第四章 太陽の甘味を食すのじゃの章

第76話 魔王、久々にまったりするのじゃ

 テイルの件が解決した事で、島では久々にまったりとした空気が流れておった。


「テイルは宮廷魔術師見習いとして王宮に出入りしておるし、冒険者の仕事の方はシルクモスの生地やらアビスパールやらの売上げも入って来たから、生活にも困っておらんしのう」


 物資に関してもメイアが支配したジョロウキ商会から良い感じに搬入できておる故、もうわらわが直接大陸に出向く必要も無くなっておった。


「あー、これじゃこれ。こういうのを求めておったんじゃよな」


 今もわらわは身軽なワンピース姿で、ビーチパラソルを日陰にして浜辺で寝そべっておる。


「わーい、ぷかぷかー」


 海を見れば、毛玉スライム達が波にさらわれては、新しく島の一員になったレーネに連れ戻されておる。


「平和じゃのー」


 ここなら魔王国の陰謀も、人族の無茶な戦争の話も聞こえてこんし、寧ろ暫く島に引きこもっておる方が良いのではないかのう?

 魚はアピバラとペングマー達が獲ってきてくれるし、ラグラの実はミニマムテイル達が管理してくれておる。


「寧ろ外に出ると余計な騒動と関わってsいまうしのう」


 うむ、決めた。10年くらい島に籠るとしよう。

 邪神のアレやこれがちっと気になるが、そう言うのは今を生きる若者達の仕事じゃ。

 わらわの様なロートルはいい加減引退して若い連中を信じて任せんとな。


 ◆


「リンド様、お塩とお砂糖が切れたので買って来てくれませんか?」


「いやお主、わらわは主じゃぞ?」


 何いきなり主をパシろうとしとるかこのメイドは。


「私は今手が離せない仕事がありまして、そうなると他に転移魔法を使えるのは魔王様だけですので」


「テイルがおるじゃろ」


 宮廷魔術師見習いとして働くこともあって、テイルには転移魔法を教えたばかりじゃ。

 魔力制御の問題でまだ片道くらいしか使えんがの。

 それでも帰って来る時についでに頼んでおけばよかろうに。


「テイルは泊りがけの仕事があるそうで、夕食に間に合わないのです」


 マジか。


「と言う訳でお使いお願いいたしますリンド様。お釣りでお菓子を買って構いませんから」


「子供か!」


 ◆


「まいどありー」


 はぁ、結局来てしもうた。

 メイアの奴め、お使いに行かねば材料が足りなくて夕飯のおかずが一品減るとか脅しおって。


「まぁ良い、お釣りで何か買うとするか」


 わらわは商店街を散策しつつ、何か良いものは無いかと視線をさまよわせる。

 店先に見えるのは、クッキーやアメといったある程度日持ちするものが多いの。


「とはいえ、クッキーやアメという気分ではないのう」


 もうちょっと良い感じの物は……


「おっと、そう言えばあの店はハチミツを使った菓子が置いてあったの」


 たまたま視界に入った店を見たわらわは、以前そこで砂糖の代わりにハチミツを使った菓子が売っていた事を思い出す。


「確かあの店は魔物のハチミツを使っておったんじゃよな」


 ハチの魔物の蜜は普通のハチに比べると危険じゃが、上手く対処法を知っておれば、普通の人間でも戦うことなくハチミツを手に入れる事が出来る。

 あの店の先代店主はそのコツを利用して、店を繁盛させたのじゃと二代目の店主が話してくれたのじゃ。


「よし、今日はハチミツ菓子にするか!」


 久々のハチミツ菓子を楽しもうと、店に入ると……


「らっしゃい…………」


 燃え尽きた店主の姿がそこにはあった。


「って、どうしたんじゃぁーっ!?」


 一体何事じゃこれは!?


「商品はそこにあるので全部だよ……」


「商品って、殆ど無いではないか」


 わらわの言葉通り、いつも商品が並べられているテーブルや棚には碌に商品がなく、まるで閉店間際の様な品薄状態じゃった。


「自慢のハチミツ菓子はどうしたのじゃ?」


「…………獲れなくなったんだよ」


「獲れなくなった? どういう事じゃ?」


 確かこの辺りのハチの魔物は危険度も低い魔物の筈じゃ。

 現にこれまで戦士として鍛えておらぬ店主でもなんとかなっておったくらいじゃし。

 となるとあり得るのは余所から流れて来た魔物によって蜂の巣が荒らされたか?


「冒険者が蜂の巣を荒して手当たり次第にハチミツを持って行っちまったんだ!」


「なんじゃと! 冒険者が!?」


 なんじゃそりゃ? 何でまた冒険者が?


「なんでも国がポーション大量生産するからって、ポーションの材料になる魔物のハチミツまで冒険者ギルドに依頼したらしいんだ」


 ああ、そういえばハチの魔物のハチミツは魔力的な滋養も高い故、ポーションの材料になるんじゃよな。

 ぶっちゃけ薬草を使ったポーションの方が治療効率は良いのじゃが、ハチミツを使っているだけあって、ハチミツポーションの方が味が良い。

 なので、貴族や金持ちの子供にはハチミツポーションの方が人気が高いのじゃよ。


「で、それを聞いた冒険者達が金になるならって蜂の巣をメチャクチャにしちまったんだよ。あいつ等、蜂の巣の入り方も手入れの仕方を知らねぇから、怒ったハチと派手に戦って巣をメチャクチャにして、そのせいでハチは更に怒ってとてもじゃないが蜂の巣に入れなくなったんだよ」


「なんとまぁ」


 それは災難じゃったのう。

 

「冒険者の連中、根こそぎハチミツを持って行っちまったから、子供のハチが育たなくなっちまって今後のハチミツの貯蓄も難しい状況なんだよ」


 店主の話では、ハチミツは魔物のハチの生活を脅かさない程度に分けてもらうものらしい。


「冒険者ギルドに苦情を入れなんだのか?」


「言ったよ。けど冒険者共全然守ろうとしないんだ。あいつ等流れ者だから、ここで獲り尽くしたら別の森に行くから関係ないんだよ!」


 あー、冒険者の流れ者の悪い部分がこういうところで出てしもうたのう。

 むぅ、一応は冒険者であるわらわにとっても耳の痛い話じゃ。


「ちなみに、その蜂の巣を再建しようと思ったらどうすれば良いのじゃ?」


「……そうだな、花の蜜を大量に集めて蜂の巣に集めれば、ハチ達がそれを子供達の為のハチミツにしてくれるんだが、魔物のハチが育つ為の量の花の蜜となると相当な量だ。これまでは地道に集めてきたからよかったが、今から必要量集めるとなると……」


「とても数が足りんか」


 ますます困った話じゃのう。


「すまぬ、わらわでは力になってやれぬ」


「ああ、すまねぇな。嬢ちゃんには関係ないのによ」


 愚痴を言うだけ言ったら多少はスッキリしたのか、店主はわらわに謝罪をしてくれた。

 結局買うものも無い為、わらわは店を後にしたのじゃった。


「既に蜂の巣は荒された後じゃし、今からわらわが冒険者ギルドに何か言いに行くのも無意味じゃのう。というか下手に行ったらまた面倒な依頼を頼まれかねん」


 結局、わらわに出来るのはこの砂糖と塩を島に持って帰るくらいかの。


「しっかし何でまた国はポーションの大量生産なんぞ始めたんじゃ?」


 まぁ考えられるのは戦争くらいのもんじゃが、わらわ魔族との戦争が小康状態になった今は、国内を安定させて国力の回復をするのが定石。

 このタイミングで戦争なんぞしたら、他国に横っ腹をブチ抜かれるぞ?


「いったい何を考えておるんじゃろうなぁ」


 ふむ、ちっとテイルに命じて王宮内で情報収集させるとするかの。

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