第102話 魔王、魔の姿に堕するのじゃ?
洗脳された信者達による自爆攻撃を阻止した事で、わらわ達はエプトム大司教達と戦闘に入った。
「くっ、どうやら油断ならぬ相手のようですね! お前達、時間を稼ぎなさい!!」
そう言うとエプトム大司教は部下を前に出して自分は後方に下がる。
「何かするつもりのようじゃが、そうはさせんぞ! レーべ!」
「まかせよ!」
わらわの呼び声に応じ、巨大な蛇の聖獣レーベイクは前に出ると同時に自身の巨大な肉体を鞭のように振り回して暴れまわる。
エプトム大司教の部下達はそれを回避しようとするが、巨大すぎる体の前では下手な回避など意味はなく、皆避けきれずに吹き飛ばされていった。
とくに尻尾の先端付近に居た者達は、最も速度の乗った部位による攻撃でひと際酷いことになっておった。
なんとかレーベの攻撃から逃れる事が出来たのは、最初から間合いの外に居た者達だけであった。
「流石は聖獣じゃのう」
「大した事ではない」
これで大司教の取り巻きは一掃できたの。
正直この取り巻き達も邪神の使徒かと警戒しておったんじゃが、そこまでの力は与えられておらなんだと見える。
「やれやれ、修行が足りませんねぇ」
しかし味方が倒されたというのに、エプトム大司教に焦りの色は見えなんだ。
「えぇーい! ウインドブレイク!!」
そしてテイルとメイド隊の放った魔法が、生き残っていたエプトム大司教の部下達を一掃する。
「あとは貴方だけです!!」
ビシッと指を突き付けてエプトム大司教を睨みつけるテイル。
ふむ、少しは逞しくなっておるみたいじゃの。
「おや、貴女はテンクロ家のご令嬢ではありませんか?」
するとエプトム大司教が以外にもテイルに反応した。
「え? 私を知ってるんですか?」
「ええ、知っていますとも。膨大な魔力を持ちながら、魔法を全く使えない一族の落ちこぼれ令嬢。ええ、わたくし共を頼ってくださったのなら、素晴らしい自爆兵になれたことでしょう。どうですか、今からでも我々の下に来ませんか?」
「絶対行きません!」
なるほどのう。確かに魔法の使えない頃のテイルじゃったら、結婚騒ぎにかこつけて接触すれば洗脳は容易だったことじゃろうな。
しかしそんなテイルの悩みを解決してしまったわらわ達は、もしかしたら知らぬうちにエプトム大司教の策をいくつもへし折っていたのかもしれぬのう。
「さぁ、おとなしく捕まって罪を償ってください!!」
しかし気色ばむテイルとは裏腹に、エプトム大司教は不気味なほど落ち着いておった。
部下が全員倒れ、自分一人になったというのにこの自信、何を隠し持っているというのか。
「これは宜しくありませんね。仕方がありません。あまり乱用はしたくなかったのですが、奥の手と行きましょうか」
「何をする気かは知らぬが、そう簡単にやらせると思うなよ」
「無論、私もそう簡単に阻止させるつもりはありませんよ。今です皆さん!」
その言葉と同時に、正気を失った者が姿を見せる。
「まだ洗脳されていた者がおったか!」
「ですがこの程度の増援で奥の手とは侮ってくれますね」
増援として現れた者達の数は決して多くはなく、メイド隊がすぐさま彼らを無力化してゆく。
「いや違う!」
じゃが、それはただの時間稼ぎでしかなかった。
「矮小なる者よ、その身の程を知るが良い」
エプトム大司教が呪文を唱えるとともに、禍々しい気配が場に満ちてゆく。
む、これはいかん!
「汝は地に伏すが定め。天に傅く獣」
エプトム大司教に魔法を放とうとするも、更に現れた増援が盾となるように間に入ってくる。
くっ、洗脳された者を巻き添えにするわけには……
「まぁ気にする必要はないか」
ぶっちゃけ魔族のわらわにとっては敵国の人間故、危険を冒してまで救う義理はない。
まぁ、操られている者を殺すのは気分が悪い故、死なない程度には威力を下げておくとするかの。
わらわの放った魔法が洗脳された信者達をなぎ倒し、エプトム大司教に命中する。
しかしその攻撃はエプトム大司教を傷つけることなくはじけ飛んだ。
「なんじゃと!?」
と、同時にエプトム大司教の胸元の首飾りが音を立てて砕ける。
「使い捨ての防御アイテムか!」
どうやらエプトム大司教は一度だけ敵の攻撃を無効化する類のマジックアイテムを持っていたようじゃ。
って、感心しておる場合ではない!
エプトム大司教の詠唱はすでに終わりに近づいておった。
「穢れと憐みの存在。すなわち……」
-魔なる獣たれ-
最後の詠唱を終えた瞬間、大司教を中心に禍々しい魔力の波動が放たれる。
その魔力はわらわ達の体に触れると、内側に浸み込むように侵入してくる。
「むっ、これは!?」
「リンド様!?」
「な、ななななんですかコレは!?」
これは、呪いの類か。
しかしこの魔力の波長は攻撃的なものではない。
こちらに傷を負わせることが目的の魔法ではないか。だとすれば……
大司教の放った魔力はわらわの体内を巡ると、体がふわりと、まるで自分の体でないような錯覚を感じる。
いや、待て、この感覚は覚えがあるぞ。
むしろよく感じておる感覚じゃ。そうじゃこれは……
「これは変化の魔法じゃ!」
そうじゃ、これはわらわ達が人族の町に行くときに使っておる変化の魔法に近い!
ならば……
「流れに逆らうな! 皆、体内に浸み込む魔力に自分の魔力を割り込ませて、変化の方向性を反らすのじゃ!!」
「ふはははははっ! 甘い! 甘すぎます!! 我が呪いに抗う事など不可能ですよ!!」
確かに大司教の術は強力じゃ。このままでは術を完全に防ぐことはできぬ。
今も体内に浸み込んだ魔力がわらわ達の形を変えようと暴れまわっておる。
「ぬっ、ぬぅっ!!」
いかん、このままでは……
そしてついに大司教の術が、わらわ達の体に致命的な変化を与えた。
「ふふふふふ、さぁ、あなた方はどのような姿に……何!?」
愉悦に満ちていた大司教の笑みが、驚愕に代わる。
「やれやれ、まいったの」
「ええ、まさか私達の魔法が破られる事になるとは思ってもいませんでした」
わらわの傍にいたメイアの背には、翼が生まれておった。
「び、ビックリしました」
そしてテイルの頭には狐の耳が、尻からは尻尾が生えておる。
そう、それはわらわ達の本来の姿じゃった。
「その姿は……まさか魔族!?」
エプトム大司教の術は対象を何らかの姿に変えるものだったのじゃろう。
それゆえに変化の魔法を使えるわらわ達は、自らの魔力を割り込ませることで、変化を妨害することに成功した。
しかし術式はなかなかに強力で、わらわ達の変身魔法まで一緒に剥がされてしまう結果になってしもうた。
「魔族だと!? いやそんな筈は、私の呪いは弱き魔物に堕する業。間違ってもより強き魔族に変化させる事など出来ない筈!!」
じゃが、大司教はわらわ達の変化の魔法が解けた事を、自分の魔法が何らかの効果を発揮して魔族の姿へと強化させてしまったと勘違いしたようじゃった。
ふむ、これは都合が良いの。
なんだかんだいって変化魔法を使っている間はどうしてもそちらの制御に力と集中を咲かれてしまう。
しかしこの状況ならわらわ達は本気で戦う事が出来るのじゃ。
「うむ、なにやら分からんが妙に力が溢れておるの。エプトム大司教よ、わらわ達を魔法で強化してくれたのかの?」
と、わざとらしい演技をした後でちらりとメイアに目配せを送ると、メイアはすぐにこちらの意図を理解したようで小さく頷いた。
「どうやらそのようですね。このチャンスを利用させていただきましょう。大司教様、お覚悟を」
「え? え?」
そんな中、一人状況を把握出てきていないテイルだけが、事態に付いていけずに困惑の声をあげていたのじゃった。
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