第63話 魔王、お嬢様再びなのじゃ!

◆とある王国貴族◆


 王国の西部にあるトルマリッド子爵家にて、パーティが行われていた。

 この貴族は大貴族ではないものの、西部においては広い人脈を持つ男として侮れない発言力を持っていた。

 それというのも、彼は自分の主催するパーティでは積極的に平民の実力者を招いていたからだ。


 通常貴族は平民と言葉を交わす事を良しとしない。

 自分達は特別な存在であり、平民とは文字通り立場が違うと言う自負があるからだ。

 特に大貴族や古い貴族程その傾向が強い。

 だからこそトルマリッド子爵はそれを利用する事にした。


 大貴族が見向きもしない新進気鋭の商人や職人、それに傭兵や冒険者を積極的に囲う事にしたのだ。

 つまりは人材の青田刈りだ。

 幸い彼は人の素質を見る目は確かだった。

 彼が援助を続けた事で成功した者は多く、その結果彼の下には優先的に珍しい品や高品質な品、そして強力な戦力が集まるようになったのだ。

 同時に彼の人脈を求めて貴族もまた集まって来るようになる。


 そして今日のパーティもまたそうした彼の人材集めの一環であり、ホストであるトルマリッド子爵の下には多くの商人達が挨拶に殺到していた。


「ふぅ、ようやく終わったか」


 一通りの挨拶を終えたトルマリッド子爵は使用人の運んできたワインで喉を潤す。


「いえ、まだ一人来ていませんな」


「何?」


 既にホストである自分が会場に来ていると言うのに、まだ会場にすらたどり着いていない招待客が居る事にトルマリッド子爵は驚いた。


「一体だれだその礼儀知らずは」


 貴族の開催するパーティにおいて下位の者は上位の者よりも早く会場に付いていなければいけない。

 挨拶の順は上位の者だが、下位の者にとっては上位の者を出迎える意味でも先に来ていなければいけないのだ。

 そして参加者が一通りの挨拶を終えたタイミングでホスト役の貴族が姿を現す。


 無論これには国や地域の風土や地理的状況による差異もあるが、おおむね王国ではこれが一般的なパーティーマナーだった。


「まだ到着していないのはジョロウキ商会でございます。以前からそれなりの規模を誇る商会でしたが、トップが変わってから国外の珍しい品を仕入れる方向に経営戦略を替えたらしく、今回もその関係で是非パーティに参加させてほしいと頼まれました」


「主が変わった?」


 執事の発言に代替わりでもあったのかと反射的に問うトルマリッド子爵。


「どうも隠し子が居たようで」


「ああ、そういう事か」


 それだけ聞くとトルマリッド子爵はすぐにジョロウキ商会の事を頭から追い出した。

 毎日のように新しい商人や職人がやって来るトルマリッド子爵にとって、たかが平民の商会の騒動など覚えておく価値もないからだ。


「貴族に対しての最低限の礼節も守れぬようなものではあまり期待できんな」 


 こういった事は珍しくなく、有力な者を集めるトルマリッド子爵の下には玉石混合と言っても過言でない程有能な者も無能な者も集まっていた。

 そしてトルマリッド子爵はジョロウキ商会を無能な者に分類した。


「~~っ!?」


 その直後だった。

突然パーティ会場の入り口付近が騒然となったのである。


「何事だ?」


 突然のハプニングにトルマリッド子爵は様子を見るべく騒動の場に向かう。


(また平民が酒の飲み過ぎで騒ぎでも起こしたか? 頭が痛い話だが、こればかりはパーティの方針の問題もあって対処が難しいな)


 実を言えばこういったトラブルは珍しくない。

 何しろパーティに参加するのは教育を受けた貴族ばかりではなく、真っ当な教育をうけたかも怪しい平民も多いからだ。

 そういった者は生活水準の違いやマナーを知らない事でトラブルを起こすことも多い。

 中には同じ理由でついつい騒ぎを起こしてしまう者もいるのが頭の痛い問題だった。


「酒は嗜むものであって、水のように飲むものではないといつも言っているのだがな」


 また同じ者が騒動を起こしたのであれば、次からは飲酒禁止を命じよう。それでも騒動を起こすのなら出入り禁止だ。

 そう心に決めながら騒動の場に到着したトルマリッド子爵だったが、事態は彼の想像とは真逆の状況になっていた。


「なっ!?」


 ◆


 そこにいたのは、まるで物語の王女と見まがうばかりの美しい少女だった。

 幻想が形になったかのようなドレス、衣装を、髪を、肌を彩る装飾品。

 何より少女自身が言葉も出ない程美しかったのだ。


 穏やかな川の流れのように波打つ長い髪。

 長手袋とドレスの隙間からわずかにしか見えないにも関わらず、視線を吸い寄せられずには居れ慣れない艶やかな肌。

 愁いを帯びた眼差しは髪を飾る宝石に勝るとも劣らない輝きを放ち、淡い色の紅を塗られた唇はその色に少女としての幼さを残しつつも、確実に大人の女性へと変化している事を主張しているように艶やかさがあった。


「美しい……」


 それは誰の言葉だっただろう。もしかしたら自分が無意識に発した言葉であろうかと朧げに夢想していたトルマリッド子爵に、少女が視線を向ける。


「っ!?」


 まさか自分が見つめられるとは思わず、トルマリッド子爵の心の臓が跳ね上がる。


(な、なんだこのトキメキは!? い、いや私は幼女趣味などでは断じてない! 妻も娘も居るのだ! だというのに視線が外せない!)


 トルマリッド子爵は困惑しきっていた。

 だがそれはトルマリッド子爵だけではない。この場にいる全員が、招待客のみならず、護衛役も、食事や飲み物を運んでいる使用人すらも少女に釘付けになっていたのだから。


「初めましてトルマリッド子爵様。わらわはジョロウキ商会の紹介で参ったジェネと申す」


「っ!? そ、それは……ようこそおいでくださいました……ジェネ嬢」


 ジェネと名乗った少女に話しかけられた事でまたしても固まってしまったトルマリッド子爵だったが、なんとか堪えて挨拶を返すことに成功する。


「ジョロウキ商会の紹介との事ですが、そのジョロウキ商会は?」


 意識を少女から逸らす事で冷静さを取り戻そうとするトルマリッド子爵。


(確か先ほどハンスと話していた商会の名前だったな。ただの無能な店かと思っていたが、一体何者だ?)


「私はこちらに」


 すると少女の後ろから、さえない男が姿を現した。

 妖精のように華やかな少女の横に置くにはあまりにも平凡過ぎる男だ。


(ああ成る程、あまりにもジェネ嬢と差があり過ぎて気付かなかったのか)


 寧ろこの少女の引き立て役となってしまった事を憐れんでしまうトルマリッド子爵。

 最も、実際にはこの男が気配を消していた事も大きかったのだが、それに気付く精神的な余裕は今の彼にはなかった。


「この度はパーティに遅れてしまいまことに申し訳……」


「ああ、構わん。許す。それよりもジェネ嬢はいかなる御用でここに?」


 ジョロウキ商会との会話など無駄と早々に割り切り、トルマリッド子爵はジェネとの会話を優先した。


「うむ、実はジョロウキ商会とアビスパールの取引を行ったところ、是非自分が参加するパーティにパートナーとして同行して欲しいと頼まれたのじゃ」


「「「「アビスパール!?」」」」


 その宝石の名に、周囲の令嬢、夫人達が一斉に声をあげる。


「そ、そそそその真珠はアビスパールなんですの!?」


「海の奇跡と名高い伝説の!?」


 邪魔者を押しのけんばかりの勢いで殺到してくる令嬢や婦人達に思わず身を下げるトリマリッド子爵。


「お、おい、お前、失礼だ……」


「アナタは黙っていてください!」


「そうですわ!」


 妻や娘の非礼を窘めようとしたものの、彼女達のあまりの剣幕に手を引っ込めると、そっと後ろに下がって空気と同化する男達。


「ああ、ええと……」


「まぁ! では貴女の土地ではアビスパールが手に入るのですか!?」


「素晴らしいわ! 是非とも仲良くさせて頂きたいですわ!」


 そしてホストでありながらすっかり蚊帳の外に追い出されてしまったトルマリッド子爵の代わりに、いつの間にか彼の妻と娘が会話に加わっていた。


「……ふっ」


  そして何かを諦めた表情になると、トルマリッド子爵は空気となっている男達と同化して共に会場の隅へと移動していった。

 さしずめ令嬢達という熱気によって、天井に追いやられる空気のように。


「ところでアビスパールも素晴らしいのですが、そのドレスは……」


 まさかと思いつつも、もしかしたらと期待した少女がジェネのドレスについて尋ねる。


「うむ、このドレスはシルクモスの生地を使っておる」


「やっぱり! 最近話題のシルクモスの生地ですのね!」


 シルクモスの生地はリンド達が乗っ取ったジョロウキ商会が取り扱う商品だが、あまりの人気に購入する事ができず、多くの令嬢達が歯噛みしていたのだ。


「それだけではありませんわ! こちらの装飾品はもしや……」


「それはジュエルコーラルじゃな」


「ジュエルコーラル!? オブシルド公爵家の家宝ではありませんか!?」


 上級貴族が特別な日にのみ纏う宝石の名にまたしても令嬢達が騒然となる。


「家宝? わらわの地元では多少高価なだけで普通に手に入るぞ?」


「「「「何ですってっっっ!?」」」」


 信じられないジェネの発言に、令嬢、そして夫人達が騒然となる。

 それもその筈。本来な国の国宝、大貴族の家宝とされるような品がちょっとお高い商品程度に言われたのだ。

 当然彼女達はこう考える。

なら、自分達でも買えるのではないか? と。


「え? あれ?」


 そこでふとある貴族令嬢が気付いた。

 気が付けばジェネの後ろに二人の女性の姿があった。

 一人は妙齢の美女、もう一人はジェネよりは年上だが若い少女。

 二人ともジェネとは別の美しさを放っており、自分達は何故この二人に気付かなかったのだろうかと息をのむ。


「あ、あの、ジェネ様? そちらのお二人はお友達ですか?」


 もし二人がジェネの友人であれば、挨拶を忘れていた自分達はかなりの失態を犯した事になる。

 何よりこの二人の女性が身に纏っているドレスと装飾品もまた、ジェネの纏う品と同じ輝きを放っていることに彼女達は驚愕していた。


「いや、この二人はわらわの使用人リアと護衛として雇ったテイルじゃ」


「「「「は!?」」」」


 令嬢たちは我が耳を疑った。ジェネの後ろに控えている二人が使用人と護衛?


「で、ですがそちらのお二人が身に纏っているのは……」


「うむ、シルクモスのドレスとアビスパールとジュエルコーラルの髪飾りじゃな」


「「「「っっっ!?」」」」


 やはり間違いではなかった。

 主であるジェネだけでなく、ただの使用人と護衛ですらこの希少な生地と宝石を身に纏っているのだ。


「そ、その、ジェネ様? ジェネ様の故郷では使用人でもシルクモスの生地やアビスパールを身に纏う事が出来るのですか?」


 一人の令嬢が恐る恐る尋ねると、ジェネはふむと、僅かに考え込むそぶりを見せる。


「そうじゃの、流石に誰でも身に纏えるわけではない。この二人はわらわの傍仕えとして連れて来たからの。わらわの格を落とさぬために身に着ける事を許したのじゃ」


「そ、そうなのですか……」


 やはりたかが使用人程度が気軽に身に着ける事が出来るものではないようだ。

 しかし相応の理由があれば身に纏う事を許されるくらいには入手は絶望的ではない。

 令嬢達はジェネの言葉をそう理解した。


 彼女達とてアビスパールやジュエルコーラル、そしてシルクモスの生地の価値は知っている。

 いかにジェネがちょっとお高いもの程度と言ったとしても、それは上に立つ者の、つまりは金持ちの価値観だ。

 金持ちのちょっと高いと貧乏人のちょっと高いでは価値が大きく異なる。金額も異なる。

 つまりジェネの国であってもそれらの品はやはり高いのは間違いない。


(でも、手に入らない訳じゃない!) 


 王国においてアビスパールやジュエルコーラルは、金額以前の問題だった。

 何しろ品が無いのだ。

 だが、ジェネの国には現物がある!


「ジェネ様、その、アビスパールを我が国で販売される予定などはございますか?」


 再び先ほどの勇気ある令嬢がジェネに質問をする。

 まさに英雄的蛮行、そして圧倒的抜け駆けであった。


「うむ、この国での商売に関しては、ジョロウキ商会に一任してある」


「「「「……っっっ!!」」」」


「ひぃっ!?」


 尋常ならざる眼差しで一斉に振り向いた令嬢および夫人達に、ジョロウキ商会の代表が悲鳴を上げる。

 女達の目は、ギラギラと輝き、男は自分が蜘蛛の巣に囚われた憐れな獲物になったと錯覚する。いや、ある意味では錯覚ではなかった。


「そちらのお方、是非お話したい事があるのですが」


「ええ、ええ、あちらでお話いたしましょう」


 まるで津波のような勢いで令嬢達に連れて行かれるジョロウキ商会の代表。

 その光景を見ていた男達は令嬢達に揉みくちゃにされる彼を見てこう思った。


「「「「怖い」」」」


 静かに、誰ともなしに、男達は会場の片隅に攫われていった男に黙祷を捧げたのだった。


 ◆


「いやー、大成功じゃったな!」


 パーティ会場から帰ったわらわは、さっそく窮屈なドレスを脱ごうとするも、必死の形相のメイド隊に羽交い絞めにされた。


「お着替えは私共がお手伝いいたしますから!」


「どうか乱雑に脱ぐことはご容赦を!!」


「う、うむ?」


 なんか涙目じゃったので、素直にメイド達に着替えを任せる事にした。


「リンド様、湯の準備が整いました」


「うむ」


 ドレスを脱いで下着姿になると、わらわは浴場へと向かった。


「はぁー、やはりドレスは面倒じゃのう」


 メイド達に体を洗わせたわらわは、湯船に身を浸して体の力を抜く。


「お疲れ様でしたリンド様」


 共に湯船に入ったメイアがわらわの手足のマッサージを始める。

 別にそんな事せんでもええんじゃが、なんか毎度やりたがるんじゃよな。


「でもホント疲れましたよぉ~」


 反対側から泣き言を漏らすのはテイルじゃ。


「まぁそう言うな。今回のパーティ参加はお主の宣伝の為だったのじゃからな」


 そう、今回貴族のパーティに参加したのは、ただアビスパールとジュエルコーラルを売る為ではない。


「テイルが遠い異国からやって来たご令嬢の護衛を任されるほどの腕利きである事を印象付ける為、ですね」


「うむ」


 メイアの言う通り、ただの金持ちの護衛ではテイルの名を売る事は出来ん。

 護衛仕事はただ強いだけでは務まらぬ。

 より上客を得るには、多くの実績を積み重ねあ奴は金を払っている間は絶対に裏切らないという信用を得る必要があるのじゃ。

 何しろ程度の低い護衛の中には盗賊と裏で繋がっている者もいるくらいじゃからの。


「お主は討伐依頼でばかり名が売れておるからの。ここらで要人の護衛も出来る事をアピールしておく必要がある」


 そこでメイアがわらわに献策してきたのじゃ。

 テイルにもこれらの品を身に付けさせようと。

 貴重な宝石や生地を、護衛の身でありながら身に纏う事を許されたとあれば、テイルそれだけテイルは雇い主であるわらわに信用されている事になる。

 そんな訳でわらわ達は変身魔法で遠方の国より来た令嬢とその従者のふりをしてパーティに参加したのじゃ。

 参加者達もわらわをどこぞの国の貴族令嬢と勘違いしてくれたおかげで話が楽に進んだの。


「ネックレスなどのアクセサリならともかく、貴重なシルクモスの生地を短期間の雇用でしかない現地の護衛に着せる事はありえませんからね」


 同時にジェネという令嬢はそれだけの我が儘が許される立場の者であり、それ程の立場の者に雇われるテイルはやはり只者ではないと二重に思わせるのが今回の策じゃった。

 それをより効果的に発揮するため、視線誘導の魔法をわらわにかけて、参加者からテイルとメイアの存在を隠す。

 そして満を持して二人にかけた術を解いたことで、パーティの参加者達は突然二人が現れたかのように感じて驚いたという訳じゃ。

 まぁついでにこっそりと軽い魅了の魔法とかもかけておいたんじゃがの。


「お陰で男共には色々と話しかけられたじゃろ?」


「それは、まぁそうですけど」


 メイア部下が成り代わったジョロウキ商会の代表が会場の女達を引き付けた事で、男達はわらわ達に群がってきた。


 そして何人かの男達は、テイルにこっそりとわらわとの契約が切れたら是非自分に雇われないかと打診しておったのじゃ。

 まぁ魔族であるわらわにはまる聞こえじゃったが。

 男どもの視線がテイルの胸元に集中しておった気がするがきっと気のせいじゃろう。


「ご令嬢と奥様がたの猛烈な要望もあって、商談は綺麗に纏まりました」


 その売り方はなかなかにえげつなく。大きな生地や大型の宝石に相当な高価格をつめてドン引きさせつつ、パーティに参加した貴族の中で上位の者のプライドを刺激させて買わせることで、自分の財力を誇示させる。


 同時にとても金を出せないような下位貴族や商人には、加工してアクセサリに加える為の小さな破片を提供する。

 勿論こちらも普通の宝石や貴金属に比べれば結構な値段だが、最初に売りつけた品に比べれば良心的に見える金額であり、これなら買えると安心させておった。

 正直横で父や夫を凄まじい目で睨みつける夫人や令嬢の迫力に負けたともいえるのじゃが。


「ともあれ、皆いい感じに金を使ってくれたの」


「ええ、良い感じに散財してくれましたね。今後はあれらの品を見に纏った令嬢達が国内のパーティを席巻し、更なる顧客が集まる事でしょう」


 うむ、これで王国の貴族達の……


「おまけにリンド様の姿絵をサービスした甲斐がありました」


「何じゃソレ!?」


 いやホントになんじゃソレ!? わらわ全く知らんのじゃけど!? 寝耳に水にも程があるんじゃけど!?


「ジェネお嬢様の名をこの国の有力者達に広める為ですよ。貴重な品を多く取り扱うとなれば、多くの者が散財の為に近づいてきますから」


「それジョロウキ商会を紹介した事でもう達成しとるじゃろ!? わざわざわらわの姿を広める必要ないじゃろ!?」


「いえいえ、話題を早く浸透させる為には派手に広めませんと。それに付加価値は重要ですよ。代替変身魔法で化けた姿ですからよいではないですか」


「あはは、大変ですねぇ」


 わらわの窮地に対し、テイルが他人事のように愛想笑いを浮かべおる。


「ああ、テイルの姿絵も混ぜておきました」


「なんてことしてくれるんですかーっ!?」


 まさか自分も巻き込まれていたとは知らず、テイルが悲鳴をあげる。くくく、良い気味じゃ。


「貴女の名を売る事も急務ですからね。宮廷魔術師選抜を有利にする為ですよ。人は実力よりも名声を信じる生き物ですから」


「だからって……」


 ホントこ奴はえげつない事しよるわ。

 そして有効なだけに質が悪い。


「これでお二人に近づこうと人が集まり、その為の足掛かりとして商会の商品が売れる。良いことづくめですね」


「わらわ達の精神的負担大きくないかの?」


「リンド様にはこの機会にパーティでの令嬢としての振る舞いをしっかりと慣れて頂きます。今まで散々パーティを軍服や王の衣装で誤魔化してきたのですから」


「おぉう……」


「私完璧にとばっちりでは?」


「テイル、貴女もリンド様の弟子として相応しい立ち居振る舞いを身に着けて貰います。上級冒険者になるのなら、貴族相手の対応は学んでおいて損はありません」


「は、はい……」


「あと二人がドレスを沢山着るとシルクモスが作り甲斐があるって喜ぶんですよ」


 まぁたこ、奴は断りづらい事を言いおってーっ!


「くくくっ、これで私達はリンド様の可愛い姿を見放題。更に新しい姿絵も増えてコレクション要素もバッチリですよ。後日十分な数が集まったら過去の姿絵の再販を行い、しかし初期に配布されたモノとは絵の仕様が微妙に違っている事で、収集家達が絶望と共に欲望を刺激するのです」


 お主ーっ! それが本音じゃろーっ!!

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