第103話 魔王、恐るべき魔族(笑)となって大司教と戦うのじゃ

「馬鹿な! 私の呪いで魔族になっただと!? あり得ない!!」


エプトム大司教の呪いの影響で魔族の姿に戻ったわらわ達は、これ幸いと全力を出して戦うことにした。


「え? え? どういう事です?」


 ただ一人、状況を理解しておらぬテイルが困惑の声を上げる。


『エプトム大司教の放った術式の影響でわらわ達の変身魔法が解けてしまったのじゃ。幸い大司教はその事実に気づかず、わらわ達が魔族の姿になって強化されてしまったと勘違いしておる。おぬしもそういう筋書きで行動するのじゃ』


『え? あ。はい! 分かりました!』


通話魔法で状況を伝えると、テイルが納得の声をあげる。



「わー、なんだか力が湧いてきましたー! これならどんな敵が相手でも勝てそうですよー!」


 下手くそか! いくら何でも大根役者が過ぎるじゃろ!!

 思わず声を上げて突っ込みそうになったではないか!


「行きますよー!」


 そんなテイルはノリノリでエプトム大司教に向かって魔法を連発する。


「ぐぅぅっ!!」


 先ほどまでは飄々とした態度で余裕を見せていたエプトム大司教じゃったが、変身魔法を解除された事で魔力の制御と消費から解放されたテイルの本気の攻撃に押される。


「ふむ、戦い慣れておると思っていたが、そうでもなさそうじゃな」


 以外にもエプトム大司教の動きは大したことがなかった。

 むしろ戦闘に関しては以前戦った邪神の使徒ローザンの方が強いかもしれん。

 これはあれじゃな。大司教は洗脳や魔物化の呪いといった搦手に秀でており、直接戦闘は苦手なタイプなのじゃろう。


「これはテイルの訓練相手に丁度よいのう」


 折角なのでエプトム大司教にはテイルの対人戦闘の練習台になってもらうとするか。

 わらわはメイド隊に大司教への攻撃は最小限にするように指示を出す。


 と言っても別に油断している訳ではないぞ。

 相手は邪神の使徒じゃ。追いつめれば何をしてくるか分からん。

 何より搦手を得意とする相手なら、間違いなく何かしらの仕込みをしているじゃろう。

それゆえ、戦闘はテイルに任せ、わらわ達はエプトム大司教が仕込んだであろう罠を探す。


「やはり気になるのはあの自爆攻撃じゃな」


 エプトム大司教は戦場で洗脳した信者に自爆攻撃を行わせるという非道を行っておった。

 つい先ほども自爆攻撃をさせようとしていたしのう。


 しかし折角洗脳した信者をただの戦闘で文字通り一回こっきりの使い捨てにするじゃろうか?


 わらわの推測では否じゃ。

 間違いなく別の目的がある。

 エプトム大司教は死した信者達の血と怨嗟を魔法陣で繋いで邪神を復活させるといっておったが、そんな単純な仕込みとは思えぬ。

 

邪神の使徒と怪しげな遺跡、そして人の死とくれば、考えられるのは……


「レーベよ、この地に邪神の残滓は感じられるか」


 わらわは同行してきた聖獣のレーベに邪神の力を感じるか尋ねる。

 長年邪神の力の封印を守ってきたレーベならば、何か感じるやもしれぬ。


「……薄いが感じるな。邪神の使徒の力に紛れてしまっているが、注意深く感じ取れば質の、純度の違う力を感じられる」


 やはりそうか。


「恐らくじゃが、この地にはレーベが守っていたような邪神の欠片の封印があるのじゃろう」


「何!? しかし封印を守る守り人がおらぬぞ」


「かつては居たのじゃろう。しかし戦争や諍いが原因で、この遺跡と共に滅んでしまったのではないかの」


 もしかしたら、邪神の使徒の策略によって、かつてここに住んでいた者達は滅んでしまったのかもしれぬな。


「洗脳した信者を生贄にして、まずはこの地に封じられた邪神の欠片を復活させ、ゆくゆくは邪神本体の復活を、という計画なんじゃろ」


 邪神の欠片が解放されることで使徒達の力が強化されることはローザンとの戦いでも確認されておるしの。

 連中としては主復活が近づくだけでなく、自分達も強化されるのじゃからやらない理由がない。


「ならば悠長にはしておれんな……」


 シュルルと唸り声を上げながらレーベがエプトム大司教を睨みつける。


「まぁ待て、それはテイルに任せよ。わらわ達には別にやる事があるでの」


 ◆


「それーっ!」


「ぐはっ!」


 わらわ達が戻ってくると、テイルとエプトム大司教の戦いは佳境に入っておった。

 テイルは相応の怪我を負っておったが、それ以上にエプトム大司教の方の傷の方が深い。

 うむうむ、テイルも成長しておるようじゃな。


 あとエプトム大司教にはローザンのような超回復力はないようじゃった。

 冥気による守りはあるようじゃが、やはりローザンに比べれば弱い。

この辺りは同じ邪神の使徒でも、大元である地上の民の肉体の才能にの影響を受けておるのじゃろう。


「いきますよー! これで最後です!」


 どうやらテイルが仕留めにはいるようじゃ。

 テイルは正面に力を溜めつつも、エプトム大司教の反撃と逃亡を封じるために出の速い攻撃魔法を連射して行動を妨害しておる。

 中々に器用な魔法の使い方をするもんじゃのう。


 見ればテイルの戦いぶりを見守っていたメイアが満足気に頷いておる。

 成程、あ奴の仕込みか。


「くっ、この、調子に……」


「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 そして完成したテイルの魔法が身動きのとれぬエプトム大司教へと放たれる。

 同時に止めの魔法を放ったことで戻った余裕をエプトム大司教の妨害へと回すテイル。

 この容赦のなさは間違いなくメイアの仕込みじゃのう。


 完全に退路を断たれたエプトム大司教へテイルの必殺の一撃が迫る。

 いかに邪神の使徒とはいえ、あれを喰らえばタダでは済むまい。


「舐めるなぁぁぁぁぁっ!」


 その時じゃった。

 エプトム大司教の全身から膨大な冥気が放たれる。


「きゃぁぁっ!?」


 それに動揺したメイアの魔法の集中が緩み、エプトム大司教が拘束から解放される。

 自由を取り戻したエプトム大司教はすかさずその場から離れ、テイルの魔法の直撃を回避した。


「はぁっはぁっ!」


 じゃが、完全に回避しきれなかったエプトム大司教は無傷では済まなんだ。

 大量の冥気を放ったことで守りも弱くなっておったことから、その左半身はボロボロになっておったのじゃ。


「終わったな。あれでは長くは持たんだろう」 


 エプトム大司教の有り様を見て、レーベが戦いの趨勢が決まったと判断する。

 さて、それはどうかのう。


「くっ、くくっ、まさか私がここまで追い込まれるとは。まったくの予想外でしたよテンクロ家のご令嬢」


 圧倒的窮地、自らを追い込んだテイルを憎々し気に見つめるエプトム大司教。

 けれど、その声にはいまだ余裕が遺されておった。


「このままでは私は貴女に負けるでしょう。逃げ出そうにも、周りを囲む貴女の仲間がそれを許してはくれないでしょうね」


「なら降参しますか?」


「ははっ、まさか」


 その言葉に油断なくテイルが魔法を放つ。

 牽制ではなく、止めを刺す為の力の籠った一撃じゃ。


「その攻撃を待っていました!!」


「え?」


 テイルが驚きの声をあげたのも無理はない。エプトム大司教はテイルの攻撃を回避するどころか、両手を広げて攻撃を受け入れたのじゃ。


「ぐふっ!!」


 そしてテイルの攻撃が、エプトム大司教の胸を貫く。


「え? ええっ!? な、なんで!?」


 倒すために放った攻撃ではあったが、相手が自分からそれを受け入れたことにテイルは困惑を隠せずにいた。


「くっくっくっ、不思議ですか? 私が貴女の攻撃をおとなしく喰らったことが」


 エプトム大司教は胸から血を吹き出しながら、ニヤリと笑みを浮かべる。


「ですがこれでよいのです。本来ならこの地に信者達の血を流すことで大地を汚し、この地に封じられた我が神の力の一部を復活させる予定でした。しかしそれも貴女達によって信徒を奪われ失敗に終わった」


 ふむ、やはりわらわの予想通りじゃったか。


「ならばと貴女がたの血で代用しようとしましたが、結局それも失敗してしまいました。ならば、残る手段はただ一つ」


「ま、まさか!?」


「そう! 捧げる血が無いのなら、私の血を我が神に捧げればいい!!」


 普通なら悪党が自分を犠牲にして本会を遂げようとするなどあり得ぬ事じゃが、相手は狂信者。

 それを躊躇いなくやってしまえるあたり、すでにエプトム大司教の思考は邪神に汚染されきっておったのじゃろう。


「さぁ! 貴方様の信徒である私の血と命を捧げます! この汚れを以て、地上に蘇り給え我が神よ!!」


「まっ!?」


 テイルが慌てて止めようとするが、どうすれば邪神の欠片の復活を止めれるのかわからずに声が止まる。


「グフッ!! ……よ、甦れ! 偉大なる御神の欠片よ!!」


「っ!!」


「さぁ! この地に破滅と混乱を!!」


 狂乱の笑みとともに両腕を天へと掲げるエプトム大司教。


「……っ!」


「この地に血と死を招き給え!!」


「……」


「……?」


 しかし、彼がいくら呼びかけるも、周囲には何の異変も起きなかったのじゃ。


「あの、何も起きませんけど?」


「ば、馬鹿な! どういう事だ!? なぜ復活しない!? 準備は完璧だった筈だ!」


 完璧と思っていた予想が外れたことで、エプトム大司教が困惑の声を上げる。


「まぁ完璧ではあったの。ついさっきまでは」


「師匠?」


「……貴様、貴様が何かしたのか!?」


 わらわの言葉に、テイルとエプトム大司教が振り返る。


「うむ、こうなると思って、周辺に妨害の術式を施しておいたのじゃ」


「ええ!? いつの間に!?」


「馬鹿な! そんなことが出来る訳が!?」


「無い、か? 確かにお主が血を捧げてからでは無理だったじゃろう。しかし、それ以前から準備していたのなら話は別じゃ。お主がテイルと楽しく遊んでいた時からならばな」


「っ!? まさか!?」


「え?」


 そう、わらわ達はテイルがエプトム大司教の気を引いておるうちに、大司教の邪神の欠片の封印を解くための仕掛けを発見しそれを破壊。

更に万が一のために復活を阻止するための術式を遺跡の各所に施しておいたのじゃ。


「当てが外れて残念だったの」


「お、おのれぇぇぇぇぇ!!」


 まぁ、本当は結構ギリギリだったんじゃがな。

 いやー、間に合ってよかった。


 これで後はエプトム大司教を倒すだけじゃの!

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