第119話 魔王、輝く森に入るのじゃ

「おお! これは!?」


 魔物と戦いながら、世界獣の体を登ってゆくと、キラキラと輝く森にたどり着いたのじゃ。


「これは木々が光って……いや違う。光っているのは果実か?」


 そう、光っておるのは木ではなく、その枝に実っている果実じゃった。


「これは何の木じゃ?果実が光る木など見たことないが……いやコレ果実か?」


 木に実っていたのは果実かと思ったわらわじゃったが、近づいてみるとどうも違うっぽい。

 なんというか大きな綿の塊だったのじゃ。

 大きな木に生っておるし綿花ではないと思うのじゃが……


「何より光るというのはどういう事じゃ?」


 数千年を生きたわらわでも見たことが無いとは、流石はエルフが秘してきた世界獣じゃのう。自身の肉体の上に未知の生態系が生まれておるわ。


「クリエ様、これって食べれるんですか!?」


「これは、どのような調理法をするべきか悩みますね」


 そして未知の果実を見た瞬間、食べれるかどうかが先にくるメイアとテイル。

 お主等それはどうかと思うぞ。


「……」


 しかし尋ねられたクリエはメイア達の問いに答えることなく、光る果実をじっと見つめておった。


「なんじゃこれ」


「って、お主も知らんのか!?」


 いやお主の国の守護獣じゃろ!?


「そんな事言っても世界獣の体に登るなどそれこそ即位の時くらいしかないんじゃぞ!? それにキモい魔物や面倒な魔物も多いし、そこらを見て回るどころじゃないわい!」


 あー、まぁ言われてみればそうかもしれんのう。


「しかしそうなるとこの木はエルフの王族ですら知らん木と言う事か。歴史的な発見ではないのか?」


 果たしてリュミエであっても知っているのかどうか。

 と、その時じゃった。ボンヤリと光っていた綿の果実の光に変化が現れたのじゃ。


「なんじゃ!?」


 これまでずっと光っていた果実はピカピカと明滅を始めたのじゃ。


「これは一体!?」


 更に光はゆったりとした明滅から、次第に速度をあげてゆく。


「し、師匠、これなんか嫌な予感がするんですけど!?」


「奇遇じゃな。わらわもじゃよ」


「リンド様、急ぎ此処を離れた方がよいかと」


「いや、そんな余裕はなさそうじゃ」


 既に果実は猛烈な勢いで明滅を繰り返し、光っているのか消えているのか判断が難しい程になっておった。

 そして点灯が止まり果実が強い光を発する。

 それだけではない。光と共に果実の中心から強い魔力が放出され始めたのじゃ。


「全員各種全力防御!!」


「「「っっ!?」」」


即座にわらわが魔法防御を、メイアが対物理防御を、テイルが対毒防御を、そしてクリエが対呪防御の魔法を発動させる。

 恐らくは過去最大級の防御魔法の同時展開。これ以上の防御は望めないというほどの鉄壁の守り。


その堅固な防壁の向こうで、輝きと共に魔力が増してゆく。

 この魔力の高まり。まるでエプトム大司教が信者に行わせたマジックアイテムによる自爆攻撃に似ておる。

 じゃが威力はあれの比ではあるまい!


「って、ヤバいぞ!わらわ達は耐えられるかもしれんが、世界獣に被害が出るやもしれん!」


「「あっ」」


 わらわの言葉にテイルとクリエの声がハモる。

 じゃが周囲の大地に等しい世界獣を守るには術式を再構築し直す余裕などない。

 下手に制御の集中を割けば、こちらが被害を受けてもおかしくない魔力の高まり。

 それを察したのか、周辺から魔物達の怯える声が増し、飛べる者達は慌てて空へと逃げ出して居る。

 恐らくは飛べぬ者達もここから全力で逃げ出しておることじゃろう。


「これは不味いぞ」


 不味いのは世界獣の負傷だけではない。

 突然の大爆発によって負傷すれば、間違いなく荒れ狂って暴れまわるじゃろう。

 この巨体がじゃ。

 山を越える巨体が暴れ回れば、それこそ近隣の町なぞ踏み潰されるか、吹き飛んだ土砂で全滅じゃぞ!?


「爆発が収まり次第世界獣への治癒を行うのじゃ!」


 そして輝きが最高潮に達した瞬間。


 プスン。


 突然魔力が消滅したのじゃ。


「「「「……え?」」」」


 ……不発?


 光が消えた後には、何も変わらぬ光景が広がっておった。

 唯一違うのは、先ほどまで光っておった綿の果実の光が消えておることくらいか。


「なんだったんじゃ?」


 周囲の光景には何の変化も見当たらない。

 あの魔力の高まりは本当に何だったのかと言いたくなるほどに。


「今のは何だったんじゃ!?」


 そしてクリエが同じことを叫びながらへたり込む。

 ううむ、本当に訳が分からん。


「……あっ!」


 と、誰もが肩透かしを喰らっている中で、テイルが突然声を上げた。


「どうしたテイル?」


「今動きました!」


 動いた? 何がじゃ?」


「動いたってお主の無駄にバカでかい塊のことか?」


「……クリエ様はその塊がどこにもありませんよね。あっ、お尻にはありますね」


「ばっ! わらわは無いのではない! 標準サイズじゃ! あと尻のサイズは普通じゃい!」


 お主のサイズは無ではないかの? いやブーメランになるので言わんけどな。

 というかクリエの奴はテイルの胸に失言しないと生きていけん生き物なのかの?


「それで動いたとは何がじゃ?」


 もしや今の騒ぎで何か危険な魔物でも接近してきたか?

 この森の事を熟知している生き物なら、あの果実が無害と知って魔力の高まりに紛れて近づいてきてもおかしくはない。

 しかし魔法による探知を行っても、近くに魔物の反応は……


「む?」


 気が付けば、すぐ近くに生命反応を感じる。

 それも結構な数が。


「これは……」


「あっ、また動きましたよ師匠!!」


 今度は指をさして声を上げるテイル。

 その指の先は、地面……ではなく宙をいや、木を指していた。

 正確には、木に実った綿の果実をじゃ。

 そしてその果実が……ピコン。


「動いた!?」


 そう、動いたのじゃ。綿の塊が、ピコッと動いたのじゃ。

 ピコピコッ

 果実は更に動く。

 見れば周囲に実った他の果実達もピコピコと不規則に揺れておる。


「可愛い~」


「「そうか?」」


 思わずわらわ達の声がハモってしまう。

 寧ろ突然動き出す果実の群れとか怖くないか?


 果実の動くは更に激しくなっていき、ピコピコ小刻みに動くもの、スイングする様に激しく揺れるものとさまざまじゃ。

 その中でもひときわ激しく揺れている果実は、今にも枝から捥げ落ちそうじゃ。


「いや、寧ろ自分から落ちようとしておる? 果実が?」


「リンド様、アレはトレントの一種でしょうか?」


 トレント、それは樹木の魔物じゃ。根っこを足のように動かし移動し、枝をしならせて腕のように使う動く樹木。じゃが……


「いや、トレントの果実は動かん。少なくともわらわの知るトレントはな。クリエ、お主は何か知っておるか?」


「だから知らんというのに! 実が動くトレントなぞ聞いた事もないわ!」


 と、森の専門家であるクリエまでもが知らぬと悲鳴をあげたその時、遂に果実がもげ、地面に向かって落ちてゆく。

 その奇妙な光景に、わらわ達の目が釘付けになった瞬間。


 ニョキ、スタ、コロコロ。


 綿の中から小さな足が生え、地面に着地した。

 更に足の生えた木の実は膝を曲げながら地面に倒れ、そのままコロコロと転がって行った。


「「って、着地失敗かい!」」


「いえ違います! あれは受け身です!!」


 転がった木の実にツッコミを入れたわらわ達にメイアが指摘を入れる。

 見れば木の実はゴロゴロと転がっていたかと思うと、ピョンと足で地面を蹴って飛びあがると、スチャっと着地したのじゃ。


「まさか落下エネルギーを受け身で流してダメージを吸収したのか!?」


 木の実がそんな高度な落下対処を!?


「高度から落下だけにか」


「やかましいわ」


 何じゃこの綿毛は。足が生えただけでなく格闘技の理まで知っておるとか本当に果実なのか?


「って、驚くところはそこじゃないでしょ師匠達!」


 そんなわらわ達にテイルがアワアワしながら叫ぶ。

 いや、受け身を取る果物とか普通に驚くところではないか?


「その子、脚が生えてるんですよ!!」


 テイルの指摘に果物に視線を戻せば、地面に接している果物の下部には、確かに四本の小さな足が生えておった。


「そうじゃな。足が無ければ受け身もとれんからのう……」


 ん? 今何かおかしなところがあったよう……な。


「「って、生えてるぅぅぅぅぅぅ!?」」


 何で果物に足が生えとるんじゃーーーーっ!?

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