第112話 魔王、エルフの女王がモフモフに堕落する様を眺めるのじゃ
「うひょー、庭に砂浜のある生活じゃー」
パラソルの下に設置された簡易ベッドに寝転び、南国情緒溢れるフルーツが刺されたドリンクを片手にしたクリエがとろけ切った声をあげる。
「ペンペーン」
「ザラシー」
「そしてなんかよう知らんモフモフした生き物もおって和むのう」
漁から帰って来たモフルペングマーとシウザラシ達がブルブルと体を振るわせて体に付いた水を弾き飛ばす光景をデレデレとした顔で眺めるクリエ。
「わーいわーい、流されるー」
「うぉぉぉぉぉ!」
波に流されて遊ぶ毛玉スライムとそれを血相を変えて追いかけるガル。
「チピッ、しみみみみっ! たまに飲む塩水は刺激的ポン!」
更に植物の癖に海水を飲んで珍味か何かのように楽しむダンデライポン。
「おさかなー!」
「はっはっはっ、沢山食べて島より大きくなるんだぞ我が子よ!」
更に沖に出て巨大な魚の魔物を狩ってきたグランドベア親子。
「ふぅ、やはり水場は落ち着くな。島の川は我は小さいのが難点だ」
そして子供達が深い場所に行かない様に、自分の体を壁にして海水浴を満喫するレーベ。
「いやー、和む光景じゃのう。モッフモフしかおらんではないか。まったく、こんな面白い場所を内緒にしておくとか狡いぞ魔王」
「そもそもお主に教えるつもりなんぞなかったわい。面倒事に関わらないようにひっそりと余生を楽しむつもりだったというのに」
「はははははっ! お主が? 無理じゃろ。働いていないと落ち着かん癖に! 胸のデカい娘に聞いたぞ。事あるごとに面倒事に首を突っ込んでおるそうではないか!」
おのれテイルめ、余計な奴に余計な事を。
後でとっておきの特訓をしてやるのじゃ。
「ブルルッ、何か悪寒が……」
「悪寒を感じている暇があったら働きなさい。ただでさえ貴方は人族の王宮に出向していてメイド修業が足りていないのですから」
「だから私は魔法使い出会ってメイドは目指していないんですってばー!」
などと言う光景を尻目に、わらわはダラけるクリエを見る。
「のじゃ~」
そこにはエルフの女王の威厳などなく、人様の家にやって来て餌を強請り、あまつさえ軒先でだらしなく腹を出して寝こける野生の欠片もない半野良の猫の如き有り様じゃった。
「これ、絶対後で大変な事になるんじゃろうなぁ」
クリエの姉リュミエは他人に厳しく自分に超厳しい女じゃ。
当然、自分と同じ強さに育て上げようとしているクリエがこのような自堕落な姿を晒していると知れば、いや既に知っておるんじゃろうが、ともかく黙っておるまい。
何度も同じことを考えてしまうが、この光景を見るたびに不安に思ってしまう程に、リュミエのお仕置き修業は凄惨なものなのじゃ。
それこそ見てしまった者の心に深い傷跡を残してしまう程に。
だからこそ恐ろしい。その瞬間が、一体いつ訪れるのかと。
そして今度は一体どんな恐ろしい修行を行うのか……あ、いや、考えてはいかんのじゃ。
わらわは恐ろしい想像をしそうになった自分を慌てて押しとどめる。
わらわには関係ない事、わらわには関係ない事!
「わらわもモフモフ達を愛でて忘れる事にするのじゃ」
気持ちを切り替える為、わらわは近くではねていた毛玉スライムを抱えると、その毛並みを楽しむ事にする。
「あー、そこ気持ちいいー、ごろごろごろー」
気持ちいのか気持ちよくないのかよく分からん平坦な声をあげる毛玉スライム。
ホントこやつ等声に抑揚がないから感情が分かりにくいのう。
◆
「よーし、お主達! 探検に行くぞー!」
「「「「おおーっ!!」」」」
翌日、クリエは毛玉魔物達を引き連れて島を探検しに行った。
その姿はどうみて近所のガキ大将である。
そこにエルフの女王としての威厳など欠片も見当たらぬ。ビックリする程見当たらないのじゃ。
「魔王よ、本当に見守らなくて良いのか?」
心配そうに聞いてくるガルに対し、どっちをじゃ? などとは聞かぬ。
ガルはこれでも聖獣と呼ばれて来ただけあって、クリエの実力をはっきり理解しておるからじゃ。
しかし心配性のガルとしては、クリエを心配する体で毛玉魔物達を見守りたいのじゃろ。
「そうじゃの、心配なら陰ながら見守ってはどうかの?」
「う、うぬ! 魔王がそう言うのであれば仕方ないな!」
「過保護は嫌われるぞ」
「うるさい!」
嬉々として見守りに向かうガルをからかうレーベ。
レーベもたいがい子供達に甘いんじゃが、自らの巨体が潜む事に適しておらぬことを理解しておるようで、子供達の自主性を見守ることにしたようじゃ。
「……さて、それでは行くとするか」
「ぬ?」
どこへじゃ? と聞こうとしたわらわの前で、周囲の風景に溶け込むように消えるれレーベ。
「何と!?」
まさかの光景に思わずわらわも声を上げてしもうた。
「他の者達には内密にな」
そう告げると、レーベはいずこかへと、いや、間違いなく子供達を見守りに向かったのじゃった。
というか、あのような手段を持っていたとは、わらわも予想外だったのじゃよ。
「む?」
ふと、わらわは足元に一枚の紙が落ちていたことに気付く。
これはもしや……
なんとなく内容を予想しつつも、わらわは手に取った紙を確認する。
するとそこにはこう書かれておった。
『魔王様は見守りにいかないのですか?』
どいつもこいつも心配性か!
と、こんなバカなことをしておったわらわ達じゃったが、この数日後に恐るべき出来事が起きるとは、この時はまだ誰も気づいておらなんだのじゃった。
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