第46話 魔王、暴走を目撃するのじゃ

 テイルと名乗った娘の弟子志願を断ってから数日が経った。

 その後あの娘は特にこちらに関わってくる事もなく、寧ろロレンツの方がちょっかいをかけてくるほどじゃった。

うぅむ、あれで諦めたのかのう?


 と言う訳で今日も依頼を受けて森に来ておった。

 人族の領域の魔物は魔族領域の魔物よりも弱いから楽で良いのぅ。

 じゃがそんな森の一角で突然膨大な魔力の高まりを感じたのじゃ。


「何じゃこの魔力は!?」


 この森の魔物を相手にする為に使うような魔力量ではないぞ!?

 近くに強大な魔物の気配も無し、魔法の実験という割には魔力の気配に落ち着きがない。

 寧ろ魔力が暴れまわっておる。

 この異常な魔力の流れに、あの娘の顔がチラつく。


「もしやこの魔力!」


 そう思った瞬間、魔力がパンと弾けたのを感じた。

 そして鳴り響く轟音と振動。


「やらかしおった!」


 わらわ達は急ぎ現場に向かう。

 するとそこには更地となった大地の姿があった。


「あの娘は……」


「リンド様、あそこに!」


 メイアが指を差した先には、あの娘テイルが倒れておった。


「いかん、メイア治療を!」


「はっ」


 すぐにメイアが治療に駆け出す。


「お、おい、大丈夫か!?」


 一拍遅れてわらわが追いつくと、テイルがうっすらと目を開く。


「あ、貴女は……」


 ふぅ、どうやら意識はちゃんとある様じゃな。


「大した怪我ではありませんね。あの規模の爆発を起こしたにしては運が良いかと」


 メイアの見立て通り、テイルの傷はすぐに治ったのじゃった。


「た、助けて頂いてありがとうございます」


 治療を終えたテイルがわらわ達に礼を告げる。

 

「まぁ無事で何よりじゃ。しかし……」


とわらわは荒れ地となった周囲を見渡す。


「やらかしたのう。これは流石にマズいのではないか?」


「そ、それは……」


 ◆


「やってくれたな」


 あの後、テイルを町まで送ったわらわ達は冒険者ギルドで依頼達成の報酬を受け取り、ついでに討伐した魔物の解体を頼んで待っておったら、何故かギルド長の部屋に呼ばれたのじゃ。

 そしてギルド長の部屋にはテイルの姿もあった。


「まさか森を破壊するとはな」


 どうやらテイルが森を破壊した件で呼ばれたようじゃ。


「しかし何でわらわ達が呼ばれたんじゃ?」


「お前さん達はコイツを助けたんだろう? って事は事故が起きた直後の現場を知っている筈だ。まぁ事情聴取の一環と思ってくれ」


 どうやら証人として呼ばれたらしいの。

 ギルド長はテイルに向き直ると、厳しい顔になる。


「知っているだろうが森は国の財産だ。そしてそれを領主が管理している。国民は過剰にならない程度なら森で採取する事を許されている」


 大抵の国では森の維持費は税金から出ておるので、国民が採取を許されているのじゃ。

 ちなみに冒険者は報酬から税を引かれておるので、他国でもその国の国民と同じように採取などが許されておるのじゃ。

 ただし領主が独占しようとしたラグラの木の様な貴重な資源がある場合は採取が禁止される森もある。


「だからこそ森を破壊したのは不味かったな」


 公共施設の破壊と同じじゃからのう。


「魔物と戦う事もあるから多少の破壊は目こぼしされるが、今回は破壊の規模がデカすぎて擁護のしようがない。せめてドラゴンの一頭でも倒していたのならまだ庇えたんだが」


「ド、ドラゴンなんて無理ですぅ……」


 あの魔力なら上手くやればドラゴンでも道連れに出来そうなんじゃがな。


「しかし何であんな場所で魔力を暴走させたんじゃ? 魔物の死体も見つからんだが?」


 そうなんじゃよ。あの場には、魔物が居た痕跡が全くなかったのじゃ。

 勿論痕跡が全て消えるレベルで吹き飛ばした可能性もあるが。


「それは……あの感覚を再現しようと思ったんです」


「あの感覚?」


 テイルがオドオドとしつつもわらわの目を見つめてくる。


「先日、貴女が私の魔法を制御してくれた感覚をもう一度再現しようと思ったんです」


「どういう意味だ?」


 ギルド長が質問したのはテイルではなくわらわの方じゃった。


「いやの、先日森で狩りをしておったら、この娘が危うく魔法を暴走させるところでの。わらわが介入して暴発を阻止したのじゃ」


「ほう、そりゃ大したもんだな。ただ物じゃないと思っていたが、そこまでとは」


 ギルド長は本心から感心したと目を丸くする。

 まぁ純粋な技術を褒められるのは悪い気はせんの。わらわの場合は半分くらい力づくじゃったけど。


「そうなんです! だからアレを再現出来れば私も魔法を制御できるようになると思ったんです!」


「それはいいんじゃが、何で森の中でやってたんじゃ?」


「そ、それは……だ、誰にも邪魔されない様に……」


 すると何故かテイルは居心地悪そうに目を逸らす。

 ふむ、何か事情があるのかの?


「まぁとにかく、国の所有物である森を破壊した事は問題だ。なのでペナルティを受けて貰う。つまりは罰金だな」


 しかしギルド長は個人の事情など知った事ではないと無慈悲に告げる。

 

「お、お幾らでしょうか……?」


 財布の中身を気にしつつテイルが戦々恐々となりながら訪ねる。


「金貨2000枚だ」


「……は?」


 ギルド長の口から告げられた金額にテイルの顔が強張る。


「罰金の金額は金貨2000枚だ」


「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 罰金の金額はなんとまさかの金貨2000枚じゃった。


「かなりの大金じゃのう」


「国の財産を破壊したというのが大きいな。それに破壊された場所で再び森の恵みを得られるようになるにも時間がかかる。その間の損失も補填して貰わんとならんからな」


「グゥの音も出んのう」


 機会損失も考慮するのは道理と言えば道理じゃの。

 見ればあまりの金額の高さにテイルの魂が抜けかけておるわ。


「罰金の支払い期限は2週間だ。それまでに支払わないと冒険者資格の剝奪と投獄になる」


「に、2週間!?」


 しかも制限時間は無慈悲なまでに短かった。

 流石にこれは短すぎるじゃろ。正直上級冒険者でもこの額を2週間で稼ぐのは難しかろう。


「期日までに支払えなければ最悪奴隷落ちになるから、気合入れて稼ぐんだぞ」


 ◆


「2週間で金貨2000枚……」


 ギルド長室から追い出されたテイルは、意識ここにあらずと言った感じじゃった。

 まぁそうなる気持ちも分からんでもないがのう。

 しかし金貨2000枚か。わらわならシルクモスの生地の売り上げで支払ってやることもできるが、出会って間もないこの娘にそこまでしてやる義理も無い。

 というか誰彼構わず親切にしていたらこっちが持たぬからの。

 厳しいようじゃがこれ以上かかわりになるのは止めた方が良かろう。

 寧ろこれまでの治療やらなんやらで十分過ぎる程に手助けしてやったからのう。


 わらわ達がそっとテイルから離れようとしたその時じゃった。


「はっはっはっ、随分とシケた顔をしているじゃないですかテイル」


 突然テイルに話かけてくる男が現れたのじゃ。

 現れたのは妙に高そうなローブを纏った魔法使い風の男じゃった。

手にした杖も宝石やらがゴテゴテと付いた、いかにも高そうな杖じゃ。

なんというか自己主張が激しいのう。


「あ、貴方はトラビック!?」


「なんじゃ、お主の知り合いか」


 どうやらテイルの関係者のようじゃ。


「は、はい。彼は……」


「聞いたぞ。森を破壊して大金を請求されたらしいな」


 しかしテイルの説明を遮る様にトラビックと呼ばれた男が会話に割り込んでくる。


「な。何でそれを!?」


「ふん、お前が馬鹿をやらかすと俺のところに情報が入ってくるんだよ。あまり恥をかかせるな」


「う、うう……」


ふぅむ、テイルが関わった事の情報が入ってくるという事は、こやつテイルの身内か?


「だが安心すると言い。罰金は俺が立て替えてやろう」


「え!? な、何で?」


 まさかの援助宣言。金貨二千枚を建て替えるとは豪儀じゃのう。

 もしかしてこ奴金持ちなのかの?


「当然だろう。俺はお前の婚約者なんだからな」


 なんと! こやつテイルの婚約者じゃったのか。


「ただし」


 とそこでトラビックが言葉を止める。


「その対価として結婚を早めさせて貰う」


「そ、そんな!?」


 おおっと、何やらトラブルの予感じゃの。

 わらわ帰ってもいいかの?

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