第68話 魔王、と寄せ集め精鋭軍団対魔獣大決戦なのじゃ

「師匠ーっ!!」


「全く、仕方のない弟子じゃのう」


 影ながらテイルの様子を見守っておったわらわらわ達じゃったが、流石にあの魔物はテイル一人では荷が重いと判断し、多少手助けをしてやる事にした。


「気をつけよ、アレは強力な魔獣じゃ」


 あの魔物、いや魔獣、見ただけでクラーケンよりも強いと分かる。

 まさかあのようなものがこの辺りにいたとは、わらわも驚きじゃ。


 それにあの島も気になるの。

 先ほどまでは全く気付かなんだが、あの島からは何やら嫌な感じがしておる。

 合流した船からの報告では結界で隠されていたという話じゃが、この不穏な気配もその結界で隠しておったようじゃの。


 しかし気になる事がもう一つある。

ついさっきまでは島の方角から神聖な気配もしておったんじゃが、今はその気配はなく、不穏な気配のみとなっておった。

 あの気配は何じゃったのかのう?


 グルロロロロロ……


 余計な事を考えておったら、吹き飛ばした魔獣が再びこちらに向かって来ておった。


「ふむ、わらわの魔法を受けて尚向かってくるか」


 魔物は決して浅くはない傷を負いながらも、怯える様子は見えなんだ。

 恐怖心が薄いか、闘争本能が恐怖を凌駕するタイプかのう? もしくは……

 

「おい、何でお前がここにいるんだ!?」


 さてどうしたものかと考えておったら、グランツめが血相変えてやってきた。


「あー、ちと用事があってこの海域に来たんじゃが、そしたらお主等が襲われておったのでな。助太刀に来たのじゃ」


 テイルの様子見る為に潜んでおったとは言えんしの。適当に誤魔化しておくとするか。


「用事ってお前、この辺はクラーケンの縄張りなんだぞ……!?」


「それよりも今はあの魔獣が先決じゃ」


 これ以上詳しい事情を聞かれると面倒じゃからの、話を強引に魔獣に戻す。 


「そ、そうだった!」


 テイルや魔法使いが魔獣に魔法を放つが、その勢いは弱まらぬ。

 どうやらクラーケン以上の魔法耐性も持っておるみたいじゃの。

 とはいえ、手加減したわらわの魔法が通じておるのじゃから、そこまでの脅威ではない。


「俺達の弓はあの毛に阻まれて通らん。せめて近づければ俺達の獲物で叩っ切ってやれるんだが」


 と、グランツは自分の本来の獲物を握って悔しそうに言う。


「確かにアレを相手に多少の矢襖など焼け石に水じゃからの」


 それだけではない。体毛に海水が絡まる事で毛が重さを増し、矢の貫通力をさらに下げておるようじゃ。

同様の理由で火属性の魔法や衝撃を叩きつけるような魔法も効きが悪いの。

唯一斬撃効果のある風魔法なら体毛を斬る事が出来ておるが、その下の皮膚を切り裂くまでには至っておらん。

しかし下手な斬撃は先ほどのテイルの魔法同様体毛皮で滑ってしまう。

もしやあの毛に対魔法効果があるのか?


「これは体毛を刈ってから海水の影響を受けぬ魔法でとどめを刺す必要があるの」


 ここは人の目が多い故、わらわが本気で戦う訳にはいかん。

 単純に力を隠したいというのもあるが、そんな事をしてはテイルの宮廷魔術師選抜試験がメチャクチャになってしまうでな。

 あくまでテイルに目立ってもらわねば。

「となると、方法は一つか」


 わらわは慌ただしく色々な魔法を試しているテイルを見つめる。


「テイルよ、わらわと協力して魔法を放つのじゃ!」


「で、でも師匠、私の魔法全然効きませんでしたよーっ!?」


「落ち着くのじゃ。倒すのではなく。あの島まで思いっきり吹き飛ばすのじゃ。出来るな?」


「そ、それならなんとかいける……かな?」


 わらわはグランツに視線を向けると、作戦を伝える。


「今からわらわ達があの魔獣を島まで吹き飛ばす。そうしたらお主等は陸に上がってあの魔獣相手に白兵戦を仕掛けるのじゃ! 行けるな?」


「出来るのか?」


「無論じゃ!」


「……分かった! 近づく事さえできるなら俺達に任せろ! お前等! 今からこの嬢ちゃん達が……」


 わらわの作戦を受け入れたグランツは、すぐさま他の冒険者達相手に作戦指示を出す。

 ふむ、この対応の速さ、わらわの部下に欲しかったのう。いやもう魔王辞めたけどの。


「よし、それではタイミングを合わせてやるぞ!」


「は、はい!」


 と言っても、実を言えばアレを吹き飛ばすのに二人で協力する必要なぞない。

 なんならテイル一人でも十分なくらいじゃ。


「「ストームバースト!!」」


 わらわの放った魔法が魔獣の巨体を真上に吹き飛ばし、テイルがタイミングをずらして放った魔法が、宙に浮きあがってバランスを崩したその体を島に吹き飛ばす。


「す、すげぇ! あんなデカイ魔獣を吹き飛ばした!?」


「馬鹿な! いくら高位の風魔法でもそんな事は無理だ!!」


「もしや何か特別な術式を使っているのではないか?」


「あの少女、幼子の方に対して師匠がなんとか言っていた。恐らくは同門の術師なのだろう。ならば連携する事で威力を増す秘伝の術式を持っているのかもしれん」


 よしよし、流石は宮廷魔術師を目指す者達じゃ。

 良い感じにわらわ達がやった事を深読みしてくれたわ。

 こうしておけば、人族の魔法使いの割に魔法の威力が強すぎても何らかの協力魔法じゃと勘違いしてくれるのでな、あの魔獣相手に面倒な手加減をせずに済む。


「よーし、それじゃ陸に上がってあの魔獣を狩るぞ!!」


「「「「おおーっっ!!」」」」


 グランツの号令に冒険者達が雄たけびで応える。

 さぁ、戦いの始まりじゃ!!


 ◆


「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 冒険者達がパーティに分かれて魔獣に向かって駆けだすと、騎士団は攻撃に加わらず、その真逆の位置で合流を始める。

 ふむ、冒険者達が囮になっている間に、騎士団は一斉突撃の準備か。

 奇しくも冒険者と騎士団の戦い方の違いが見るの。

 冒険者達は少数チームによるかく乱戦闘を行い、騎士団は戦力を整えて最大威力を叩き込むやり方じゃ。


魔獣の至近距離でそんな悠長な事をするのは自殺行為じゃが、冒険者達がかく乱をしてくれているお陰で魔獣はそこまで気が回っておらぬ。


正しく冒険者と騎士の運用がかみ合っている珍しい光景じゃな。

ただ冒険者の攻撃は濡れて水分をたっぷり溜め込んだ毛皮に防がれておる。


「フレイムサークル!!」


 魔獣が攻撃の姿勢を見せると、冒険者が下がってテイルが炎の壁の魔法を発動させる。

 これによって魔獣が冒険者達の姿を見失って攻撃が阻害された。

 うむ、陸地なら攻防一体の炎の壁の魔法は有効じゃの。

 それにあの毛が炎で燃えて遠距離攻撃が通じやすくなるのも良い。

 とはいえ、まだまだあの毛は水分が多いからもうひと押しするか。


「ウインドサークル!!」


 わらわはテイルの魔法に合わせて風の中位魔法を発動させる。

 これによって魔物の体毛の水分を吹き飛ばしつつ、テイルの炎と組み合わさる事で温風となって更に毛の乾燥を早めるのじゃ。

ちなみに上位魔法を使わなんだ理由は、わらわの風でテイルの炎をかき消してしまわぬためじゃ。


「よし、突撃ぃぃぃぃぃっ!!」


 炎と風の壁の魔法が消えると、騎士団が反対方向から突撃し、魔獣の体を傷だらけにしてゆく。

 うむうむ、いい感じに毛皮が乾いて攻撃が通じやすくなっておるわ。

 それに槍の刺突なら、毛皮の防御を貫通しやすいのも攻撃がかみ合っておる。


「グルァァァァァァッッッ!!」


 傷を与えられた事に怒った魔獣が騎士団を攻撃しようとするも、今度は冒険者達が自分達を忘れるなとばかりに側面から攻撃を再開して魔獣の注意を逸らす。

 更に後方から魔法使いと弓使い達の援護が届き、冒険者と騎士団が魔獣の攻撃範囲から非難する時間を稼ぐ。



 うむ、良い展開になってきたのう。

 攻撃と防御と陽動が上手くかみ合っておる。


 負傷者が出てもすぐに誰かが救助に向かって回復させておるので、戦力の致命的な不足も起きておらん。

 これなら多少時間はかかるが、魔獣を討伐する事が出来るじゃろう。


その時じゃった。わらわ達の部隊が配置されておらぬ方向から、魔獣に攻撃が放たれたのじゃ。

 何じゃ? 挟撃の為に兵を反対側に送ったのか?

 しかしそこに現れたのは、騎士団の伏兵ではなかった。


「そこまでだ魔物!! 僕達が来たからにはもう勝手はさせないぞ!!」


 そう、新たにやってきたのは島の調査に向かったきり音沙汰がなくなっていた勇者一行だったのじゃ。

 ううむ、この忙しい時に面倒な連中が現れたのう。

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