第50話 魔王、と狐の魔族なのじゃ!?

「テイルよ、お主は魔族じゃ」


 わらわはメイアに調べさせた検査の結果を告げる。


「……は?」


 対して宣言されたテイルは何を言われたのか理解できず、呆然としておった。

 そしてたっぷり数十秒が経過した所でハッと我に返る。


「い、いやいやいやいや、私は人間ですよ!? 両親もお爺様もお婆様も人間ですよ!?」


「うむ、じゃから厳密には魔族の血を引いた子孫といった所じゃろうな。恐らくお主の祖先に魔族が居たのじゃろう。それがリインカーネーションの魔法で覚醒したのじゃ」


 それがわらわの見解じゃった。

 そもそもいくら膨大な魔力を持っているとはいえ、魔族の為に作られた術式を人族が大した苦労もなく使いこなせるわけがないのじゃ。

 無詠唱での発動に関しては単純に今までやった事が無いから苦労をしていたというだけの事じゃしな。


「そ、そんな……でも魔族がご先祖様だなんてありえませんよ!?」


 テイルが気になったのは自分の祖先に敵対する魔族が居たという部分のようじゃった。


「そうでもない。人族と魔族が本格的に戦争を始めたのはほんの数百年前程度の事じゃ。それ以前は多少の小競り合いはあっても両種族の間に子供が生まれる事はザラにあったのじゃよ」


「いや数百年前って結構な昔じゃないですか」


 あー、その辺は魔族と人族の感覚の違いじゃな。わらわからすれば数百年前なんぞ数か月前くらいの感覚じゃからなぁ。


「お主は遠い祖先の血が隔世遺伝で発現したのじゃろうて」


「そ、そんな……私が魔族……」


 困惑しておったテイルじゃが、突然ハッという顔を強張らせたと思ったら青ざめて震え始めた。


「ど、どうしよう。魔族になったなんて知られたら家に帰れない!?」


 あー、魔法で出来た耳と尻尾が消えないではなく、本物の魔族になってしもうたとなったら話の深刻さは段違いじゃからの。


「っ!?」


 と、その時じゃった。

 わらわと視線の合ったテイルがビクリと震えたのじゃ。


「む? どうしたのじゃ?」


「あ、あの……私……」


 テイルの目に宿ったのは恐怖。

 まるで親に怒られるのを恐れた子供のような眼差しじゃ。

 しかしその奥に見えるのはより深い怯え。


「ああそう言う事か。心配せんでもよい」


「え?」


 つまりこ奴は自分が魔族だったと知られた事で、わらわに拒絶されると思ったのじゃな。

 じゃがその心配こそ最も無用。

 わらわは近くに控えるメイア達に視線を送ると、メイア達も頷いてわらわの後ろにそっと移動する。


「何せわらわ達も魔族じゃからな」


 そしてわらわ達は変身魔法を解除した。

 途端に現れる角、獣耳、翼、尻尾、鱗、牙、体毛、肉球。

 ほんの一瞬で室内には様々な特徴を持った種族達で一杯になったのじゃ。


「…………え、ええぇぇぇーっ!?」


 突然の出来事にテイルが驚きの声を上げた。


「うむ、こんな感じじゃから心配なぞせんでよいぞ」


「お、師匠様が魔族……」


 わらわ達が魔族だったと知って、テイルが呆然と呟く。


「どうじゃ? 少しは安心したか?」


「えっと、あの………………はい」


 理解の追いつかない頭をなんとか働かせたテイルは困惑の表情を浮かべたまま頷きを返す。


「だからお師匠様は魔族式の魔術式なんて知ってたんですね」


「うむ。わらわも人族に紛れた同族に教える事になるとは思ってもおらなんだぞ」


 わらわの言葉を聞いたテイルがえ? と首を傾げる。


「え? 私に魔族の血が流れているから助けてくれた訳じゃないんですか?」


「いいや、そもそもお主がわらわ達と同族だとは気づいておらなんだからの。まぁお主の場合は獣人族系じゃから厳密にはわらわとは違う種族じゃな」


「え? え? 獣人魔族って身体能力が高い代わりに魔力が少ないんじゃないんですか?」


 あー、まずはそこからか。

 人族はほんに知識を伝える者が失われておるのう。


「種族によるのじゃ。人族は獣人は全て魔力が低いと勘違いしておるが、それはたまたま人族が良く目にする種族がそうじゃというだけのこと。お主の場合狐系の獣人じゃから魔法適性は高いぞ。ただヨウコ族にしても魔力が高いのが気になるの。もしかしたらクービ族の血を引いているのやもしれん」


「クービ族ですか?」


 クービ族の名にピンとこなかったテイルが首を傾げると、同時に頭の上の耳とお尻の尻尾もふにゃんと曲がる。


「ヨウコ族の上位獣人と呼ばれる種族でな、九つの尾を持ち強大な魔力を操る種族じゃ」


「でも私の尻尾は一つですよ?」


「クービ族は成長するにつれ尻尾が増えて行く種族とも言われておる。まぁ単純にお主が純血のクービ族で無い為に尻尾の数が少ないのかもしれんが、連中数が少ないから滅多に出会う機会が無くて良く分からんのじゃよなぁ」


 その所為で色々と変な噂が多いんじゃよな。男が居ないから変身して異種族の権力者に嫁ぐ婚活魔族とか、大昔は邪神に仕えた眷属じゃったとか。

 ただどの伝承や噂で共通しておるのは、強大な魔力を有するという部分かの。

 あと尻尾が9本とか、正直日常生活が大変そうじゃよな。


「はー、上位種族何ているんですねー」


「エルフにもハイエルフがおるじゃろ?」


「それ神話の存在じゃないですかー」

 

 いや、ハイエルフはちゃんと存在しておるぞ?

 まぁ連中は半分精霊みたいなもんじゃから、人族がその姿を見る機会はまず無いんじゃがの。


「もしかして師匠もなにかの魔族の上位種族だったりします?」


「はっはっはっ、どうじゃろうなぁ」


 そこら辺については笑ってスルーしておく。正直この辺を説明するのは面倒なんでな。


「こんなお城に住んでて、もしかして魔王とか言ったりしませんよね?」


「おっ、良く分かったの」


 テイルの意外な察しの良さについついわらわは肯定してしまった。

 じゃが、まぁ、テイルになら教えてしまってもよかろう。


「え?」


「その通りじゃ。わらわが魔王じゃ。まぁ引退したので元魔王じゃがな」


 それにこ奴の性格ならわらわの正体を吹聴する事もあるまい。

何より魔族として目覚めた今のこやつは、帰る場所を無くした迷子同然。

 唯一のよりどころであるわらわを裏切れるとも思えん。


「師匠が、魔王……?」


 テイルが呆然と呟く。

 ふっ、まぁ驚くのも無理はない。たまたま知り合った相手が魔王だなどと、誰が気付けようか。


「ぷっ、あははははははっ!!」


 じゃが何故かテイルは腹を抱えて笑い出した。


「いくら何でも魔王は言い過ぎですよ師匠! いくら私でも騙されませんってば! だって師匠子供じゃないですか。そんなちっちゃな魔王聞いた事もありませんよ!」


ち……ほほう、良い度胸じゃなお主。

 わらわはそっと力を開放して魔力による威圧をテイルに行う。


「ひぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 突然大量の魔力を至近距離で浴びせられたテイルの体が陸に上がった魚のように痙攣を起こす。


「な、なななななな……!?」


「どうじゃ? これなら信じれるかの?」


 ビクンビクンとのたうち回る姿が結構面白かったので、わらわはそっと魔力を収めて威圧を解いてやる。

テイルは呆然とした瞳でわらわを見ると、プルプルと唇を震わせる。 


「……ほ、本当に魔王……?」


「うむ、魔王じゃ」


 はっはっはっ、傅けとは言わんがちゃんと敬え。

 わらわは師匠じゃからの。最低限の敬意は表するのじゃぞ?

 決して子供と言われて怒ったからではないぞ? 無いのじゃぞ?


「……きゅう」


 あっ、こやつ気絶しおった。

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