第44話 魔王、と海からの稀人なのじゃ

「リンド様、ご報告です」


 パラソルの下で優雅にティーパーティを開いて居ったら、水着姿のメイドが報告にやって来た。


「というか何で水着なんじゃ?」


 しかもご丁寧にメイド風の意匠が組み込まれた水着じゃ。

 

「わたくし拡張して隆起した浜辺の調査を担当しているのです」


 ああ成る程、どうせ水辺で調査するのだから水着の方が効率が良いという事か。


「……」


「どうなさいましたか?」


「いや何でもない。それよりも報告を頼む」


 決してスタイルの良さに嫉妬なぞしておらぬよ?


「はい、実は拡張した浜辺を調査していたら、島の住民ではない魔物の存在を確認しました」


「何じゃと?」


 おかしいの、この島はわらわの結界で部外者は入れぬはずなのじゃが。


「どうも島の隆起に巻き込まれてしまったみたいです」


「あっ」


 しまった。よく考えたら結界を張ったのは島の拡張前じゃったわ。

 これは悪い事をしてしまったのう。


「ふむ、その魔物と話をしたいところじゃの」


「そうおっしゃると思って連れてきております」


 そりゃ用意が良いのう。

 そう言うと水着メイドが連れてきた魔物を呼ぶ。


「こんにちわだペン。ペンドリーだペン」


「どうもザラシ。シゥザラシだザラシ」


 驚いたことに、やって来たのは二種類の魔物じゃった。

 しかもどちらの魔物もモフモフの毛に包まれておった。

 特にペンドリーに至ってはぬいぐるみが動いておるような姿じゃ。

 確か鳥系の魔物は子供の頃はフワフワの毛をしておって、大人になると羽に生え変わるんじゃったか。


「わらわはリンドじゃ。今回はわらわのやらかしに巻き込んでしもうてすまなんだの」


わらわが謝罪すると、ペンドリーとシゥザラシはむしろ逆だと首を横に振った。


「ペン達はそのおかげで助かったペン」


「そうだザラシ。僕らは魔物に追われていたんだザラシ」


「追われていた?」


 剣呑な内容にわらわ達は意識を切り替える。


「ペン達は弱い魔物だからよく強い魔物に追われていたんだペン」


「でもあいつ等は陸に上がれないから追われたらすぐに子島に逃げ込んでいたんだザラシ」


 ふむ、確かに大型の海の魔物は巨体故に陸に上がる事は出来ぬからの。

 そして小島は弱い魔物達の楽園となっておったようじゃな。


「でも最近物凄く大きな魔物がやって来て、僕達の逃げ込む小島を壊してしまったんだペン」


「なんと!?」


 そりゃまた豪快にやらかしたものじゃのう。


「という事はお主等住む場所を無くしてしもうたのか?」


「そうなんだペン。逃げ込める場所を無くして僕達はずっと逃げ続けてきたんだペン。でも碌に休むこともできず、もう限界だと思ったところで突然海底が盛り上がって水の中から飛び出したんだペン」


「あー、驚かせてすまんかったの」


「お陰で助かったザラシ。ありがとうザラシ」


 どうやらペンドリー達にとっては良い結果になったようじゃな。ホッとしたわい。


「それでお主等どうするつもりじゃ?」


「出来たらここに住まわせてほしいペン」


「もう帰る場所は無いから、ここで暮らしたいザラシ」


 ふむ、空から見た感じじゃとこの周囲には小さい島も無いし、ペンドリー達にとっては死活問題じゃろうなぁ。


「住む事を許して貰えるのならお礼に海の魚を獲ってくるペン」


「僕達魚を獲るのは上手ザラシ」


ふむ、海の漁師と言う訳か。


「良いじゃろう。わらわ達も手間が省けるしの」


「ありがとうペン!」


「嬉しいザラシ!」


「うむ。子供達だけで大変だったじゃろう。安心して暮らすが良い」


「ん? ペン達は大人だペンよ」


「なぬ!? しかし毛が生えておるのは子供の証ではないのか?」


「ペン達の種族は大人になっても毛は抜けないペン」


 なんと、そうじゃったのか!? 同じ鳥系の種族でも少し部族が違うと生態も変わるんじゃのう。


 ともあれこうしてわらわ達に新たな仲間が加わったのじゃった。


「よろしくぅ」


「よろしくペン」


「よろしくザラシ」


 ペンドリーとシゥザラシはすぐに島の魔物達と仲良くなったが、特に水辺で暮らすアピバラと気が合ったようじゃ。


「温泉気持ちいいペン」


「これは良いザラシねぇ」


 そしてさっそく温泉に嵌っておった。


「しかし突然現れた大型の魔物か……それも小島を破壊する程の気性の荒さとは、気になるのう」


 ◆勇者SIDE◆


 港町は緊迫した雰囲気で包まれていた。

 武装した兵士達が港の一角を埋め尽くしていたのだ。


「勇者、準備が整ったぞ」


「ああ」


 仲間の近衛騎士筆頭が勇者に準備が整ったと告げると、勇者は彼と共に兵士達の前に出る。


「皆も知っていると思うが、我が国が開拓した海路に強大な魔物が現れた。魔物はわが国の船だけでなく他国からの貿易船も襲い、それを脅威と考えた周辺国は我が国に船を出す事を避けるようになってしまった。このままでは我が国は大打撃である! それを憂えたっ国王陛下は、勇者殿を派遣してくださった!」


「「「おおーっ!!」」」


 近衛騎士筆頭の言葉に騎士達が歓声を上げる。

 そして勇者に号令を促した。


「行こう。海路に巣食う大海魔退治だ!」


 こうして、勇者達は新たな戦いに向かうのだった。

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