第78話 魔王、太陽の獅子を植えるのじゃ

「プルプル……怖い魔物が居なくなったポン?」


 空中でアローイーグルに襲われていた魔物は、ライオンのぬいぐるみのような生き物、ダンデライポンじゃった。


「なんじゃ、ダンデライポンではないか」


 ダンデライポンは動物のような見た目じゃが、実際には植物の魔物じゃ。

 全身を覆う毛皮は、実は極細の根っこなのじゃ。

 そして四肢はちゃんと動き、自分の足を使って日当たりの良い場所や水場に移動する性質を持っておる。

 また頭部をたてがみの代わりに花びらを生やしておるのじゃが、別の土地に移住する際には今のようにそれが綿毛に変わる。

ダンデライポンはその綿毛に風を受けて空を飛び、離れた土地で繁殖する性質を持つ魔物なのじゃ。


 ただ、ダンデライポンは寂しがり屋な為、あまり元の群れから離れる事はないんじゃがな。

 にも拘らず海を渡っていたのはどういうことか。

 しかも移動中のダンデライポンは風に吹かれるままに移動する為、空の上では無防備じゃ。

先ほどのアローイーグルのような空を飛ぶ魔物に狙われたらひとたまりもない。

 彼等が余り元の群れから離れたがらぬ理由はそれも原因であった。


「まぁここで話していても埒が明かん。お主等、移住先を探しておるのなら、一旦わらわの島に来ぬか? そこなら水もある故、落ち着いて話もできよう」


「君が僕達を助けてくれたんだポン?」


「うむ、その通りじゃ」


「ありがとうポン!」


 ダンデライポン達が綿毛で出来た鬣を震わせて感謝の気持ちを伝えてくる。

 あれ、あんな風に動くんじゃな。


 ダンデライポンを引き連れて島に戻ったわらわは、彼等を水辺に近い場所に案内する。


「わーっ、お水だー!」


 地上に降りたダンデライポン達は、テコテコと水場の近くに移動すると、その場で穴を掘り始める。

 そして一定の深さまで土を掘ると、彼等はその中に入っていった。

 結果、無数のライオンのぬいぐるみの首が突き出した猟奇的な光景が生まれる。


「あー、水分が美味しいポン」


「あっ、花びらでそうポン」


 一部のダンデライポンがそんな事を言うと、たてがみの綿毛が抜けて、今度は大きな花びらが生えた。


「あっ、こら。まだここに定住すると決めた訳じゃないんだから、花びら出しちゃ駄目ポン」


「あっ、しまったポン」


 やっちゃったと花びらを震わせるダンデライポン。

 ダンデライポン達は移動する時に頭部に綿毛を咲かせるが、無事移住が済むと、綿毛が抜けて花びらが生える性質をしておるのじゃ。


「まぁ構わんよ。次の綿毛が生えるまでここにおればよい」


幸い、ダンデライポンは危険な魔物でもないし、厄介な毒なども持っておらん。

毛玉スライム達と同じく無害な魔物じゃ。


「所でお主等は何故海の上を漂っておったんじゃ? お主等は過酷な海超えをするような連中ではなかろうに?」


 するとダンデライポン達の花びらと綿毛がわずかに萎れる。


「実は、僕達が住んでいた土地に魔物が沢山現れるようになったんだポン」


 何でもダンデライポンの話では、魔族領域全体で自分達を餌にする魔物が増えた所為で生活が危険になり、安住の地を求めて海を渡ることにしたらしい。

しかしその途中でアローイーグルに襲われ、あわや全滅かと言うところでわらわに助けられたのだとか。


「だから君には感謝してるポン」


改めてわらわに感謝の気持ちを伝えてくるダンデライポン。

 しかし魔物に襲われたか。しかも魔族領域全体に……


「まぁ間違いなくヒルデガルド達の魔物使い計画の弊害じゃよなぁ」


どうやら魔物使いを使った戦力増強政策の影響で増えた魔物から逃げ出したと見える。

けれど移動は風任せな為に逃げ場が無い。

そこに普段なら遭遇しない危険な魔物に襲われた事で危ない所だったと。

 

「運が良かったのう」


「ねぇリーダー、ここの土美味しいよ。ここに住もうよ」


 と、花びらを生やしたダンデライポンが、リーダーらしい綿毛のダンデライポンに提案する。


「こら、迷惑言っちゃだめだポン」


「でもここには危ない魔物もいないんでしょ? だったらここに住もうよ。水も美味しいし」


「そうだよ。これ以上海を進んだら、もっと怖い魔物に襲われちゃうよ」


「うーん、でも……」


 仲間を叱ったリーダーだったが、また襲われるかもしれないという言葉に口を濁らせる。

そしてちらりとわらわに視線を向ける。

 何とも不安と警戒と期待が入り混じった表情じゃのう。


 まぁダンデライポンは無害じゃし、別に居ついても困りはせんのじゃけどな。

 植物の魔物故、水と栄養のある土、そして太陽の光があれば食事にも困らん。

 食事の方も完全に植物じゃからな。


「待てよ、植物?」


 そこでふとわらわはある疑問を抱く。


「のうダンデライポンよ。お主達の花からは蜜が出るのか?」


「蜜ポン?」


 ダンデライポンが植物の魔物で、鬣に花びらを咲かせるのなら、花としての機能を持っている筈じゃ。

 そしてミツが出るのなら、あの問題を解決できるかもしれん。


「出るポンよ」


「おお、まことか! よければその蜜をわらわ達に分けてもらう事は出来るか?」


「分けたらここに住んでも良いポン?」


「うむ、構わんぞ!」


 わらわが許可を出すと、ダンデライポン達の綿毛が一斉に宙を舞った。


「やったー! ありがとうだポン!!」


 そして次々と咲き乱れるたてがみの花々。


「わーい! わーい! 新しい住処だポン!!」


 安住の地を得たダンデライポン達が喜びと共に花びらを震わせる。


「くくく、上手くいけばあの件を一気に解決できるかもしれんのう」


 新たな住人を迎え入れたわらわは、もう一つの住人を迎え入れるべく、新たな計画を立てるのじゃった。

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