第3話 おっさんと神アプリと

 神様から送られてきたアプリ、適当に神アプリとでも呼ぶかな。

 神アプリがインストールされたからなのか、圏外になっていた表示は3Gでも4Gでもなく、GGと表示され感度MAXになっていた。GGってなんだ、ゴッドジェネレーションとでも言うつもりだろうか。

 神アプリを早速確認してみると、これぞ定番と言える機能が沢山あった。


 鑑定アプリ。

 カメラ機能を使って、中心にとらえた物の説明を見ることが出来る。


 倉庫アプリ。

 インベントリともいえるアプリ。これもカメラを使って物体をアプリに収納する。取り出す時はアプリ内の一覧から取り出したいものをタップすると、取り出せる。取り出す時もカメラ機能と連動して出す位置を指定する事も出来る。


 魔法管理アプリ。

 人間一人で出来る事なんてたかが知れている。その限界を超える為に用意された魔法という超常現象を管理するアプリ。魔法を構成する要素を組み合わせて望む結果を実現するゲーム的な構成。


 マップアプリ。

 周辺の地図を表示してくれる。拡大縮小はもちろん、目的地設定からのナビゲーションまでしてくれる。『比較的』安全な道順って説明に少しだけ不安になる。


 クラフトアプリ。

 倉庫アプリと連動していて、所持品から作り出せる加工品を一覧から選んで作ってくれるアプリ。原材料さえあれば色々と作ってくれる優秀なアプリ。


 各種チュートリアルやヘルプ機能まで完備した、至れり尽くせり。まさに神アプリといえる。


 若けりゃテンション上がる状況なんだろうけど、アラフィフの俺にとって、今更はしゃぐような状況じゃない。反対に、生きていくのに、こんなアプリが必要になるほど厳しい環境だって事に不安さえ覚えてしまう。


「まあ、ありがたく使わせてもらうけど。今気付いたけど、スマホのバッテリー表記、∞%になってんな。まったくどんな技術だよ。って神様に言ってもしょうがないけども」


 さっそく鑑定アプリで泉の水を鑑定してみる。


『神泉の水。飲用可。とても美味しい。飲んだり、傷口にかけると癒しの効果がある』


 なんだか早速すごい物が見つかったようだ。ポーションなの?これ。飲めるらしいので一口飲んでみる。味は特に無い、それなのにめちゃくちゃ美味しい水だった。


「水がこんなに美味いなんて…。生まれて初めてこんな美味い水を飲んだ」


 それから色々鑑定しまくった。泉の女神像を鑑定してみたら、どうやらスマホのアンテナ的な役割をしてるらしい。

 アンテナといっても電波ではないので、この世界に居る限りどこまで行っても圏外にはならないらしい。

 また、女神像周辺には俺以外の生き物が入れないエリアがあるらしい。いわゆるセーフティーエリアって奴だろう。泉から数メートルは雑草一本生えていない。当然泉の水にも、微生物すらいないという事になる。


 周囲の草原も鑑定してみる。草の中には、薬草的なものから毒草、毒消し、はてはニラのような食用の草まで生えていた。


「腹減ったけど、食えるのが草だけじゃなぁ…、やっぱり森に入って探さないとダメかなぁ」


 少し大きい石からクラフトした石のナイフと石のスコップでその辺の草を片っ端から収穫、収納する。収納したらアプリが勝手に仕分けしてくれる。便利だ。


 目についた物を集め、収納しながら考える。曲者なのが魔法管理アプリだ。魔法なんて力が必要になる以上、この世界の獣は想像以上に脅威なんだろう。それなりに準備が必要だと思う。


「死んでも大丈夫なようにって説明があったって事は、死ぬような事もあるってことだよな。備えあれば患いなしってね」


 魔法管理アプリで構築した魔法は、音声入力で発動出来るらしい。発動キーワードを設定していくが、今更小学生のごっこ遊びをしているような気になっていたたまれない。

 ある程度使い勝手の良さそうな『攻撃魔法』を組み上げてワード設定を終えると、俺は食い物を求めて森を探索してみる事にする。


「鬼がでるか蛇が出るか。行ってみますか獣道」


 マップアプリを確認すると、流石神様謹製のアプリ。細い獣道まで網羅されていた。森で迷子になってここに戻れなくなるって事はなさそうだ。

 まだ午前中だし、探索中に夜になる事は無いだろう。無茶はしないにしても、偵察くらいはしておきたい。


 原材料が石にしてはやけに切れ味の良いナイフを使い、足元の雑草を払いながら狭い獣道を辿って森の中を行く。

 鑑定アプリを使いながら、時に使えそうな木を伐採したりしながら森を進む。1時間以上獣道を進んだ頃だろうか。


「グギャーーー!」


 聞いた事も無い様な奇声というか叫び声がすぐそばで聞こえたと思ったら、後頭部に強い衝撃を感じる。痛みを感じる間もなく、吐き気を催すと同時に意識がプツリと途切れた。


 気付けば女神像の泉にプカプカと浮かんでいる。どうやら死んでしまって、また再構築されたらしい。

 衝撃を受けた後頭部は死ぬほど痛い。あまりの痛さに声すら出せないまま、体に勝手に入りすぎた力でエビぞり状態になったまま耐える。

 泉のポーション効果なのか、数分間で徐々に痛みは和らいできた。


「痛ってぇ…。なんだ今の…」


 何かしらの脅威はあるとは思っていた。だけど、奇襲するほど悪意に満ちた獣なんて想像の埒外だ。


「ここ、神様の作ったばかりの臨時の避難世界だろう。なんで奇襲してくるような陰湿な奴が居るんだよ!」


 まだズキズキとうずく後頭部の痛みを誤魔化すように、大きい声で愚痴ってしまう。


 野生動物とは思えない悪意を感じる奇襲攻撃にかなり動揺してしまっている。

 魔法アプリで攻撃魔法は設定したけど、索敵や危険察知なんて頭にまるでなかった。自分のうかつさを呪ってしまう。


「なにが備えあれば患いなしだよ。全然備えられてなかったじゃないか」


 だいぶマシになった痛みに呻くように、以前の自分に愚痴る。

 どんなにすごい力を与えられても、使いこなせなければ無意味だって思い知らされた。俺は漫画の主人公のようにはなれないらしい。


「ここに来た時と同じ状況って事は、俺、また死んだ?『死んでも大丈夫』の正体ってこれ!?」


 どうやら、死んだ俺は自動的に泉に再構成されるらしい。死ぬ時に負った傷の痛みは再構成が完全に終わるまで罰ゲームのように続くらしい。


 どのくらい意識が飛んでたかわからないが、時間はまだ午前中のはず。まる一日以上たってなければそう時間はたってないんじゃないかな。ってスマホに時計ついてるじゃないか。基本的な情報すら見落としてるような俺はやっぱり無能なんだろうな。


 やっぱり日付は変わっていない、午前11時過ぎか、まだ時間はある。だけど、無能なりにしっかりじっくりと準備してからじゃないとどれだけ痛い目にあうことになるか、分かった物じゃない。


「索敵魔法を組み上げて…、あ、マップアプリと連動出来るのか、この魔法。危険察知も組んでっと、これは反射神経のない俺には無意味かも…、まぁ、無いよりマシだよな」


 どうして出来たばかりのはずのこの世界に、あんな悪意に満ちた『敵』が居るのかとか、疑問ではあるけど、居るものは仕方ない、俺に出来る事といえば、やれる範囲で対策するだけだ。


「後は…、クラフトアプリ使って防具を何か…。せめてヘルメットだけでも。石だと重い。木製にするか…」


 やっぱり、異世界転移なんぞ、はしゃぐ余裕なんて無い。漫画やラノベの主人公ってどういう精神構造してるんだろう。

 木製で鎧のような物も作れる様だけど、残念ながら材料不足だ。どうやら太い丸太が必要らしい。


「死ぬほど痛い、というか、死ぬほどじゃなく実際死んでる訳で、トラウマものだよ、本当に。出来れば森になんて入りたくないんだけどな…」


 あれこれ悩みながらそれなりに準備を整えた時にはすでに夕方だった。

 食べられる草、主にハーブ類をたっぷり使ったスープをクラフトアプリで作って食べる。


「不味くはないけど、腹に溜まらないなぁ。ガッツリ食いたい。やっぱり森の探索は必須か。嫌だけど、死ぬほど嫌だし、死ぬほどじゃなくて実際に死んじゃうけど。行かなきゃ草だけで餓えるのはつらい…」


 日が落ちてきたので、たっぷりと採取した雑草と、クラフトアプリで作った雑草の繊維を織り込んだ布モドキでベッドを作り泉の近くで眠ることにする。

 明日はどうなる事か、不安しかないけど、ふだん運動不足の体は今日歩きまくっただけなのにしっかり疲れてあっという間に寝てしまった。

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