第2話 一時間の死神

「どうした。お前は行かないのか」


背後の影がささやくと、私はやっと我に返った。


「え、私どうして良いか」


「たった一時間しか無いんだ。他の者たちは競うように行ったぞ」


もはや影で無くなった大柄な者が私の手を掴んで歩きだした。


「でも私何して良いか分からない」


「まずは町に向かうんだ。」


半ば引きずられるように歩いていると、次第にレンガで作られた小屋の中に入り、悪魔の顔を持つ者は当たり前かのように壁に向かっていった。


「ちょっと待って!これ以上は進めない!」


なんと掴まれた左手は壁の中に入り、私の体と右手はレンガの壁に抵抗していた。


「お前は体を持ってはいない。だから心が壁を意識しなければ無い事と同じだ」


「そ、そんな事言われても!」


引っ張られた左手を頼りに抵抗を諦めると、次第に上半身が壁をすり抜け初めた。


「きゃー!落ちる!」


壁の外は落ちたら助からないであろう高さと、遠くまで町並みが広がっていた。


「高さも同じだ。意識をしなければ落ちない。」


私は必死の思いで、空を飛ぶ事をイメージした。


その間も左手の先は、やさしく私を地面に導いてくれた。


「こ、怖かったー」


「よくやったな。さあ、何をしたい?」


私は激しくなった呼吸を整えながら言った。


「ありがとう。あなた親切なのね」


「仕事だからな」


「まずはあなたの名前を教えて」


「名前か。名前は無いが、死神と呼ばれる事はある」


「なら死神ちゃんね!」


死神は何も言わなかったが、照れを隠すように向こうを向いた。


私は少し楽しくなってきた。

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