第111話 魔王、の家にエルフの女王が居候するのじゃ
わらわの城にエルフの女王クリエールことクリエがやって来た。
ちなみに宰相であり姉でもあるリュミエには、既に居場所を把握されておった事を補足しておく。
とはいえ、一応は筋を通しておかねばならん。
わらわは表向き勇者達に封印された事になっておる為、裏外交の範囲で連絡を済ませておいた。
「という訳で連絡はしておいたからな」
「承知なのじゃ~」
一時的にとはいえ、政務から解放されたクリエは朝っぱらから自堕落な様子で返してくる。
言っておくが、だらしない格好でソファに寝そべって菓子を食うその姿、ほぼ間違いなくリュミエに把握されておるからな。
天才であるリュミエの事じゃ。何らかの術式でクリエの様子をしっかり把握しておる事じゃろう。
でなければ、わらわの寝室にあのような手紙を送る事なぞ出来るわけがないからの。
別荘気分で作った城じゃったが、そろそろ本格的に防衛体制を整えた方がよいのかもしれんなぁ。
事実、この事を知ったメイア達は血相を変えて城と島内の調査および防衛体制の再構築に奔走しておった。
「しかしお主はずるいのじゃ~、あれだけ魔王の仕事は面倒だと言っておきながら、勇者に封印されたフリをして魔王を辞めるのじゃから。せっかくププーッ! 神器に封印されるとはマヌケじゃのーっ! って笑っておったというのに」
と、クリエはわらわが魔王を辞めた事について、文句なのか煽りなのか分からん事を言ってくる。
「ふん、わらわの見事な策に驚いたじゃろ。それよりも、勇者が神器を使用した事を知っておるのに何故お主等は何も行動を起こさなんだのじゃ? 神器じゃぞ。邪神を封印する為の決戦兵器なんじゃぞ」
事実、神器の無駄な使用は地上に住む全ての生き物にとって致命的な問題じゃ。エルフといえどそれを放置しておける筈がない。
「まぁのう。とはいえ、内容が内容じゃ。表立って非難すれば邪神を封印する為の力が無駄に消費され、きたる邪神との決戦での不安材料になると民衆に知られてしまう。わが身可愛さで邪神の使徒が増えるような真似は避けたいしの。わらわの国も含めて各国は秘密裏に人族の国に文句を言う程度にとどまらざるを得なかったのじゃ」
「で、その結果は?」
わらわが分かり切った質問をすると、クリエは肩を竦めて溜息を吐く。
「奴らめ、わらわ達が表立って文句を言えぬのを知っていて突っぱねてきおったわ。ありもしない妄想で言い掛かりをつけるな、とな。はっ、言いよる」
そこで怒って戦争を吹っ掛けなかったのは、クリエ達が大人だからではなく、自棄になった人族の国が神器の力を無差別に使わないようにとの配慮だったのじゃろう。
「じゃがまぁ、丁度良いタイミングで勇者達が反逆と言う名目で更迭され、神器の継承者が居なくなったのは都合がよかったの。選民思想に凝り固まった人族の貴族が難癖付けて来たのも丁度良かったのでな、これを機に神器の没収をさせてもらう……つもりだったんじゃがなぁ……」
と、途中まで得意満面であったクリエの表情が曇る。
「肝心の神器が見つからんかったんじゃぁ~」
「なんじゃと? そりゃどういう事じゃ?」
確か神器は人族の王城の宝物庫と、教会の奥の聖域とは名ばかりの人の目に触れさせるには不味い品の数々が収められた倉庫に仕舞われていた筈じゃ。
これはメイア達メイド隊が調べた情報故、まず間違いはない。
「わらわにも分からんのじゃ! 何故かある筈の場所に神器がなかったんじゃ! まるで転移魔法でも使われたかのように! じゃが今の人族に転移魔法なぞ使えぬ筈なんじゃぁ~!」
転移魔法……そうか、そうなると犯人は……
「邪神の使徒の仕業かの」
「なんじゃと!?」
「なんじゃ知らんかったのか? 教会の大司教が邪神の使徒だったのじゃよ」
「なんじゃとぉーっ!? マジかぁーっ!?」
さっきから何じゃしか言っておらんな、こやつ。
とはいえ、邪神の使徒が神の力の結晶たる神器に手を出そうとは。
下手したら自滅しておったかもしれんのに思い切ったのう。
しかしじゃ。エルフの国の諜報能力、というかリュミエがおるんじゃから、勇者達が更迭され、神器を没収された時点で邪神の使徒達の何かしらの動きを掴んでいてもおかしくはないんじゃが……あっ、
そこまで考えてわらわは察してしまった。
これ、もしかしてリュミエは全て察していて、あえてクリエに教えなんだのではないか?
「じゃがそれでも神器がみすみす敵の手に渡るのを放っておくはずも……まさか!」
ここまで来てようやくわらわは察してしまった。
リュミエは全て察していたに違いない。
で、あれば神器が敵の手に渡る愚を犯すじゃろうか? 答えは否、否じゃ。
あれがそんな甘い女である訳がない。
リュミエは人族の騒動に乗じて、既に神器を確保しておるのは間違いない。
神器を持ち出したのは邪神の使徒ではない、犯人はエルフの国自身じゃ!
恐らくはリュミエの直属部隊あたりであろう。
そのうえで、何も教えられておらんクリエがどう動くのかを見ておるのじゃ!
全てを理解できればよし、でなくともどうにもならず自分に縋ってくればそれはそれで良し、と考えたのじゃろう。
「本当にどこに行ったんじゃ神器はぁ~! このままでは姉上のお仕置きされてしまうのじゃぁ~!」
クリエは完全にリュミエの掌の上で転がされておった。
多分じゃけど、神器回収に関わった一部の者達はこの事を知っていてリュミエに口止めされておるのじゃろう。
クリエが立派な女王になる為に必要な事じゃと言われて。
「多分ここに逃げ込んだ事は確実にマイナス材料として評価されておるんじゃろなぁ」
と、わらわの手に何かがカサリと振れたのを感じて視線を落とすと、そこには……
『魔王様70点』
「わらわまで巻き込む出ないわぁーっ!!」
「ななななんじゃ急に!?」
しまった、突然の採点に思わず反応してしまったのじゃ。
「のぉ~、わらわと一緒に神器を探してはくれんかのう?」
いや、お主何言っとるんじゃ。一国を指揮する者が直接探しに行ってどうする。
などと呆れておると、再び指先に嫌な感触が宿る。
恐る恐る視線を指先に向けるとそこには……
『私の妹のお願いを聞いてくださらないのですか?』
「だからわらわを巻き込むでないわぁーっ!!」
もう素直にお主が出てこんかぁーっ!!
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