第125話 魔王、邪神の使徒と手を組むのじゃ!?

「……とりあえず一時休戦といきませんか?」


 リュミエが去り、残されたわらわ達が呆然としておると、ルオーダが口を開いた。


「そうじゃな。ことここに至ってはお互いの立場もへったくれもない。まずは情報を出し合うべきじゃ」


 よもや第三の敵の出現によって、世界初の邪神の使徒との暫定的な協力が結ばれることになろうとは、人生何があるか分からんのう。

 本当に、原因が原因でなければ歴史的な出来事なんじゃがなぁ。


「そもそもじゃ、お主等は何の用でここに来たんじゃ? 世界獣を復活させる為にやってきたにしては、随分と時間が経ちすぎておるが」


 既に世界獣が動き出して数日が経過しておる。

 世界獣を復活させることが目的なら、既に目的を達成して帰っておるはずじゃ。

 わらわは事態がややこしくなった原因である邪神の使徒ルオーダを問い詰める。


「我々は宰相に……、いえ彼女の意図が分からない以上最初から話した方が良さそうですね」


 そう言ってルオーダは自分達がここにやってきた事情を話し始める。


「もともと私達はエルフの国を混乱に陥れる為にやってきたんです。人族の国がエルフの国に制圧されて、これまでの暗躍が無駄になってしまいましたからね」


 そういえばそんな事があったのう。アレにはわらわ達も驚いたもんじゃ。


「それで篭絡したエルフの有力者達の人脈を渡り歩いていった結果、宰相の所まで辿り着いたのです」


「……」


 こともなげに言っておるが、それで一国の宰相と顔を合わせる事が出来るなど、相当の物じゃぞ。

 やはりこ奴はこれまでの邪神の使徒と少し違うの。

 おそらくは実務よりも裏方、策謀を企むことが得意な者と見た……んじゃが、何か釈然とせんな。

 

「そして宰相と話をしたところ、彼女から妹である女王への鬱屈とした思い、秘めたる憎しみを感じ取った私は彼女を唆してエルフの国の機密である世界獣の復活と暴走を引き起こしたのです」


「「ああー」」


 そこでわらわとクリエは全てを察した。


「成程な。そういう事か」


「どういう事ですか?」


 リュミエの事をよく知っているわらわ達と違って、あ奴の事に詳しくないルオーダは何が問題だったのかと尋ねてくる。


「つまりじゃな。お主は姉上に泳がされておったのじゃよ」


「私が? 泳がされて?」


「もっと詳しく言えば、お主はリュミエの元までくるように、導かれていたのじゃ」


「私が!? そんな筈はありません! 私が目を付けたエルフは最初にエルフの国で見つけたエルフだったからですよ! このエルフなら心の隙を付けると足掛かりにしただけです。宰相との接触を狙って選んだわけではありません」


 じゃろうな。リュミエと接触するつもりなら、ルオーダも念には念を入れて動いていた筈じゃ。

 いや、これまでの活動で気を抜いていたわけではないじゃろうが、相手が悪かった。


「確かにお主は偶然その者と接触したのじゃろう。しかし相手は姉上じゃ。おそらく姉上はエルフ国で何らかの暗躍、この場合複数の有力者に接触する外部の者達が現れた際に、ある程度の水準を超えた者は自分の元へやって来るように仕込みをしていたのじゃろう」


「まさか! そんな事が!」


 出来る筈がないとルオーダは否定する。じゃがな、


「姉上なら出来る。姉上は数千年の間この国の陰に君臨してきた影の女帝じゃぞ。それこそお主を誘い込む仕込みの役割を持っていた者達も、自分達が何をしているのかまるで気づかずお主を姉上の元へ送った筈じゃ」


「そんなバカな……」


 確かに普通に考えればそんなデタラメな真似をできる者は居ない。

相手がただの愚か者か子悪党ならともかく、邪神の加護を受けた使徒のような権謀術数の世界の存在にそれを気づかせずに誘い込むなど普通は不可能じゃ。

 それこそ途中で違和感に気付いて姿を晦ましてしまう。


 じゃが相手はリュミエール。エルフの国始まって以来の天才と呼ばれ、同時に溺愛する妹の為なら世界を敵に回すことも厭わぬ異常者。

 ついでに言えば、妹を人質に取ろうものなら、それすら利用して妹を育て上げる為の糧にしてしまう正真正銘の天才じゃ。

 他非常に迷惑なおまけつきじゃが。 

 そもそも、あの腹黒が出会って数度の相手に弱みを見せる訳がない。


「そもそも姉上が出会って間もない異国の者の本心を見せる訳が無かろう」


 うむ、実の妹のお墨付きじゃな。


「それじゃあ本当に女王を育てる為に世界を破滅の危機に晒しているというのですか!? いくら何でもそれはあり得ないですよね!?」


「「……」」


 わらわとクリエはお互いに視線を交して苦笑いする。


「そこは否定してくださいよ!」



「で、世界獣の復活がリュミエによるものなら、お主等は何故ここに来たのじゃ?」


「……宰相に言われたんです。世界獣の体には、かの存在とコンタクトを取る為の祭壇があると。女王が世界中を鎮めようとするなら必ずそこに現れる。それを阻止する為、祭壇を破壊して欲しいと頼まれたんです。我々も協力者である以上、そのくらいの仕事は宰相の信頼を得る為に引き受けるべきだろうと判断したのですが、それがまさかこんなことになるなんて……」


「あー、クリエ、これはどう思う?」


 わらわはルオーダの言葉の意味をクリエに問う。


「そうじゃな。間違いなく姉上がわらわとぶつけて戦わせる為に送り込んだんじゃろうな」


 やはりそうなるかぁ。

 つまり話の流れとしてはこうじゃ。


 リュミエは邪神の使徒が自国にちょっかいかけてきた事に気付いた。

 そこでクリエに翻意アリと思わせて連中を利用する事にした。

 真の目的は断定できんが、溺愛しているクリエが関わっているのは間違いあるまい。


「しかしそれなら邪神の使徒を騙していたとこのタイミングで明かす理由はないじゃろ。まだ何か裏があるとみるべきじゃろうなぁ」


「そうなんじゃよなぁ……というか、このままだと本当にマズいのじゃ。今はまだ国内の問題じゃからごまかしがきくが、このまま世界獣が国外に出たら、間違いなく大事になる! 最悪元凶が姉上にあるとバレたら、エルフの国は世界中から目の敵にされるのじゃ!」


「その前に世界が世界獣に食われてそれどころではなくなると思うがな」


「「……はぁ」」


 わらわ達はこれから待ち受ける厄介ごとを思い、深いため息を吐く。


「あの、これってもしかして私も厄介ごとに巻き込まれたってことですか?」


 うむ、その通りじゃよ。


「間違いないの。お主を巻き込むために邪神の最終目的の妨害まで計画に組み込んでいきおった。じゃからお主が逃げ出してリュミエの陰謀を阻止する事に失敗したら、本当に邪神による世界の滅亡は叶わなくなるじゃろう」


 普通に考えれば邪神の目的阻止とか良い事の筈なんじゃがのう。

 問題は最悪の事態を避ける為に別の最悪の事態がやってきたという点か。


「なんでこんな事に……」


 そりゃわらわ達が言いたいわい。

 邪神の使徒の野望を阻止しようとしたらその悪党が利用されておったわらわ達の気持ちを察して欲しいのじゃ。


「とにかく、目的は世界獣を鎮める事。その為にもクリエを祭壇に連れて行く必要がある。お主等使徒の目的の為にも、ここは協力してもらうぞ」


 わらわが協力を要請すると、ルオーダは眉間にしわを寄せて唸る。

 しかし悩んでも答えが出ないと悟ったのか、すぐにため息を吐いて肩をすくめる。


「分かりました。事情が事情です。協力しましょう」


 こうして、史上初の地上の民と邪神の使徒による共同戦線が開かれたのじゃった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る