第45話 魔王、魔法使いと出会うのじゃ
新たな住人達が島に馴染んだ事で、わらら達は久々に冒険者ギルドへとやって来た。
正直言えばシルクモスの生地の売り上げでもう冒険者をやる必要はないのじゃが、これはこれで楽しいし、冒険者ならではの情報が手に入る故続ける事にしたのじゃ。
まぁしかし、財布が温かいとしっかり稼がないと食い扶持に困るという焦りが無くなっていいのじゃ。
「さて、何か良い依頼はあるかの?」
「リンド様、こちらなど如何でしょうか?」
メイアが指さしたのは、採取依頼じゃった。
「ふむ、採取依頼か。しかし近隣を徘徊する魔物が厄介なため、難易度はやや高めと」
わらわ達ならこの辺りの魔物は脅威足りえぬし、寧ろおまけが手に入って良さそうじゃの。
「ではこれにするか」
依頼用紙を剥がして受付に行こうとした時じゃった。
「すまない、魔法使いは居ないか!?」
ロビーの真ん中で一組の冒険者パーティが声をあげたのじゃ。
「ウチのメンバーの魔法使いが病気で動けなくなったので代理を探している。ソロか予定の開いている魔法使いは居ないか? 使える魔法の種類よりも威力を求めている。報酬は等分だ」
どうやら助っ人の募集のようじゃ。
冒険者は生傷が絶えぬ職業故、こうして仲間が動けない間は他の冒険者を一時的に仲間にする事があるのじゃ。
ただ妙な事に今日に限っては魔法使い達が手を上げる事はなかったのじゃ。
「おかしいの、いつもならとっくに2、3人手を上げるものじゃが」
「皆海の方に行ったからですよリンド姐さん」
突然背後から聞こえて来た声に思わず跳び退る。
「げげっ、お主か」
そこに居たのはグラントの息子、ロレンツじゃった。
「お久しぶりですリンド姐さん! 最近すっかり見かけなかったので別の国に行ったのかと心配してましたよ!」
むしろ心配したいのはお主の頭の中じゃ!
まったくいつまでわらわに懐いておるんじゃ!
「そ、そんな事よりも海に行ったとはどういう事じゃ?」
わらわは強引に話題を変える、というか戻す。
「実は海の方で厄介な魔物が出たらしく、それを退治する為に船の上から攻撃できる魔法使いが呼ばれたみたいなんです」
ふむ、海か。確かに海の魔物は厄介じゃからの。
船の上から攻撃するには弓か魔法でないといかん。
しかも海の中に逃げられたら一部の属性は完全に無効化されてしまう。
「成る程な。じゃから魔法使いがおらんのか」
「ええ、強力な魔物らしく、強い魔法を使える魔法使い達がギルド経由で呼ばれたので彼等の求める魔法使いは居ないでしょうね」
だからグラントが呼ばれなかった代わりにパーティメンバーの魔法使いが呼ばれたそうじゃった。
ふむ、あの貴族の男の事かの?
「あの! 私参加します!」
そこにわらわ達の雑談を強引に打ち切る様などよめきが起こる。
そして人ごみの一角が割れたかと思うと、そこから一人の少女が手を上げて現れた。
「むむ?」
「まぁ」
わらわとメイアが思わず唸ったのも仕方ない話じゃった。
なにせその少女の魔力は非常に高く、我等魔族に匹敵するだけの力を秘めておったのじゃ。
通常人族は魔族に比べると魔力が低い。
かなり才能のある者でようやく中級の魔族クラスの魔力じゃが、この娘は上級魔族に近い魔力を秘めておったのじゃ。
「成る程、あの娘ならあの者達の眼鏡にも適うじゃろ」
ふぅむ、居る所には居る者じゃのう。
将来が楽しみな娘じゃ。
「いやぁ、あの子は無理でしょう」
しかし何故かロレンツはあの少女では駄目だと呟いた。
そしてそれを肯定するかのように、魔法使いを募集していた冒険者達も困った顔になる。
「あー、いや、その済まないんだが、今回は君以外の魔法使いを求めているんだ。すまないな」
「っ……そう、ですか」
断られた事にも驚いたが、少女の方も悔しそうに一瞬だけ表情を歪めたもののすぐに感情を消して受け入れる。
しかし落胆の感情は決して隠しきれるものではなく、少女が落ち込んでいるのは誰の目にも明らかじゃった。
「何であの娘の参加を断ったのじゃ?」
わらわは事情を知っているらしいロレンツに尋ねる。
「彼女、魔法を制御できないんですよ」
「何じゃと!?」
予想外の理由のわらわは困惑する。
「魔法使いが魔力を制御できんという事はないじゃろ」
通常魔法使いとは自分の魔力を操って魔法を使う。
体内から魔力を引き出し、その時点では無属性である魔力の属性を火や水に変じ、矢の形や球の形に変える。そして威力や射程を調整して放つのが魔法じゃ。
しかし魔力の制御が出来ないという事は、この中のいずれかの工程が正しく行われないという事。
そうなれば魔法は暴発して最悪術者本人を傷つけてしまう。
しかしそんなことはあくまで見習い時代の話である、一人前の魔法使いが魔力制御に失敗するなどあり得ぬ話じゃ。
師匠の下でそうならない様に徹底的に魔力の制御を習うものなのじゃから。
「それが本当に制御出来ないみたいなんです。これまでも何度か魔法を暴発されたり明後日の方角に飛ばしてしまったらしいですよ。最初は強力な魔力の持ち主と期待されていたんで大目に見られていたみたいなんですけど、何時まで経っても魔法が制御出来ない事で今じゃ誰も彼女と組もうとは思わなくなってしまったんです」
「なんとまぁ、あれだけの魔力がありながら勿体ないのう」
「魔力が多すぎて制御出来ないんじゃないかって言われていますね」
「そんなことはないと思うんじゃがのう……」
仮に何らかの事情で師の下で学ぶ機会が短かくなったとしても、それでも練習を続けていれば自分の身を守る為に無意識に威力を抑えて最低限暴発しない様に力づくで制御できるようになる筈なのじゃ。
効率はクソ悪くなるがの。
あの娘の魔力なら威力を抑えても並みの魔法使い程度にはなる筈じゃから、そこまで困った事にはならないと思うのじゃが。
結局、この話は別の町からやって来た魔法使いが参加する事で事なきを得た。
そして気が付けば少女の姿はギルドから掻き消えていたのじゃった。
◆
「今日はこの辺りで稼ぐとしようかの」
翌日、わらわ達は新しい依頼を達成する為に森へとやってきていた。
幸い競合する冒険者の姿はなく、わらわ達はのびのびと魔物を狩ってはマジックポケットに丸ごと突っ込んでゆく。
解体はギルドの解体場にお任せなのじゃ~。
「む? 何じゃこの魔力の高まりは?」
その時じゃった。突然森の一角におかしな魔力の高まりを感じたのじゃ。
そのあまりにも奇妙な感覚に危険を感じたわらわ達は、狩りを切り上げてその魔力を感じる場所へと向かう。
「あれは昨日の娘か」
するとそこには見覚えのある姿の娘が魔物と対峙しておった。
否、魔物は娘の魔力に危険を感じ、慌てて逃げ出しておる最中じゃった。
それもその筈、娘の魔力を支える魔法術式は驚く程脆弱で、まるで細い木の枝の上を重量級の人物が歩いておる様な危なっかしさじゃった。
「何じゃあの不安定な術式は!?」
あんな貧弱な術式ではあの魔力を制御する事なぞ出来んぞ!?
本能に忠実な魔物は巻き添えを喰らっては堪らんと逃げだしたわけじゃの。
「ぐぅ、だ、駄目! またっ!」
娘もまた暴走した魔法の制御を取り戻そうとして追ったが、あれでは転がる巨大な岩の塊を猫じゃらしで軌道修正するようなものじゃ。とてもではないが制御など出来んじゃろう。
「これはいかん!」
このままでは森の一角が焼け野原になってしまう。
流石にそんな光景を見過ごすわけにはいかん。
わらわは急ぎ娘の体に飛びつくと、強引に魔力で娘の体を覆う。
「え!? 誰!?」
「良いからもう少しだけ魔力の暴走を抑えるのじゃ!」
娘の体を覆った魔力を本人は放つ魔力に混ぜ合わせて術式に介入する。
よし、術式の制御権に介入成功じゃ!
じゃが術式を書き換えている暇はない。
わらわの魔力で強引に脆弱な部分を補強すると、全周囲に拡散しそうじゃった魔力の流れを一方向のみにか固める。
「嘘っ!? 魔力の流れが!?」
「よし! ぶっぱなせ!」
わらわは娘の腕を空に向けると、魔力の導線を天へと導く。
「え!? あっ、は、はい!」
魔力の導線が空に向けられた事を察した娘が堪えていた魔力を空に向けて解き放つ。
溜まりに溜まった魔力は勢いよく空を彩り、その全てが放出されきるまで眩い光の柱を産み出し続けていおった。
そしてようやく全ての魔力を放ち終えると、少女はヘナヘナとへたり込む。
「よ、良かったぁ」
うむ、森が破壊されずに済んで何よりじゃ。
「何とか大惨事にならずに済んだみたいじゃの」
「あ、あの、ありがとうございました」
わらわの声に我に返った娘は慌ててフラフラと立ち上がると、わらわに対して頭を下げる。
「気にする必要はない。偶々通りがかっただけじゃからの」
「待ってください!」
「ぬ? 何用じゃ?」
「その、先ほどの私の魔法への介入、凄かったです 他人の魔法に介入するんて物凄い高難度技術なのに」
「そこまで大したことはしておらぬよ。わらわはお主の術式を補強した程度じゃ」
「それが凄いんです!」
少女は喉を鳴らすと、強い決意を込めた眼差しでわらわを見つめる。
「あの! 私はテイル=テンクロといいます。どうか私を貴女の弟子にしてください!」
「うむ、断る!」
そしてわらわは秒で断った。
「って、ええー!? 即答ぉーっ!?」
まさか断られると思っていなかったのか、テイルと名乗った娘が涙目で絶叫する。
だってどう考えても面倒事なんじゃもん。
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