第51話 魔王、の弟子修行再開なのじゃ!!
「落ち着いたか?」
漸く気絶から目覚めたテイルにわらわは話しかける。
「は、はははははい! もう大丈夫です魔王様!」
しかしテイルはガタガタと震えながら尻尾を丸め、耳もペタンと倒れておった。
あかんの。全然大丈夫でないわ。
「落ち着くのじゃ。わらわはもう魔王ではない」
「魔王じゃ……ない?」
わらわの言葉におどおどしつつも視線を向けてくるテイル。
「うむ。部下に裏切られたので魔王を辞めたのじゃ」
「そ、そうなんで……って、ええーっ!? それ一大事じゃないですか!?」
わらわが元魔王であった恐怖よりも驚きが勝って叫び声を上げるテイル。
「いや、そんな大事でもないぞ?」
わらわは魔王を辞めるに至った詳しい理由をテイルに語って聞かせる。
「そ、それで辞めちゃったんですか!? 王様を!?」
「うむ、丁度休みが欲しかったしのう」
「でも王様だったんでしょう? そんな簡単に地位を捨てられるものなんですか?」
テイルは信じられないという眼差しでわらわを見つめてくる。
「寧ろ上に立つ者ほどさっさと引退して楽になりたいと毎日思っておるんじゃないかのう? 国民全ての命を背負うというのはめんどうなもんじゃぞ。更に他国からの侵略にも頭を悩ませんといかんし、考える事が多すぎるのじゃ」
「はぁ……」
為政者の苦労が分からないテイルはそういうものなのかと首を傾げてる。
きっとテイルの中の王は我が儘放題贅沢三昧で悩みなどないのじゃろうなぁ。
でも実際には違うんじゃよ。上に立つ者には上に立つ者の面倒事があるんじゃ。
失敗したら全部失って周り全て敵になってしまうしのう。
最悪味方が敵に回るぞ?
「そういう訳じゃから、わらわはもう魔王ではない。今はただの一魔族じゃ。堅苦しく考えるでない」
「わ、分かり……ました?」
まだ納得していない様子ながらも、受け入れるテイル。
「うむ、ではさっそく修行を再開するとしようかの」
「え? この流れで再開するんですか!?」
修行の再開を言い渡されたテイルが驚きの声を上げる。
いやいや、寧ろこっちが本題じゃろうが。
「何を言っとる。お主、自分がどういう状況か忘れておらんか?」
わらわに指摘されたテイルは、あれ? 何か忘れていたっけ? と首を傾げる。
こやつ本当に忘れておるのか……仕方ないやっちゃのう。
「状況ですか? えっと魔族になっちゃいました」
「その前じゃ」
「師匠に弟子入りしました?」
「そのさらに前じゃ」
「ええと、森を壊してギルドに罰金を…………っっっ!?」
そこまで行ってようやく状況を思い出したのか、顔を青くするテイル。
「思いだしたようじゃの。そうじゃ。お主は罰金を支払う為にも急ぎ魔法を扱えるようにならねばならん」
「そ、そそそそうでした! 師匠! すぐに修行をつけてください!」
バッと立ち上がり、気をつけの姿勢で修行の再開を求めてくるテイル。
「うむ、では次の修行じゃ!」
◆
「まずお主には変身魔法を覚えて貰う」
「変身魔法ですか?」
「そうじゃ。今のお主はどう見ても人間には見えんからの」
そう。いくら魔物を狩って大量の素材を手に入れても、魔族の姿のままで買い取りに行ったら大騒ぎじゃ。
それこそ魔法の修行以前の問題じゃよ。
「なのでわらわ達のように変身魔法で魔族の証である耳と尻尾を隠すのじゃ。テイルよ、手を出すのじゃ」
「は、はい!」
言われたようにおずおずと手を差し出すテイル。
テイルの手を取ったわらわは、変身魔法を発動させる為の魔法式をイメージする。
そして触れた手越しにテイルの中へと流し込んだ。正しくはテイルの持つ魔法器官へと。
通常、魔法式は計算式のような物じゃ。
それを人族は魔法陣や呪文の形で発動させる。
しかしわらわ達魔族は自身の持つ魔法器官を介する事でそれらの手順を省くことが出来るのじゃ。
では魔法式を知らぬ者はどうやって魔法式を覚えるのか?
一つは人の術式を見て、自分の中で魔法式のイメージを組む事。
そしてもう一つはこうやってお互いの魔法器官同士を共鳴させて自分のイメージを伝える事じゃ。
「わ、わわわっ!? 私の中に何か入ってきました!?」
「それが変身魔法の魔法式じゃ。本物の魔族式は呪文や魔法陣など使わんから、慣れておくんじゃぞ」
「なんだかムニュムニュしますぅ~」
魔法器官が送られてきた魔法式を受け取る感覚に眉をしかめるテイル。
まぁこれもお互いの相性や術式との相性で快不快が違うそうじゃからの。
「さぁ、さっそく使ってみるのじゃ!」
「は、はいぃぃぃぃ!?」
わらわから受け取った魔法式をイメージして変身魔法を発動させるテイル。
すると次の瞬間、耳と尻尾を無くした、見覚えのあるテイルの姿になった。
「ど、どうですか?」
「うむ、成功じゃ」
わらわが太鼓判を押すと、メイド達が大きな姿見をテイルの前に持っていく。
そこには人に戻ったテイルの姿が映っておった。
「も、戻ってる……!?」
頭と尻を触って耳と尻尾が無くなった事を確認するテイル。
「元に戻ったぁー!」
「正確には人の姿に変化したんじゃがな」
まぁテイルの感覚では元に戻ったかというのも間違いではないか。
「しかし、やはり発動出来たか」
「はい? 何か言いましたか?」
「いや、何でもない」
通常変身魔法の重ね掛けは出来ぬ。
それが出来たという事は、やはり魔族の姿が今のテイルの体にとって本当の姿なのじゃろう。
まさか疑似魔法器官を作り出す魔法にこんな副次的効果があったとはのう。
「ほれ、はしゃぐのは後にせよ。さっそく今から資金稼ぎと修行を兼ねた魔物退治に出かけるぞ!」
「はいっ!」
これで問題の一つは解決した。
あとは罰金を支払う為に魔物を倒しまくるのじゃ!
◆
と思ったのじゃが……
「ファイアアロー!!」
テイルの放った炎の矢の群れによって消し炭となる魔物達。
「やりました! 倒しましたよ師匠!」
「馬鹿たれ」
軽くジャンプしたわらわは、得意満面で寄って来たテイルの額にデコピンを喰らわせる。
「あ痛たぁー! 何でですか師匠ぉー!? ちゃんと倒しましたよ!?」
「たわけ、わらわ達が何のために魔物と戦っておるか忘れたか。魔物の素材を回収する為じゃぞ」
「……あっ」
黒焦げにした魔物を見て自分のやらかしに気付き固まるテイル。
「炎の魔法では魔物の素材まで焼き尽くしてしまう。使うなら他の魔法にするのは常識じゃぞ」
「す、すみません。魔法を使えるのが嬉しくて忘れてましたぁ」
やれやれ、どうやらまともに魔法を使えなかった事が原因で、魔物退治の際の常識に意識が至っておらなんだようじゃの。
「ウインドアロー!」
今度は風の矢が命中した魔物の体が爆発四散した。
「今度は威力が強すぎる!肉片にしてどうするのじゃ!」
「す、すみませーん!」
うーん、見事に粉々じゃあ。逆にここまでする方が難しいと思うんじゃがのう。
「な、なんだか魔法の制御が難しいんですよぉー。上手く威力が調整できないんです」
「それは多分変身魔法を使っておる影響じゃな。今のお主は二つの魔法を同時に制御しておる状況じゃ。変身魔法は一度発動すれば制御の手間は無いが、それでも無意識に魔法器官が術式を調整しておる。その分攻撃魔法の精度が荒くなるのじゃ」
「どうすればうまく使える様になるんですか?」
「とにかく威力を調整して魔法を撃ちまくるのじゃ。魔物素材を破壊してしまわない程度の力加減を魔法器官に覚えさせるのじゃ!」
こういうのは慣れの問題じゃからな。
何度も使っておればそのうち慣れる。
「は、はいー!」
「お主の場合威力を下げてようやく人並じゃ。少しずつ威力を下げて魔法を使うのじゃ!」
「わ、分かりましたー!」
テイルは魔力の調整をしながら魔物に魔法を放ち続ける。
しかし手加減をしないといけないと思うあまり、威力が下がり過ぎたり、狙いが甘くなったりと大変じゃ。
「今度は威力が弱すぎる!」
「あわわ、当たらないっ!?」
「そういう時は範囲攻撃で確実に当てるのじゃ! 多少消費魔力が増えるが、お主の魔力ならそうそう簡単に魔力切れにはならん! 威力が調整できるようになったら個別に攻撃するのじゃ!」
「わ、分かりましたー!」
わらわはこっそりテイルが魔物に襲われぬようにサポートしつつ、魔法の運用について指示を出す。
やれやれ、これはまともに魔物を狩れるようになるにはまだまだかかりそうじゃの。
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