第114話 魔王、女王の姉に遭うのじゃ
「……」
「「「「……」」」」
わらわ達は荘厳な通路を歩いていた。
その通路は木材のみで出来た建築物で、言葉で聞くと一見すると地味な印象を受けるが、直接見た者の感想は寧ろ真逆であった。
何の着色もされていない木材は本来の素材そのままであったり、綺麗に磨いて艶が出る様にしてあったり、表面を軽く焼いて濃淡を表していたりと、木材を使った技巧を凝らした見事な作りじゃ。
更に要所要所に彫刻で精緻な細工が施されており、色や貴重な素材によるごまかしが無い分、より一層設計者と技術者の技量が垣間見える作品へと仕上がっておったのじゃ。
「ううう……」
そんな中、クリエはまるでこれから親に叱られるのを待つ子供のようにビクビクしながら歩いておった。
エルフの国一大事の報を受けたわらわ達は、リュミエの意向もあったが、クリエと共にエルフの国へとやって来た。
クリエの転移魔法で王宮のこやつの部屋へと直接飛んできたわらわ達じゃったが、そこでは既に王宮のメイド達が待ち構えておったのじゃ。
そしてクリエはあっという間にメイド達に着替えさせられ、今ではすっかり見事な女王のいでたちへと変貌しておった。中身はともかくじゃがな。
「今さら何をビクビクしとる。こうなると分かって城を飛び出したんじゃろうに」
「やかましいわい!お主は姉上の恐ろしさを知らんからそんな事が言えるんじゃ! 大体何じゃその姿は! わざとらしくエルフの姿になぞなりおって!」
「ん、これか? よくできとるじゃろ」
そう、クリエの言う通り、わらわ達は変身魔法でエルフの姿になっておった。
というのも、エルフの国は魔王国と国交がある故、わらわの姿はそれなりに知られておるのじゃ。
しかし今のわらわは死んだ(封印された)ことになっておるからの。
生存がバレぬよう、素性を隠すことにしたのじゃ。
「リンド様はエルフのお姿もお似合いでございます」
「ううー、エルフの姿になるの難しいですよぉ~」
メイアはともかく、テイルはエルフの姿に変身する事に慣れておらぬようで、術の維持に苦労しておった。
普段の人間の姿は長年見慣れておった自分の姿じゃったからともかく、初めて別の種族に変身するのは大変なのじゃ。
「まぁそれでもエルフと人族の違いは耳くらいじゃからの、獣人に比べれば楽じゃろ」
獣人は耳の位置や尻尾、種族によっては手足が獣に近く、獣毛の覆われ、中には顔が動物そのものの者達もおるからのぅ。
わらわ? 勿論わらわなら獣人への返信も容易じゃよ?
ただ、アレに変身すると、メイア達が滅茶苦茶興奮するからあんまり変身したくないんじゃよなぁ……
「女王陛下おかえりなさいませ。並びにようこそお客人の皆さま方、リュミエール様がお待ちです」
謁見の間の左右に待機した近衛騎士達がわらわ達を出迎える。
「う、うむ」
女王であるのにまるで判決を待つ罪人のような顔で応じるクリエ。
いやホントお主女王じゃろ? もうちっと威厳を見せんかい。
などと内心でツッコミを入れておると、謁見の間の大扉が音をたてて動き出す。
『ようこそいらっしゃいましたお客人』
「「「「……っ!」」」」
その途端、凄まじいまでの魔力と気配が謁見の間から流れてくる。
「~っ!」
圧倒的な力の奔流に、テイルは完全に気圧されておる。
「……」
流石にメイアはそんな無様は晒しておらんが、僅かに額に汗が見えるの。まぁ無理もない。
「ガタガタガタガタッ」
そんな中、クリエだけはもう見てわかる程に真っ青な顔で震えておった。
「あわわわっ、あ、姉上激おこなのじゃぁ~~」
いやホント、お主女王なんじゃからさぁ……
『どうなさったのですか? さぁお入りください。女・王・陛・下』
「ひっ!」
まるで聞こえて来た声が直接その手を引っ張る様な圧力を感じ、クリエが反射的に体を反対側に逸らす。
「あらあら、どこに行こうというのですか女王陛下?」
「「「「っっっっ!?」」」ぶげっ!」
直前まで玉座の間から聞こえてきた筈の声が突然背後から聞こえてきて、わらわ達は驚愕する。
慌てて背後を振り向けば、そこにはクリエの頭部を鷲掴みにする幼いエルフの少女の姿があった。
「ふふふふふ、早くお入りください皆様」
「リュ、リュミエ……」
そう、彼女こそはクリエの姉、エルフの国の宰相リュミエールだったのじゃ。
「そもそも、何故女王陛下が来賓と共に入ってきているのですか。陛下は女王なのですから、玉座で待ち構えている者でしょう?」
「あ、あば、あばば……」
ニコニコと穏やかな様子で話すクリエと対照的に、クリエはミシミシという音をたてながら悲鳴ともつかない音を口から溢す。
っていうか今、間違いなくリュミエは謁見の間に折った筈なんじゃが……
声も気配も魔力も間違いなくそちらから漂ってきた。
にも拘わらず、突然背後から現れおったのじゃ。
転移魔法を使った痕跡もない。一体何をどうやったのじゃ!?
「ふふふ……」
そんなわらわの内心の驚愕を察したように、リュミエがわらわに微笑みかけてくるも、童にはその笑顔が死神の笑みにしかみえなんだのじゃ。
「ささ、お客人の皆様も、おいでくださいませ」
「う、うむ」
クリエの頭を掴んだリュミエに先導され、わらわ達は謁見の間へと入ってゆく。
その際、入り口で待機しておった近衛騎士のどちらかが、小さな声で「頑張ってください女王陛下」と溢した気がしたのは、きっと気のせいではなかったと思うわらわじゃった。
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