第48話 魔王、と魔法修行開始なのじゃ!

「ではこれより魔法制御の修行を開始する!」


 急遽テイルを仮弟子にする事となったわらわは、さっそく彼女を魔法制御の修行に連れ出した。


「そ、それは良いんですが、何でこんな場所で修行をするんですか?」


 テイルがよう聞いてくるのも当然。

 何故なら修行の場所とはとある高山の山頂だったからじゃ。


「なかなか良い質問じゃ。人は必要に迫られないと必死になって努力しようとはせぬ。何なら追いつめられていても必死になろうとせぬ者もな。故にわらわの修行法はお主を危機的状況に置く事から始めるのじゃ」


「な、なる……ほど?」


 というのはただの建前じゃ。

 実際のところはテイルを陰から監視しておったトラビックの手の者から逃す為じゃな。

 連中を撒くために森に入ったわらわは、テイルを抱えて森の奥へと突き進み、そのまま森の反対側に飛び出すと山へと飛んでいったのじゃ。

 森の中なら空を飛ぶわらわ達の姿に気付くこともできんしの。

 という訳で修行の話に戻る。


「この山には危険な魔物が多く生息する。それらの魔物から魔法で身を守りつつ下山する事がお主の修行じゃ」


「で、でも私は魔法の制御が全然できませんよ!?」


「うむ、そこでお主には特別な魔力制御の方法を教える」


「特別な魔法制御ですか!?」


 といってもわらわ達魔族にとっては特別でもなんでもないんじゃがの。


「うむ、通常人族は呪文を唱える事で魔力を制御する。これは魔族と違って人族の体に魔力を制御する器官が無いからじゃ」


「は、はい。私もお父様からそう学びました。呪文を唱えないといけないから人族は魔族にたいして魔法の即効性で劣ると。でもだからこそ人族は技術を磨いて技では決して劣らぬほどに強くなったとも」


「……そ、そうかもしれんな」


 いや全然そんな事ないぞ? 昔の人族ならまだしも、今の人族はめっちゃ弱体化しておるから劣りまくりなんじゃよ? そんな認識でお主の父親大丈夫なのかの? 結構いいとこ魔法使いなんじゃろ?


「と、ともあれ、人族は呪文を使う事で魔法を使えるようになった。しかしじゃ、それで制御できる魔法には限度があるのじゃ」


「限度ですか?」


「うむ、人族は魔力の量と質でも魔族に劣る故、通常はそれが表ざたになる事はないのじゃが、極稀に人並外れた魔力の持ち主が現れるとその問題が浮き彫りになるのじゃ」


「人並外れた魔力って……まさか!?」


 テイルはその問題に気付いたらしくハッとなる。


「そう、お主の様な者じゃよ。お主のように人並外れた魔力の持ち主では、呪文の魔法式が膨大な魔力に耐えられぬのじゃ。薄い板の上に人が乗ったら耐えられず割れてしまうようなものじゃの」


「じゃあ私が魔法に失敗する理由って、それが原因……」


「恐らくはの。故にお主にはこれから魔族式の魔法制御を行ってもらう」


「魔族式ですか!?」


 魔族と聞いて困惑するテイル。

 まぁそれも仕方あるまい。長らく魔族と人族は争っておったんじゃからな。


「うむ、ただし人族であるお主には魔族の様な魔力制御器官は無い為、疑似的な魔族式魔法式になる。正直大変じゃが頑張れるか?」


 わらわはテイルに魔族式の魔法式を扱う意思はあるかと尋ねる。

 いかにこの方法なら魔法を暴走させる危険が減ると言っても、仇敵である魔族の力に対する嫌悪があるのではまともな修行にならんからじゃ。

 しかしそれは杞憂じゃった。


「やります! やらせてください! 魔法が普通に使えるようになるのなら、どんな苦しい修行でも行います!」


 テイルにとって重要なのは魔族の力への忌避感よりも魔法を使えない事への無力感だったからじゃ。


「うむ、良い返事じゃ。ではお主にはこれから二つの魔法式を同時に発動させてもらう」


「はい! ……はい?」


 元気よく返事を返したテイルが首を傾げる。


「あの、二つってどういうことですか? 私一つでも満足に扱えないんですけど」


「逸るな。お主に学んでほしいのは、疑似魔力器官を生成する為の中間術式じゃ」


「ぎじまりょくきかんをせいせいするためのちゅうかんじゅつしき?」


 わらわの意図が分からず、再び首を傾げるテイル。


「分かりやすく言うと魔族の持つ魔力器官を魔法で疑似的に作り出すのじゃ」


「へぇー、そんな魔法があったんですね。でも何で魔族がそんな魔法を使うんですか? 魔族には生まれつき魔法を使う為の器官がありますよね?」


「良い質問じゃ。これは怪我や病気など何らかの事情で魔力器官が使えなくなった魔族の為の補助魔法なんじゃよ。義手や義足のようなものじゃな」


 そう、魔族と言えど魔法を扱う為の器官を失えば満足に魔法を使えなくなる。

 過去の人族との戦いではそれを狙って魔法を扱う器官を狙われたものじゃ。

 しかし魔族とてそう易々と弱点を狙われ続けていた訳ではない。

 魔法器官を治療する魔法やポーションの開発。更には失った魔法器官を疑似的に再現する魔法を完成させたのじゃ。


「この魔法の良い所は魔族クラスの魔力の持ち主が発動させても人族の術式と違って暴走せぬというところじゃの」


「なるほど、それじゃあ私がその魔法を使っても暴走しないんですね!」


「そう言う事じゃ」


「あれ? という事はこの魔法を使えば人族も魔族のように魔法を呪文無しで使えるようになるんじゃないですか?」


 テイルがそう思うのも無理はないが、そう簡単にはいかんのじゃ。


「いや、この魔法の発動には結構な魔力が必要なのでな、しかも発動中は常時魔力を消費してしまう為、人族がこの魔法を使ったら他の魔法を使うような余力がなくなってしまうのじゃ」


「あー、確かに魔法をいくつも使ったら普通の人は直ぐに魔力切れしちゃいますもんね」


 つまり魔力に乏しい人族にとっては常時魔力を垂れ流しにして逆に弱体化してしまう魔法なんじゃな。


「つまり私くらいしかこの魔法の恩恵を受ける事が出来る人間は居ないって事ですか」


「そういう事じゃ。ではさっそく練習じゃ!」


「は、はい!」


 わらわが呪文を教えると、すぐにテイルは魔法の練習を開始した。


「砕けし我が欠片よ、汝は失われず。汝は我と共にあり。目覚めよ、我がまことの姿に。リインカーネーション!!」


 魔法の発動と共に、テイルの体が眩く輝きだす。

 

「むっ!? これは一体!?」


 そしてしばらくすると輝きが収まり、光の中からテイルの姿が現れる。

 

「ど、どうですか師匠!?」


「う、うむ、ちゃんと発動しておるぞ」


 発動しておるのじゃが……


「やったー! ホントに暴発しませんでしたよー!」


 魔法が無事発動した事でテイルは飛び跳ねて喜ぶ。

 するとそれに合わせてテイルの頭に生えたピンと尖った大きな獣耳と、お尻から生えたフサフサのシッポがリズミカルに揺れる。


「のうテイルよ……」


「はい? 何ですかお師匠様?」


「お主、その耳とシッポどうしたんじゃ?」


「へ? 耳? シッポ?」


 テイルが何のことだと首を傾げると、頭の上に生えた耳もピコピコと揺れる。

 うーん、完全にテイルの意思と連動しておるのう。


「あの、耳とシッポってどういう意味です? 私にそんなものないですよ?」


「テイルよ、自分の頭とお尻を触ってみるのじゃ」


「はぁ……」


 テイルは言われた通りに自分の頭とお尻を触る。

 すると当然生えてきた獣耳と尻尾に手が当たる。


「……え?」


 テイルが何コレとわらわに視線を送ってくる。


「………………これ、師匠が教えてくれた魔法の効果ですか?」


「知らん。わらわの魔法にこんな効果ないぞ」


 いやマジで無いんじゃよ。存在しない耳と尻尾を生やす効果なぞ。


「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 遙か高山の山頂で、テイルの絶叫が響き渡ったのじゃった。

 いやホント何で生えたんじゃ?

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