第9話恋愛の美学 その三

少し怒り気味で持論を展開なさる姫の姿はまさしく「素朴なところ」でございまして、化粧の薄い姫のお顔、特に宝物のような眼を宮はご覧になりまして、

(もしこの世界に数学のような原点があるとしたらそれはまさしく彼女の右目か左目のいずれかであろう)

とそうお考えになります。

「ましてや、これは私の学校にもいる部類なのですけど男女が必要以上に近づきあっているのもはしたないとそう思います。勿論、二人がきちんとした手順を踏んで、愛し愛される間柄であるなら、それは当然の事ですからいいのですけど、まだ付き合って幾分かというのに、無闇に膝に座ったり、顔を触り合っているのは、それは正しく不信感の裏返しでございましょう。心と心が通じ合っていないからこそ、体と体が通じ合っていないと不安になるのです。そして、錨を降ろしていない船を持った気分になって顔を触ったりするのですよ。嗚呼あさましい。私ならこんな事は絶対致しません。側から見ていても、手を繋ぐだけでドキドキするような間柄の方が尊くて応援したくなるものですよ、たとえその人が私の好きな人であっても、です」

とおっしゃいまして、「はぁ」と深くため息をつかれました。

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