第4話 時間切れ

「もう時間はない。最後にしたい事はあるか」


私は考えた。最後にしたい事


「おかあさんに会いたい」


「私、死んだんでしょう?最後にお別れを言いたい」


ここが天国か地獄か知らないけれど、死人が生きている人と話せるのだろうか。


私は涙を浮かべながら、無理だと思いながらお願いをした。


「良いだろう」


その声で顔を上げると、私は懐かしい家の前にいた。


私は震える手でインターホンを押した。


懐かしい声が近付いてくる。私は意を決してドアを開けた。


「ただいまー!近くに寄ったから来ちゃった!」


とても他愛もない事を話した。悲しいこと、悩んでいる事、謝りたい事は話さなかった。


死神が腕の時計を横に切るジェスチャーをしている。


「おかあさん電車の時間があるから今日はもう帰るよ」


母は名残惜しそうにしてくれた。


「それじゃあまた来るから元気でね!」


私は精一杯の笑顔で、こちらに手を振る母が見えなくなるまで走った。


そして、一つ角を曲がり私は座りだした。


「どうした!早く戻らないと時間切れだぞ!」


「生き返る資格も無くなるんだぞ!」


死神は焦った声で言った。


「ううん。良いの」


「きっと一時間を一番楽しんだ人に私はなってないと思う」


死神は言葉を続けられない。


「だから、最後の一瞬までお母さんのそばに居たいの」


「本当に良いのか」


「うん」



「あなたは。私が行かないと迷惑が掛かるの?」



もはや死神は時計を見ていない


「いや、良いんだ。君がしたいことをすれば良い」


もう時間が過ぎたのだろう


「死神ちゃん。ありがとう」


下を向いて座る私の後ろに黒い影がただ立っていた。

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