第47話 魔王、弟子を取るのじゃ

「金貨2000枚の罰金を立て替える対価として、俺達の結婚を早めさせて貰う」


「そ、そんな!?」


森を破壊した罰として金貨2000枚を支払う事になったテイルじゃったが、そこに婚約者だというトラビックが現れ、彼女の借金の建て替えを申し出たのじゃ。

ただし、その対価としてトラビックは結婚の時期を早めると言い出した。


「結婚は一か月後だ。すぐに実家に連れて行く」


「一か月後!? いくら何でも早すぎます!」


「寧ろ待った方だ。本来なら俺達の結婚はもっと早く行う予定だったのだからな。さぁ、行くぞ!」


 そういってトラビックがテイルの手首を握って引っ張ると、テイルが痛みに悲鳴を上げる。。


「や、やぁっ!」


 やれやれ、流石にそのような乱暴な扱いは捨て置けぬのじゃ。


「ちょっと待つのじゃ」


 わらわはテイルとトラビックの間に強引に割り込む。


「んん? 何だこの子供は? 大人の話にガキが口出しするんじゃない」


 おっ? 何じゃ? 戦争をご所望かの小童?

 わらわをそんじょそこらの子供と同じにしたら死ぞ? 死ぞ?


「ほう、ではお主は子供を無理やり嫁にしようとしている変態かの?」


「なっ!? 誰が変態だ!」


 変態扱いされたトラビックが怒りに頬を引きつらせる。

 じゃがテイルはどう見ても子供。それに対してトラビックは年齢相応のガッシリとした体格じゃ。猶更アンバランスさが際立っておる。


「しかしどう見てもお主等の年齢は合っておらぬ。という事は逆らえぬ幼い娘を力づくで嫁にしようとしている変態にしか見えぬのではないか? のう皆の者よ」


 そう声を張り上げながら、わらわは周囲で聞き耳を立てていた冒険者達に問いかけた。


「「「っ!?」」」


 冒険者達はすぐに自分達は何も聞いていませんでしたよとばかりに視線を逸らすが、むしろそれが今までバッチリ話を聞いていたと如実に語っておったのじゃった。


「くっ、このガキ……良いだろう。荷物を纏める時間は必要だろうからな。明日まで待ってやる!」


 流石に周りから変態扱いされるのは堪えたのか、トラビックは捨て台詞を残して去って行った。

 じゃがわらわは気づいて居ったからな。お主が耳を真っ赤にしておったのを。


「くっふっふっ、見事に引っかかったのじゃ」


「あ、あの、私は子供じゃなくてね……」


 見事トラビックめをやり込めた事にわらわが笑っていると、テイルが申し訳なさそうにわらわに話しかけてくる。


「分かっておる、分かっておる。見た目以上の年齢なのじゃろ?」


「えっ!? 知ってたの!?」


「うむ。魔力が人並外れて多い者によくある傾向じゃな」


「そっか、知ってたんだ!?」


 魔力が多いと肉体の成長が著しく遅くなる。

 こればかりは仕方のない体質といえよう。


「うむ。じゃがああ言っておけば、あ奴もあの場は引かざるを得なかったじゃろ?」


「あっ」


 そこでようやくわらわが騒いだ理由に思い至ったらしい。

 メイアは困ったような嬉しいような何とも言えぬ表情になりながらも、わらわ達に頭を下げる。


「ありがとうございました。お陰で助かりました」


 うむ、若者は正直が美徳じゃ。


「さて、これ以上ここに居てはお主も好機の目に晒される故、少し場所を変えるとするか」


 ◆


 と言う訳でわらわ達は冒険者ギルドから離れた酒場へとやって来た。


「はいよ、今日のお勧めメニューの具沢山スープ三人前だよっ!」


 店員の娘がテーブルの上に次々と料理を並べてゆく。


「うむ、では食べるとしようか」


「あ、あの~」


 と、状況に置いてけぼりを喰らっておったテイルがようやく手を上げる。


「ああ、心配せんでもよい。魔法で我等の姿は店員の娘にしか見えぬようにしてある故、先ほどの小僧が送って来た見張りには見つからぬよ」


「え!? 人物を指定した隠遁結界!? 物凄く高度な魔法じゃないですか!?」


「大した魔法ではない。それよりも飯が冷めるぞ。早う食べよ」


 まずは腹に物を入れるのが先決じゃ。人間空腹だと良いか考えが思い浮かばない上にネガティブになってしまうからの。


「は、はぁ……じゃあ、頂きます……はも」


 おそるおそると言った様子で料理を口に運んだテイルじゃったが、その味が気に入ったのか僅かに目を見開くと、すぐにスプーンを動かして次を運ぶ。

 うむうむ、たんと食べるのじゃよ。


 そうしてテイルの食事が終わった頃にわらわは話を再開する事にした。


「さて、それでは事情を説明して貰おうか」


「ふえ?」


 お腹いっぱいになってぼーっとしていたテイルが突然話題を振られてビクリと肩を震わせる。


「お主とあの男の関係じゃ。婚約者というのは会話の内容から分かったが、それにしても行動が急すぎじゃ。流石に気になるのでな」


 最初は何だっけソレといった顔できょとんとしていたテイルじゃったが、先ほどの会話について話を振ると、すぐに現状を思い出したのか肩を落としてため息を吐いた。

「すみません、正直いって理由は分からないんです」


 そう言って少しだけ間を置くと、テイルは深く息を吸い込んで自分の素性について話し始めた。


「実は我がテンクロ家は代々優秀な魔法使いを輩出する一族なのです」


「ほう」


 あの魔力、やはりそれなりの家の者じゃったか。


「そして私は歴代でも有数の魔力を持って生まれたそうです。それもあって一族の方達は皆私が凄い魔法使いになれると期待してくれたそうです」


 ふむ、確かのあの魔力なら周りが期待するのも納得じゃ。

 しかしのう、それならば……


「ふふっ、お察しの通りです。私は皆が期待する存在にはなれなかったんです。私はなぜか魔法を制御する事が出来なかったんですよ。幼い頃は魔力が多いから制御が難しいのだろうと大目に見てくれていたんですが、大きくなっても魔力の制御が上手くなる気配はなく、遂には出来損ないと言われるようになってしまったんです」


 その理由は予想できる。それはテイルが使用していたあの魔術式が原因なのじゃろう。

 テイルが魔法を使う際に展開していた魔術式は明らかにテイルの力に耐えらえるものではなかった。


じゃがそうなる時になるのは誰がテイルにあの魔術式を教えたのかじゃ。

テイル程と言わぬまでも強い魔法使いが生まれる家柄なら、魔力の多い者が生まれても大丈夫なように高度な魔術式を用意していると思うのじゃが……


「その結果、両親は私が魔法使いになる事を諦め、私の魔力を残す為に外の優秀な魔法使いを婚約者として呼んだのです」


「それがトラビックか……」


「はい、彼は魔法の腕のみで選ばれた人なんです。腕は物凄く立つんですが、あの通り高圧的で自分の力を鼻にかける人なので、婚約が長続きしなくて彼の家も困っていたそうなんです。それに目を付けたのが私の両親でした。この婚約はお互いの親にとって渡りに船だったんです」


「なんとまぁ……」


 かたや人格に問題のある凄腕魔法使いと、かたや魔力制御が全くできない膨大な魔力を持った女。

 どちらも厄介な案件じゃの。


「じゃがお主はそれを良しとはせんかったのじゃな?」


「……はい。だから私はもっと自分を追い込むことにしたんです。実戦で命懸けの戦いを経験すれば、魔法の制御が出来るようになるかもしれないって。だから必死で親を説得して冒険者になったんです」


「じゃがトラビックの方もいい加減我慢の限界だったと」


「まさかあんな大金を支払ってまで結婚を早めるとは思ってもいませんでした……自分の魔法にプライドを持っていた彼は、魔法を碌に扱えない私を見下していると思ったんですが」


「ふぅむ」


 ちと気になるのう。そのように自己中心的かつ傲慢な男が、黙っていれば結婚できるのにわざわざ大金を支払ってまで結婚を早めるとも思えぬ。

 何か裏がある様な気がするのじゃが……


わらわはちらりとメイアを見ると、メイアは委細承知と薄く微笑んでそっと姿を消した。

 さて、情報についてはメイアに任せるとして、問題はこっちじゃな。


 今回の事故の一端はわらわにもある。

 事情を知らなかったとはいえ、追いつめられていたテイルに希望を見せておきながら、それをすげなく断ってしまったからこそテイルは焦って失敗を犯した。

 


「でも仕方ないですよね。これだけ頑張ってもどうしようもなかったんですから。寧ろ今まで待っていて貰っただけありがたいと思う事にします。貴女にもたくさんご迷惑をおかけしました。そして二度も、いえ三度も助けてくださってありがとうございました」


「……まだ諦めるには早いのではないかの?」


「え?」


「二週間後の罰金の支払い期限までにお主が魔力を完全に制御できるようになり、金貨2000枚を全額支払えば問題ないじゃろ」


「で、でも魔法の使えない私にはそんな金額とても……」


「出来る。わらわが魔法を教えればの」


「……えっ?」


「テイルと言ったの。お主が本気で魔法を扱えるようになりたいというのなら、わらわが手ほどきしてやろう」


「ほ、本当ですか!? でも何で!?」


「ん~、まぁ後ろめたさやらなんやらあるが……」


理由か。結局のところアレなんじゃよな。

 こういう時に見て見ぬフリが出来んかったから、わらわは魔王なんぞに祭り上げられてしまったんじゃろなぁ。

 かつての仲間達との出会いを思い出しながらわらわは苦笑する。

 じゃがあの時と同じにはならんのじゃ!


「ただし、期間はお主が魔法を覚えるまでの2週間のみじゃ! それまでにお主が魔法を覚える事が出来なければ、その時はスッパリ魔法の事は諦めよ!」


「わ、分かりました! これを正真正銘最後のチャンスと思って頑張ります! よろしくお願いします師匠!!」


 こうしてわらわは期間限定で弟子を取ることになったのじゃった。

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魔王「ご報告なのじゃー!」

メイア「なんと元魔王様の書籍化が決定いたしました!」

魔王「わらわのセリフーッ!!」

毛玉スライム「続報が入ったらまた説明するねー」

魔王「またセリフ取られたのじゃーっ!?」

ガル「また本作の更新ペースを毎日から週一に変更する事になった。楽しみにしてくれていた皆には申し訳ないがご理解頂きたい」

魔王「セリフ、わらわのセリフ……」

メイア「(ニッコリ)」

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