第116話 魔王、達世界獣に挑むのじゃ

「おおー、間近で見ると本当に大きいのう」


 謁見を終えたわらわ達は、世界獣とのコンタクトに向かう事となった。

 メンバーはわらわ、メイア、テイル、そしてクリエの四名じゃ。


「私は宰相として国の運営を行わないといけませんからね。それに世界獣と交信するのは女王の役目ですので」


 と言う事でリュミエは不参加となった。

 国の運営に女王の存在がカウントされんのは国としてどうかと思うんじゃがの。


 ともあれ、リュミエの計らいで世界獣の近くまでは転移で送って貰えた故、かなり時短は出来たと言えるじゃろう。


「あとは急ぎ世界中に接触して国中を歩き回るのを止めて貰えば良いだけじゃな」


 エルフ達にとって、人里だけでなく森も重要な国の一部じゃ。

 それゆえ世界獣が動き回る事は、巨人が自分の家を踏み潰して回っているのに等しい状況と言えるじゃろ。


 幸い、このメンバーなら全員空を飛べる故、世界獣と接触する事は容易じゃ。


「待て、空は飛ぶでない」


 じゃが、早々に世界獣と接触しようと宙に浮きあがったわらわ達をクリエが止める。


「何故じゃ? 飛んで眼前に出て止めるのが一番手っ取り早いじゃろ」


 しかしクリエは首を横に振る。

 おかしいの、こういう時はこやつの方が楽に解決する方法を選択する筈なんじゃが。


「世界獣の周辺には危険な者達がうろついて居る。下手に空から近づこうとすれば、連中に見つかってタコ殴りじゃ。


 ほう、クリエがそこまで危険を感じる相手とはな。


「一体それはどのような魔物なんじゃ?」


 恐らくは大型の魔物と共生する小型の魔物の事じゃろう。

 特定の生き物に寄生したり、自身の有用性を示して共生関係になる生物というのは魔物以外もおるものじゃしな。


「うむ、世界獣の上空を支配しておるのは、花粉獣と呼ばれる魔物じゃ」


「花粉獣? 何じゃそれは?」


 聞いた事もない魔物じゃ。それはすなわち、世界獣のような大型の魔物とのみ共生関係を結ぶ、ごく珍しい魔物と言うことじゃろう。


「花粉獣は世界獣の体から生える花で暮らす魔物じゃ。成体になると世界獣の周囲を飛び、別の場所に生えている花の下へと向かう。有害な魔物でな、接近すると連中が放つ物質で身心に悪影響を受けるのじゃ」


 ふむ、周囲に毒を放つ事で敵の接近を阻止するタイプの魔物か。


「逆に考えると攻撃力は大したことがないという事じゃろ?」


「馬鹿な事を考えるのは止めておけ。連中、とにかく数が多い。それに連中の毒は倒した後も場に残って周囲に舞い続けるし体に蓄積するタイプじゃ。つまり近づかんのが一番じゃ」


 成程、とにかく敵を近づけん事に特化しておると言う事か。

 地味に嫌なタイプの敵じゃのう。


「じゃからわらわ達は世界獣の足から体に飛び乗って、体を登ってゆく必要がある」


 そりゃ面倒くさそうじゃのう。


「世界獣の体には、エルフの女王のみが交信する事の出来る場がある。そこにたどり着くことが出来れば、問題は解決じゃ」


「あれを地道に登ってゆかねばならんのか。気が重いのう」


 何せ相手は山脈級の魔物じゃ。足が生えて動く山を登る。下手な冬山登山よりも過酷な旅になるのは一目瞭然じゃ。


「それだけではない。世界獣の体に住み着いた様々な魔物達が縄張りに侵入してきた余所者を排除しようと襲ってくる。油断しておったらお主等でも命はないぞ」


 はっ、言いよる。じゃがそれを知っておるという事は、こやつも世界獣の体に出来た森、いや山に入ったという事じゃろう。

 何せ世界獣と交信できる女王じゃしな。これは予想じゃが、女王に就任する為の試練として、世界獣の山への登山が義務付けられていたのではないかと思うのじゃ。


 何しろ世界獣はエルフ達の守護神であり、代々の女王しか世界獣と交信する事は出来ぬ。

 逆に考えれば、世界獣との交信方法の習得、世界獣への面通しを兼ねた試験をする事で、有事の際は世界獣の力を借りようと思ったのではないじゃろうか。


 つまり、こやつは一人ないしは少人数で世界獣の下へと赴き、今のように動いてこそいなかったものの、生きて帰る事が出来たという事じゃ。


 ならばわらわ達も油断しなければ問題はないじゃろう。


「さぁ、気張れよお主達! でないとわらわがうっかり死んで依頼失敗になってしまうからな! 報酬を貰いたければわらわを全力で守るのじゃ!」


 いやお主ビビリ過ぎじゃろ。

 流石にこの面子が集まれば、そうそう命の危険に襲われる事もあるまいて。


 ◆


「うぉぉぉぉぉっ! 逃げろぉぉぉぉぉぉっ!」


世界中の山の、麓である足の甲に踏み入った我等は、そこでいきなり魔物に襲撃された。

全身が薄い布のような魔物じゃ。

しかもそ奴を見た瞬間、クリエが悲鳴を上げて逃げ出した。


「うひぃぃぃぃ! 逃げろ! 奴は獲物の体を縛る様にまとわりついて、全身の棘から獲物を麻痺させる強力な毒を流し込んでくる! もし麻痺させられたら生きたまま全身の体液を吸い取られるぞ!」


「しょっぱなから悪趣味にも程が無いかのその魔物!」


「見ての通り薄くて細い故、物陰に隠れても隙間から入り込んでくるぞ!」


 地味に嫌な習性なんじゃけどー!

 あと数が多い。本当に多い! 凄い数のひも状の魔物がわらわ達を襲おうと這い進んでくる。しかも早い!


「あと捕まった獲物はギリギリ死なない程度で生かさず殺さずの精神で強制的に生存させられる! 捕まったら保存食決定じゃ!」


「何でそんな悪意に満ちた生態の魔物がこんな初っ端も初っ端におるんじゃー!」


「それだけではないぞ! 他にも極小の体内に潜り込んで全身の中身を食べ尽くす魔物や、急所に向かってピンポイントに突撃してくる魔物の群れもおる」


 なんか後者は普通に襲ってくる分、いくらかマシに聞こえるのう。


「ちなみに1000頭単位で襲ってくるから気を付けるんじゃぞ、飛行魔法も使える故、跳んで逃げても追っかけて来るぞ」


 前言撤回、普通に厄介な敵じゃった。


「このように世界獣の全身はただ強いだけでなく危険な魔物の巣窟じゃ! 毒などの厄介な手段で襲ってくる上に、それが無くとも単純に強いという面倒さじゃ! しかもやたらと数が多い! よいか、逃げ出すなら今の内じゃからな!」


 と、クリエはビシッとわらわ達に指を突き立てる。というか……


「なんじゃ、帰っても良かったのか」


「え?」


 いや正直、このままだとどんな厄介な魔物が出て来るのかと面倒になってのう。

帰って良いというのなら帰った方が良い気がしてきたんじゃよ。



「って待たんかー! わらわおこんな場所に置いていくつもりか! この人でなし!」


「うむ、儂等人族じゃなくて魔族じゃしの」


「そんな友達甲斐のない事言うでない! 友達を助てるのじゃー!」


 いや友達になったつもりはないんじゃが。

 とはいえ、ここで帰ったらリュミエの奴に恨まれるしのう。

 しゃーない、真面目にやるとするか。


「フローズンフォレスト!」


 わらわが後ろに向かって広範囲の氷雪魔法を放つと、これまで追ってきた魔物の達が一瞬で凍り付く。


「よし、こんなもんで良いじゃろ」


「おおー! やればできるではないか!」


 まぁキモいだけで所詮は宿主に寄生するだけの魔物じゃしな。特別強かった訳ではない。

 とはいえ、無駄に敵の数が多くてキモいのはあまり余禄ないのじゃ。


「初っ端からこれでは、先が思いやられるのう」


 一面に広がる氷の森の中で、彫像となった魔物達の姿を見ながら溜息を吐くわらわなのじゃった。

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