第128話 魔王、カツラの群れを運ぶのじゃ

「「「ピッピッピッ」」」


 世界獣から脱出したわらわ達は、どこかに向かおうとするカツラを追う事にした……のじゃが。


「遅いのう」


 そう、カツラ達は見た目が見た目だけあって、その移動速度は非常に遅かった。

 先ほどの下山速度は坂道だからこそで、これがこ奴らの普通の速度という事じゃな。

 それに……


「グルオォォウ!」


 魔物達がカツラ達を襲おうする為、余計に移動速度が下がっておった。


「まったく」


 ズシャッという音と共にルオーダの産み出した刃が魔物を切り裂く。


「こんな事をしている暇があるのですか? 今から世界獣まで戻って祭壇の場所を探した方が良いのでは?」


 まぁのう。ルオーダの懸念はその通りではあった。

 じゃが、わらわはこやつ等毛玉が何をしたいのかも注意せねばならんと感じておった。


「のうルオーダよ、世界獣で暮らしている魔物達どうやって暮らしておるのかのう?」


「は? それはどういう……?」


「世界獣の体の上で生まれ育ち、そして死ぬのか? それともどこか他所からやって来て縄張り争いをし、勝った者だけが世界獣の体の上で暮らす事が出来るのか?」


「そうですねぇ、あれだけ強力な魔物が無数にいるのですから、外から縄張りを求めてやってくる可能性は低いです。基本獣が生まれた土地を離れる理由は縄張り争いに負けたからですし、それなのに強い魔物が居る場所に来る理由は薄いかと。ですから生まれてから死ぬまでずっといるのではないでしょうか? あれだけの非常識な巨体ですもの。それこそ体の別の部位に移動すればいいだけでしょうし」


 そうじゃな。わらわも同意じゃ。


「であれば、カツラ達は何故世界獣の元に戻らんのじゃ? あ奴らは魔物達に襲われなんだ。ならば縄張り争いとは無縁の存在じゃろ?」


「それは……何故戻らないんでしょうか?」


 わらわの問いに自身も疑問を抱いたのか、ルオーダは首を傾げる。


「あ奴等がどこかに行こうとしているのは、世界獣が動き出した事と無関係とは思えぬ」


 だからこそ、カツラを追う必要があると判断したのじゃ。


「とはいえ、これでは遅すぎるぞ。今動いている世界獣を放っておくわけにもいかん。二手に分かれるべきじゃろうな」


 そこでクリエから二手に分かれて行動するべきではないかと意見が出る。


「わらわは世界獣の祭壇を探す為に戻る。お主の部下を貸せ」


「分かった。テイル、お主等はクリエについてゆけ」


「承知しました」


「ふえぇ!? メイド長じゃなくて私がですか!? あの魔物の群れの中に!?」


 自分も行けと言われたテイルが真っ青な顔をして抗議の声を上げる。

 やれやれ、相も変わらず自信がない奴じゃのう。


「お主の実力ならあそこでもなんとかやり過ごせる。実戦経験を積む良いチャンスではないか」


「いやいやいや、普通に攻撃が通じない相手もいましたよ!」


「世の中何時でも勝てる相手だけとは限らん。格上との戦いを経験しておけ。なーに、いざとなったらクリエがおる。最悪でも死にはせんよ」


「最悪の場合死ぬギリギリの状況になるって事ですよねー!」


 全く、想像力だけは一人前じゃな。


「では邪神の眷属と共に行動するか? 今は休戦しとるが、いつ襲ってくるか分からん相手じゃぞ。そんな奴の隣を歩きたいか?」


「クリエ様と祭壇を探してきます!」


「うむ」


 流石我が弟子。決断が早い。


 ◆


「まぁしかし飽きたの」


「は?」


 クリエ達と分かれ、カツラ達を追っていたわらわじゃったが、あ奴らの移動速度が遅すぎてすぐに飽きた。


「ちょ、ちょっと! 幾ら退屈でも王と言ったのは貴方じゃないですか!」


「まぁそうなんじゃがな。このペースじゃといつ目的地に着くか分かったもんではないわ」


 という訳でもっと手っ取り早く移動する事にする。


「メイア、カツラ達を集めよ」


「畏まりました。全員集合!」


「「「ピッ?」」」


 メイアが呼ぶと、カツラ達は何事かと集まって来る。

 うむ、狙い通りじゃな。カツラ達は自分達のヘアスタイルを揃えてくれたメイアに懐いて居る。

 いざと言う時にメイアが居ればカツラ達をある程度統制できるという訳じゃ。


「それで、これからどうするのですか?」


「こうするんじゃよ。フロートアース」


魔法を発動させると、わらわ達を中心に周囲50メートルほどの地面が浮き上がる。


「これは!?」


「よし、カツラ達よ。動いてよいぞ!」


「「「ピッ!」」」


 わらわの許可を得たカツラ達は、再び移動を開始する。


「あっちじゃな」

 

 その方向を確認したわらわは、浮き上がらせた地面をカツラ達の進行方向に向けて移動させる。

 ただしその速度はカツラ達よりはるかに速いが。


「成る程、こういう事ですか」


 わらわの意図を理解したルオーダが納得の声を上げる。


「このかりそめの地面の上を歩かせる事で、あの生き物が向かう方向へ先回りさせようと」


「うむ」


 そして浮き上がった地面の上でカツラ達が向きを変えたら、それに合わせて進む方向を変える。

 カツラ達が浮いた地面の端に近づいたら、メイアが呼び戻して再び移動を再開するという訳じゃ。

 まぁ以前毛玉スライム達を島に運んだやり方と同じじゃな。

 そんな風に高速で移動をしていたわらわ達は、カツラ達がどこに行こうとしていたのかを理解する。


「あれが目的地か」


 カツラ達が向かおうとしていたのはとある山脈のふもとじゃった。


「これは……凄いですね」


「尋常な光景ではありませんね」


 ルオーダ達が驚いたのも無理はない。何せその山脈は一部がごっそりと削り取られた形をしておったからじゃ。


「あそこに世界獣が眠っておったという事か」


 であれば、世界獣たちは何故ここを目指したのじゃ?

 世界獣が居なくなった、何もない土地に。


 その答えをわらわ達はすぐに理解することになる。

この地に眠る驚愕の事実を目にする事で。

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元魔王様の悠々自適な南国、モフモフスローライフ~部下に裏切られたので、これ幸いと引退して楽しく暮らすのじゃ~ 十一屋翠 @zyuuitiya

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