第118話 魔王、弟子の成長を見守るのじゃ
「どうやら何者かが世界獣に対して何かをしようとしておるようじゃの」
世界獣と交信するべくその巨体へと乗り込んだわらわ達じゃったが、そこで未知の勢力による戦闘痕を発見したのじゃった。
「リンド様、この様子からして、戦闘が起きたのは比較的近い時間だったと思われます」
すぐさま戦闘痕を調べていたメイアから、ここでの戦いがつい最近起きたものだと判明する。
「と言う事はここで戦った者達は近くにおるという事じゃな」
「そ、それってもしかして鉢合わせたら戦闘になるってことですか!?」
「わらわも知らなんだエルフの守護獣に手を出そうとしておるのじゃ。間違いなく口封じをしにくるじゃろうなぁ」
「そ、そんなぁぁぁ! 世界獣の魔物達だけでも怖いのにそれに勝てる相手までだなんてー!」
未知の敵との戦闘が起きるかもしれないと知って、テイルがプルプルと震えだす。
相変わらず気弱な奴じゃのう。
お主だって世界獣に巣食う魔物相手に優勢で戦えるじゃろうに。
まぁこれはこれまでの境遇が影響しておる故、矯正は時間がかかるじゃろうなぁ。
「では修行を兼ねてこれから先に現れる魔物は全てテイルに相手をさせましょう」
「ふぇっ!?」
そして間髪入れずに提案されるメイアの鬼の訓練プラン。
「むむむ無理ですよメイア先輩!!」
「無理と思うから無理なのです。ああ、そうですね。では貴方がやる気になる様にこうしましょう」
「え? もしかして新しい魔法書を読ませてくれるとかですか?」
やる気を出す為と言われてテイルが耳をピンと立たせる。
「怯えて無駄に時間を消費しても意味がありませんから、制限時間をつけましょう。制限時間を越えたらお仕置きです」
「それ全然やる気でないんですけどぉーっ!」
「危機感は出るでしょう? ああ、一戦闘ごとに時間ギリギリまで戦われても無駄なので、目的地に到着するまでの総時間とします。弱い敵相手に無駄に時間をかけていたら後々後悔することになりますよ」
「さらにひどくなったぁー!」
「おっと、さっそく魔物が来たようですね。ではスタート。頑張って時間内に目的地に到達してください」
「それルール変わってませんかぁーっ!?」
悠長に戦闘痕を調べていた事で、巻き添えを畏れてこの場から離れておった魔物達が戻って来たようじゃ。
「おー、連中縄張りで好き勝手された事で怒っておるようじゃの」
「私達の所為じゃないのにぃー!
魔物達は先の戦闘の影響か皆殺気立っており、我先にとわらわ達に襲い掛かって来る。
「リンド様達は手出しをされませんように」
メイアは結界を張ると、一人結界から締め出されたテイルに声をかける。
「攻撃だけでなく、防御、防毒、防麻痺にも注意しなさい。死にかけても助けませんが、死ぬ直前には治療してあげますので安心して戦うように」
「それ全然安心できないんですけどぉーっ!」
その悲鳴を合図に戦闘が始まる。
テイルは四方八方から襲ってくる魔物達を必死で回避したり防御魔法でいなしたりしながら、速射性の高い魔法で迎撃してゆく。
しかし速射性が高い魔法はその分威力が低く、相手を押しとどめる事は出来ても有効打を与えるまでにはいっておらんかった。
「ふむ、速射性の高い低位の魔法では貫けんか。これは中級冒険者でないと相手にならんのう」
あの様子を見る限り、単純に攻撃力が高くないと策ではどうしようもないの。
戦闘力の低さを策で補うタイプの冒険者パーティでは厳しいところか。
「お主の苦戦しておるようじゃがええのか?」
「問題ない。この程度の相手に倒されるようなやわな育て方はしておらんからな」
悲鳴を上げて逃げ惑うテイルを見て大丈夫なのかと不安顔なクリエに、わらわは問題ないと断言する。
そう、全く問題ないのじゃ。
「なら、上から!」
テイルは飛行魔法で上空に避難すると、すぐさま世界獣の魔力気流に飲み込まれる。
「うひぃぃぃぃっ!?」
慌てて全力で魔力を放出して魔力気流から抜け出すテイル。
「世界獣の上空は魔力気流で飛行は困難じゃと言われたじゃろ。上に行き過ぎるでないぞ」
「は、はい~」
テイルはギリギリ魔力気流に飲み込まれない高度を維持して空中に位置どるが、それでは高度が足りないようで、魔物達からの遠距離攻撃や投石、投木攻撃の集中砲火にあう。
「うわわわっ!」
それでも接近戦で組みつかれる危険が減った分動きに余裕が出来たようで、テイルは魔力を練り上げると、魔物達へ掃射を開始する。
「えぇぇぇぇぇい!」
高密度に固めた小型の魔力の塊が魔物達の体を貫いてゆく。
「ほう、魔力を圧縮して威力を高める事で貫通力を増したか。しかしその分魔力弾が小さくなって効率が悪くなっておるな」
面の攻撃を点にすれば、貫くは容易になる。だが針を一本や二本さした程度で人が死ぬことないのと同じように、魔物を倒すには役不足じゃ。
「確かにな。じゃがアレをみよ」
わらわが攻撃を受けた魔物達を指差すと、そこにはテイルの魔法を喰らって地に倒れ伏した魔物達の姿があった。
「むむっ!? あの攻撃で倒したというのか!? じゃがどうやって?」
「その答えは簡単じゃ。テイルの魔法の軌道をよく見て見よ」
今度はテイルから放たれた魔法が魔物にどう向かってゆくのかを指摘する。
「これは……そうか、脳天を狙っておるのか!」
そう、テイルは自らの魔法を襲ってきた魔物達の脳を狙って放っておったのじゃ。
「大抵の魔物は頭脳を狙えば死ぬ。最悪でもまともに動くことが出来なくなる。だからテイルは魔法を誘導式にして脳天を貫いておったのじゃ」
上空に逃げたのも、攻撃を上空から俯瞰で見る事で、魔物達の頭部を狙いやすくする為じゃな。
ほどなく魔物達はテイルの魔法によって全滅し、周囲には死体の山が築かれる。
「ふむ、お主の弟子もなかなかやるではないか」
「じゃろう」
魔物の討伐を成功させたテイルが降りてくる。
「ひぃ、ひぃ……こ、怖かったですよ……」
動き回りながら魔力を大量に使って疲れたからか、テイルは肩で息をしておる。
「うむ、よう頑張ったの」
「わ、わーい、師匠に褒められたぁー……はひぃ」
うむうむ、これならこの先の魔物相手でも十分戦力になるじゃろ。
「魔力の消費に無駄が多いですね。対処法を思いつくまでにも時間がかかりすぎです。次からはもっと早く決断しないと、魔力も体力も持ちませんよ」
「は、はいぃ~」
そしてすかさずダメ出しをするメイア。厳しいのう。
「では行きましょう。まだまだここは世界獣の中腹にも達していませんからね」
「ひ、ひぃ~、もうちょっと休憩させてくださいよぉ~」
「これも修行の内です。体力と魔力配分の訓練を兼ねていると思いなさい」
「うひぃ~」
テイルの悲鳴を聞きながら、わらわ達は世界獣の体を登ってゆく。
「ひぃっひぃっ! え、えぇーい! このっこのっ!」
悲鳴交じりで戦うテイル。
始めの方こそ限定環境での一対多の戦いに戸惑ってはいたが、数度戦った事である程度効率的な対処法を学んだようで、戦い方が安定してきた。
「モギャァァァァァ!」
と思ったところで魔物の生息域が替わったらしく、新たな魔物が出てきてこれまでの戦いで得た経験が無駄になる。と言う事をさっきから数度繰り返しておった。
「ひぃぃぃぃっ! また知らない魔物来たぁぁぁ!」
「ここ、良いですね。魔物の種類も多いので新人の実戦訓練に丁度良いです」
悲鳴を上げて逃げ惑うテイルの戦いぶりを眺めながら、リンドが良い場所を知ったとばかりにウキウキでメイド隊の訓練メニューの構築をしておる。
「いや、わらわ達エルフの守護獣の体を訓練場所にされても困るんじゃが」
「じゃよなー。まぁその辺の話はおいおいじゃ。それよりもそろそろ会えそうじゃぞ」
わらわは新しく見つけた戦闘痕を見て、先行する未知の勢力との接触の時が近いと感じるのじゃった。
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