第99話 魔王、モフり報告会をするのじゃ

「依頼主の荷物から、自爆用のマジックアイテムとは別のマジックアイテムが見つかりました。どうやらこれが洗脳用のマジックアイテムのようです」


 毛玉スライム達に埋もれてモフモフを堪能しておると、メイアが報告にやってきた。


「魔法陣と併用して使う物のようで、指定された通りに魔法陣を書いて基点となるマジックアイテムを起動させれば誰でも洗脳魔法が使えるようです。先日の集合場所を調べ隠されていた魔法陣も確認できました。ただモノはそこまで高性能ではないようで、良くも悪くも術者の実力に影響されない代物ですね」


 成る程のう。誰が使っても一定の効果を発揮するタイプのマジックアイテムじゃな。


「ふむ、恐らく本格的に民を洗脳する為、魔法の素養の低い部下でも使えるようにと用意した量産用かの」


「でしょうね。いちいち一人ずつ洗脳していては術者の魔力が保ちませんし、各地を巡る為の時間がかかってしまいますから」


「抵抗力の低い民間人や戦士ならこの程度のマジックアイテムでも十分従わせる事が出来る。それでだめなら術者が直接洗脳すれば良いだけじゃしな」


 シルクモスとミニマムテイルを撫でながら、洗脳用マジックアイテムの解析図を確認する。

 うーむ、本当に性能が低いのう。技術的にも大したことはない。


「じゃがこれ以上性能を上げようとすると、必要な魔力と高品質な素材が必要になって使い手が限られてくるか。魔法の素養が低い部下でも使えるギリギリといった感じじゃの。まぁ民間人を洗脳するならこの程度でも必要十分ではあるか」


 つまり、将来的により高性能なモノを開発するのではなく、これが効果を発揮できる程度の力しか持たぬ弱者を利用し尽くすのが狙いか。


「中々に外道じゃの」


 信仰心や忠誠心を利用した捨て石の兵は昔からいたが、今回に至ってはその信仰心すらまがい物とはな。


「やはり真っ当な神官の行いではないな」


 狂信者と言うのは確かに居るが、そう言う連中は自分達の信仰の正当性を重要視する。

 洗脳をするにしてもそれは自分達の教義に染めた結果であり、今回のように本心から信仰させる訳でもないやり方は過激派だからこそ逆にやらぬものじゃ。


「そうなると、可能性が高いのは邪神の使徒じゃろうなぁ」


 そう思うと気が重くなる。

 前回も戦ったが、連中は邪神から授かった加護があるからの。

 それを打ち破るのは大変なんじゃよ。戦い方や属性相性の問題もあるからの。


「ふぅ、憂鬱じゃぁ~」


 わらわはモフルペングマーやアピバラ達をモフって憂鬱な気持ちから逃避する。


「それにしても随分と増えましたね」


 と、現実逃避を続けるわらわにモフられたモフモフを回収していたメイアが呟く。

 うむ、わらわの周りには、無数のモフモフ達の姿があった。

 何故このように様々なモフモフが集まっておるかと言うと、それはわらわのカリスマ……ではなく、目の前の光景が理由じゃった。


「よーしよしよしよし」


「ワフゥ~ン」


「はーい、ごろーん」


「キャフゥ~ン」

 

 ああやってガルに仕えていた守り人達が、定期的に島のモフモフ達の毛の手入れをしておるのじゃ。

 モフモフ達も手入れをして貰うと毛並みがフワフワになる故、彼等は大人気じゃった。

 とはいえ、島中のモフモフの手入れとなるととても一日では終わらんし、数も多い。

 さすがの守り人達疲労の色を隠せ……


「ほーら次の子来るだよー」


「はい出来上がりー」


 いや、全然そんな事なさそうじゃな。

 寧ろめっちゃキラキラと充実した顔をしておる。


「いやー、リンド様がどんどん新しいのを連れてくるから、仕事が全然終わらないだよー」


「いやホントだべ。こうも毛の手入ればかりだと大変だべなー!」


 ……その割には滅茶苦茶楽しそうなんじゃけど?


 まぁあ奴等はガルの毛並みに惚れ込んだ筋金入りのモフモフ好きじゃから、放っておくか。

 寧ろわらわとしては、あちらで転がっておる毛玉二つに興味が向く。


「あ奴等、すっかり馴染んだのう」


 転がっておったのは、ウィーキィドッグ達じゃ。

 あ奴らも守り人達の手入れにメロメロにされたらしく、だらしなくヘソ天で地面に転がっておった。


「ガルの話では元々人に飼われていた可能性があるそうです」


「成る程のう。それでああも簡単に手入れを受け入れたか」


 ガルに懐いてからのウィーキィドッグ達は、驚く程早く他の魔物達に馴染んだ。

 それどころか人間である守り人達にさえあの通り……なんじゃが……


「グルルルッ」


「ギャンギャンギャン!」


「なのに何故かわらわにはこうなんじゃよなぁ」


 ウィーキィドッグ達はわらわが近づくと、何故かこのように敵意むき出しで吠え立てるんじゃよなぁ。わらわ何か悪い事したかのう?

 

「野生動物ですし、リンド様の本性に気付いて恐れているのでは?」


「それを言ったらお主も吼えられておるじゃろ」


「いやいやいやいや、リンド様に吼えてるんですよ」


 こ奴、自分を棚に上げて言いよるわ。

 おぬしが腹黒キャラじゃと皆知っておるのじゃぞ。


「いやいやいやいや、お主一人の時でも吼えられておるじゃろ?」


「「はははははははは」」


「まぁ容赦なくモフるんじゃけどな」


 わらわ達は目にもとまらぬ速さでウィーキィドッグ達の背後に回り込むと、有無を言わさずモフる。


「所詮ウィーキィドッグですからね。どれだけ力を入れて噛まれても全く痛くありませんからね」


「わふぅ~ん!」


「きゃふぅ~ん!!」


 ウィーキィドッグ達が逃れようと身をよじるが、わらわ達のテクニックが良すぎる為にまったく力が入っておらぬ。


「ほーれほれほれ、ここか? ここがええのか?」


「ふふふ、貴女の弱点は分かっていますよ、ここが弱いんですよね」


「わ、わふぅぅぅぅぅん!」


「きゃ、きゃふぅぅぅぅぅぅん!」


 ふっ、勝った。


「……そういうことをするから嫌われるのではないか?」


 そこの神獣、余計なことを言うでないわ!


「「わふぅぅん……」」


「ぐったりしてるのー」


 ウィーキィドッグ達をモフり終えると、毛玉スライム達が集まってくる。

 ちゃんと順番待ちするあたり、我慢が出来る奴らじゃ。


「ふぅ~、モフモフを満喫したのじゃ」


「なかなかのお手前でした。守り人達の手入れは見事ですね」


「さて、それではエプトム大司教の件じゃが」


「何事も無かったかのように真面目な話に戻ったー」


 はっはっはっ、お主等もちゃんとモフッてやるから安心せい。


「それですが、既にメイド隊が依頼主を装っていた男の口を割らせました」


 そうメイアが言うと、その陰からメイド隊の一人、ソーティが姿を現す。


「流石に早いの」


「ありがとうございます。ですがただの使い走りでしたので、大した情報は引き出せませんでした。あの男は近隣の犯罪組織に所属する小悪党で、上役に命じられて教会に入り、命令をこなしていただけのようです。ですので、エプトム大司教が黒幕である事も知りませんでした」


「なんと、教会の人間が犯罪組織を利用しておったか」


 なんともきな臭いことになってきたの。

 邪神の使徒というだけでなく、犯罪組織にまで関わっておるのか。


「現在調査中ですが、どうもその組織自体、教会、いえエプトム大司教が創設したものである可能性が高いです」


「ああ、成る程。洗脳魔法を使えば、どんな命令も聞くからのう」


 ならば幹部連中は全員洗脳されておる可能性があるの。


「とはいえ、下位の者達は手間もかかるので洗脳などもせず普通に集まって来た者達を使っているみたいですね」


「いかに洗脳魔法が使えるとは言え、不特定多数の前で顔を見せるのは正体がバレる危険が高いからのう」


 となると、上役を確保して情報を得るのはちと面倒じゃの。

 まぁそれは何とでもなるんじゃが……


「ところでさっきからテイルが真っ白な顔で小刻みに震えとるんじゃが、なんかあったのか?」


 そう、珍しくメイド服に着替えたテイルが、ソーティの後ろでプルプルと小鹿のように震えておったのじゃ。


「はい、久しぶりに戻ってきたのでメイドとしての修行を再開させただけです。ちょうどよい尋問の訓練教材も手に入ったことですし」


「そうか」


 テイルの教育に関してはメイア達に任せておるゆえ、問題はな……


「そうかじゃないですよ師匠ぉぉぉぉぉっ!!」


 まぁいいかと思ったわらわを引き留めるかのように、テイルが半泣きで叫んだ。


「あ、あれ、絶対尋問なんかじゃないですよ! 絶対拷も……」


「テイル、ご主人様に対して不敬ですよ」


 しかしテイルが最後まで言い終える前に、一瞬で背後に回り込んだソーティがテイルの頭蓋骨を鷲掴みにする。


「グエッ!!」


 明らかに嫁入り前の女子が出しては問題のある潰れたカエルのような声が漏れる。


「それに酷いことなどしていませんよ。誠心誠意お客様をおもてなしして、気持ちよくお話していただいただけですよ」


「ぃや……ぁれは気持ちょくじゃなくて、全部ゲロッてこれでよぅゃくこの苦しみから解放されるって喜んだ顔でし……」


「そ・れ・よ・り・も、貴女はリンド様の弟子だからと調子に乗りすぎです。貴女は弟子である前にメイドなのですから、主に対する言葉遣いも学ばないといけませんよ」


 そう言うと、ソーティは顔だけを動かしてわらわに視線を向ける。


「そういう事ですので、わたくしはテイルに言葉遣いを学ばせるために失礼いたします。エプトム大司教の居場所は今回得られた情報を元にすでに他の者が動いております」


「うむ、任せたぞ」


「待ってください師匠! 助けて! 助けてくださーぃぃ……」


 あーあー、わらわには何も聞こえなんだのじゃ。

 うむ、強く生きるのじゃテイルよ。


「……」


 などと馬鹿なことをやっておった所為で、わらわはすぐ傍でこの会話に耳を澄ませていた者の存在に気づかなかったのじゃった。

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