第123話 魔王、新たな邪神の使徒と遭遇するのじゃ

「わたくしの名はルオーダ。邪神の使徒ルオーダと申します」


 エプトム大司教と共にいた女の正体は、やはりというか邪神の使徒であった。


「邪神の使徒が二人か。面倒じゃな」


 邪神の使徒は、邪神から特殊な力を授かる。

 死んだはずのエプトム大司教が生きているのもそういう事なのじゃろうな。


「邪神の使徒が世界獣に触れるなぞ不敬千万! 万死に値するわ!」


 瞬間、膨れ上がったクリエの殺気に邪神の使徒達が飛びすさる。

 しかし背後にそびえ立っていた木々に体を拘束されるエプトム大司教。


「何!?」


「あら怖いわ」


 対してルオーダと名乗った女は死角からの軽々と拘束を逃れる。

 ふむ、あの者の方が戦い慣れておるようじゃな。


「一匹か。まぁ良い。潰れて死ね」


「ぐぼぁ!?」


 ルオーダに避けられたはしたものの、クリエは驚くことも無く捕えたエプトム大司教を木々で握り潰す。


「残るはお前だけじゃ」


「まぁ怖い」


 強い殺気を放ちルオーダを睨むクリエ。

 じゃがわらわはその光景に注視せず、潰されたエプトム大司教を見ていた。


「っ! 避けろクリエ!」


「っっ!」


 わらわの警告を受けたクリエが振り返ることもせず横に跳ぶ。

 直後、クリエが居た場所に刃が突き込まれた。


「っ、死角からの攻撃を避けられましたか」


「貴様、何故動ける?」


 クリエを襲ったのは、握りつぶされた筈のエプトム大司教じゃった。


「ひっ」


 エプトム大司教を見たテイルが小さく悲鳴を上げる。

 それもその筈。クリエの操った木々によってその体は握りつぶされ、手足などあらぬ方向に曲がっておったからじゃ。

 なのにエプトム大司教は起き上がり、クリエを攻撃した。


「首の骨がへし折れて死なぬとは、さすがは邪神の眷属じゃのう」


 そう、普通に考えれば戦うどころではない。

 じゃが肉体がローゼスの時と違い傷が回復する様子も見えん。となると……


「あの体、使い捨てじゃな」


「クリエよ、そやつの体をいくら攻撃しても無駄じゃ。本体を叩け!」


 わらわが指示を飛ばすと、エプトム大司教の顔色が変わる。

 まるで、何故分かったとばかりに。


「貴様、何故……っ!?」


「やはり戦闘向きではないのお主は」


 エプトム大司教は即座に後ろに跳び退り、あからさまに距離を取る。

 じゃがそのような行動は全く飲む意味じゃ。


「ぐっ!?」


 エプトム大司教の足を貫いて木の根が飛び出す。


「無駄じゃ。ここは我等エルフの守護神、世界獣の懐じゃぞ。貴様らに逃げ道などない」


 そして周囲の木々がエプトム大司教の体を次々に貫いてゆく。

 するとエプトム大司教の体から、次々に木の芽が生えてゆく。


「こ、これは……!?」


「ひっ、な、なんですかアレは!?」


 エプトム大司教とテイルが同時に困惑の声を上げる。


「あれはクリエの魔法じゃ。攻撃した相手の体内に種子を植え、木の根を張り巡らせ、その肉体を新たな木の苗床とするのじゃ。それも猛烈な勢いでの」 


 そう語っている間にもエプトム大司教の体から種子は伸び、枝となり、蕾が膨らんでゆく。


「お、おおぉぉっ」


 そしてどんどん枝は大きくなり、エプトム大司教の体が膨らんでゆく。


「そら、開花じゃ」


 最後、エプトム大司教の肉体が引きちぎれると同時に内部から太い幹が伸び、巨大な大木が姿を見せると、その枝から一斉に花が咲き乱れる。


「わぁっ……」


 燦然と咲き誇る花々は、その華やかさとは裏腹に、直前の凄惨な光景と相まって怪しい美しさを見せつける。

 と、同時にコロコロと赤い物が転り落ちる。


「ふむ、これが本体か」


 それは禍々しい輝きを放つ赤い宝石だった。

 何も知らなければあの木から落ちた木の実と勘違いしていたかもしれんの。

 じゃが、邪神の存在を知っておるわらわから見れば、これから迸る邪神の力を感じずにはおれん。

 この本体さえあれば何度でもやり直す事が出来る。それこそがエプトム大司教の真の邪神の加護であったか。

 おそらくこれまで幾度となく体を変えて生きてきたのじゃろうな。


「今度こそ死に果てよ」


 クリエが高密度に凝縮した魔力を宝石に向けて放つ。


「あら、それは困りますわ」


 地面から生えた刃がクリエの魔力弾を阻止すると同時に、宝石が何かにかすめ取られる。

 それはルオーダの手のひらから生えた鞭のようなものじゃった。

 ルオーダはエプトム大司教の本体である宝石を受け取ると楽しそうに笑う。


「ふふ、素晴らしいですわね。エプトム大司教からこのように美しい花が咲くなんて」


 ルオーダは仲間がやられた事を怒りもせず、咲き誇る花を愛でていた。

 

「仲間がやられて楽しそうじゃの」


「まぁ、そんな事はありませんわ。わたくしとても悲しんでおりますのよ」


 ですが、とルオーダは続ける。


「それ以上にエプトム大司教から生まれたこの花の美しさに感動しておりますの」


 と、ルオーダは先ほどまでエプトム大司教であった木の枝の先に咲く花を撫でる。


「死してなおその身は花となる。とても美しい末路ではありませんか。どうですかエプトム大司教、体を新調したらまた話にしてもらいません? きっととても美しい花畑になると思いますわよ」


 いかにも名案とばかりにルオーダはエプトム大司教の本体に語りかける。


「ならばお主も花になるがよい」


 クリエの鋭い言葉と共に、再び周囲の木々がルオーダを狙う。


「あらあら、それは光栄ですが、まだわたくしにはやるべき事がございますのでこのあたりで失礼いたしますわね」


 ルオーダは無数の枝による攻撃を回避すると、ふわりと跳んで距離を取る。


「逃がすと思うか!」


「逃げます。流石にこの状況は分が悪いですので」


「いや、そうはさせんよ。わらわ達としても邪神の使徒はここで始末しておきたいからの」


 相手が邪神の使徒なら、依頼だからとクリエにばかり働かせるわけにはいかん。相手はこの世界を滅ぼすことを目的とした邪神の先兵。殲滅できるなら確実にやっておきたい。

 クリエがいるこの状況はぜひとも活用せねばな。


「まぁ、怖い。こんなにエルフの方々に囲まれてはわたくし恐怖でどうにかなってしまいそう」


 まったく恐ろしいとも思っておらん様子で白々しいことを言うルオーダ。


「こうなったらわたくしも仲間を呼ぶことにいたしましょう」


 ここで伏兵か! じゃが敵の気配はない。ハッタリか?


「おいでくださいませ、リュミエール様!」


 ルオーダがリュミエの名を呼ぶ。


「「…………ん?」」


 と、同時にわらわとクリエから疑問の声が漏れる。

 いやこ奴、今なんと言った? リュミエールと言わなんだか?


 次の瞬間、空間に転移魔法特有の空間のひずみを感じる。


「あら、もう出番ですか?」


 そこから現れたのは、リュミエだった。

 間違いなく、クリエの姉のじゃ。


「「………………は」」


「まぁ良いでしょう。そろそろ見ているだけなのも暇でしたから」


「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?」」


 何でリュミエが来るんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

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