道はあるのかって言うと、現代社会だと宝くじに当たるくらいしか夢が無い。
子供の頃の様に夢見て努力するなんて無理な歳になっちまったのもあるけど。
プロスポーツ選手だとか、アーティストだとか。今の歳になるといかに狭き門なのか、無謀な夢だったのか、嫌という程理解してしまう。
「ある意味、今の状況は宝くじ以上にレアな状況なんだけど。もうちょい若けりゃ失敗上等、死んでも大丈夫なんだからって無茶もしたかもしれないんだけどな」
なんで俺なんだって想いもある。もっと異世界に夢を持ってる奴がこうなればよかったのに。
ストレスからか、立て続けに煙草に火を付けながらグチグチと考え事をしている。やっぱり人間、歳を重ねるとそう簡単には変われないらしい。
こんな状況でも、家とやってること変わらない俺が言うんだから間違いない。
根元まで吸い尽くしてもみ消した煙草をゴミ箱代わりに掘った穴に放り投げて即席ベッドへ横になった。
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