第43話 魔王、お風呂を作るのじゃ

 水着に着替えたわらわは、アピバラ達と温泉を満喫しておった。

 決してそれまでにあれやこれやの騒動なぞ起きておらんよ?


「はぁ~、素晴らしいです! リンド様の未成熟な肉体を彩る色彩! 決して目立ち過ぎず、寧ろその未成熟さを際立たせるデザイン!」


「それ子供っぽいって言わんか?」


「いえいえいえいえ、とてもお似合いでございますよ」


 何じゃろうな、何じゃろうなこの感情は。


「どう~? ヌクヌクでしょ~?」


 モヤモヤとした感情に包まれておったわらわに、アピバラが体をこすりつける様にすり寄って来る。

 ふむ、毛玉スライム達のフワフワ具合とは違ったゴワゴワとした毛じゃの。

 なんというか、ちょっと粗目の生地といった感じかの。

 こういうのも面白い触り心地じゃのう。


「あたたかーい」


「ぬくぬく~」


 アピバラ達と温泉に浸かって極楽気分を味わっておる。

 ふふっ、さっきまで腹が減って飢えていたとは思えぬ顔じゃの。


「じゃが、このままではいかんのう」


 そうじゃ、今回はわらわ達が運よくやって来た故にアピバラ達は飢えを凌ぐ事が出来たが、これからもそう言う訳にはいかん。

 わらわもアピバラ達だけに関わってはおられんからのぅ。

 しかし放置するのも気分が悪い。


「じゃが際限なく島に連れて行くのものう……」


 それに元から島に居る魔物との兼ね合いもある。

 あまりホイホイ助ける訳にもな。


「リンド様、それでしたら川の管理を任せてはいかがでしょう?」


「なぬ?」


「アピバラ達は群れで魚を獲って暮らす魔物です。ならば逆に川で養殖を行う際の管理人も任せられるのでは?」


「ふむ」


「無計画に保護されては困りますが、働く住人として雇う分には問題ないかと」


 成程のう。確かにそれなら先ほど感じた人族の一方的な搾取にもならんか。


「よし、アピバラ達よ、お主等に話がある」


「なにぃ?」


 わらわはアピバラ達に引っ越しの勧誘と島で養殖する魚の仕事を持ちかけた。


「獲った魚を人族に取られないで済むの~?」


「その通りじゃ。お主等には川で育てる魚の管理を任せたい。報酬としてお主等の食べる分の魚を提供しよう」


 わらわの提案を聞いたアピバラ達は仲間達で集まって相談を行う。

 そして話が決まったのか一匹がわらわの下へとやってきた。


「その島って暖かい水はある?」


「温泉の事か? いや、わらわの島には温泉はないぞ」


「そっかぁ、ないのかぁ」


 アピバラ達が残念そうにため息を吐く。

 ふむ、アピバラ達にとって温泉は重要な要素のようじゃの。


「温泉はないが作る事は出来るぞ?」


「え!? 本当ぉ!?」


「うむ、わらわの魔法なら温泉を作れるのじゃ」


 まぁかなり地下まで穴を掘れば温水層にぶち当たるじゃしな。


「それなら行きたいぃ!」


 温泉を作れると知った途端、アピバラ達が乗り気になる。

 お主等飯の心配よりも温泉の方が重要じゃったのかい。


「この暖かい水があるからここから離れたくなかったんだぁ。でもその島に暖かい水があるなら行きたいよぉ」


「うむ、では契約成立じゃな」


 その後わらわ達はアピバラ達の協力を得て改めて魚を獲ると、島へと帰った。


 ◆


 島に帰ったわらわは、メイド隊に取って来た魚を預けると、さっそくアピバラ達の為の温泉作りを始める事にした。


「暖かい水は川の近くに欲しいんだぁ」


「任せるのじゃ」


わらわは捜査魔法で地下深くの熱と水脈を探ってゆく。

 そしてかなり深い位置に感じた二つの感覚が交差する場所を感じ取る。


「見つけたぞ!」


 その場所の土を操作して細い穴を開けてゆく。

 目的地はかなり深く、わらわは途中から土魔法で作った杭を念動魔法で回転させて掘り進める。

 そして掘る事数十分。杭が受ける抵抗が消えたと思うと、急に押し返される感覚を受けた。


「来たぞ! 全員後ろに下がれ!」


 そして押し返されてきた杭が勢いよく飛び出してくると同時に、大量の水が地上に吹きだした。


わらわは杭が勢いよく飛んで行かないように優しく魔法で受け止めると、そっと地面に置く。


「わぁー、もくもくしてるー」


 吹き上げた自らは毛玉スライムが言うように大量の湯気が吹きだしておる。

 よしよし、ちゃんとお湯じゃの。

 わらわは吹きだしてくるお湯の周囲に丸い穴を掘るとそこにお湯を溜めてゆく。


「ふむ、少々熱いな。川の水で冷ますか」


 そっと触れてみるとかなり熱かったので、川から水を引いて湯を冷ますことにした。

 源泉が吹きだしてくる場所の横にもう一つ穴を開け、そこに源泉のお湯と川の水が混ざる感じにする。


「こちらを湯船とする。向こうのお湯が吹きだしておる源泉は暑すぎるから入ってはならぬぞ」


「「「はーい」」」


 皆が元気よく返事をしたのを聞いたところで、わらわは湯船の底をゆるやかな坂にする。

 これでミニマムテイルの様な小さな魔物から、ガル達の様な大型の魔物まで温泉に入れるようにするのじゃ。

 ……まぁグランドベア用の温泉は別に作らんといかんがの。


「うむ、こんなものかの。温泉が出来たぞ。入ってみるがいい」


「「「わーい」」」


 わらわが許可を出すと、魔物達が我先にと温泉に飛び込んでゆく。


「あたたかーい」


「ぬくぬくー」


 うむうむ、評判は上々のようじゃの。


「川の暖かい水よりも暖かくて気持ちいいよぉ」


 アピバラ達がは新しい温泉が気に入ったらしく、嬉しそうに体を沈める。

そして仲間同士で密着を始め、みっちりと一か所に詰まった。


「……何でわざわざ固まるんじゃ?」


 アピバラ達の生態に首を傾げつつも、新たな住人が気分よくやって行けそうで安堵するのじゃった。


「「「と言う訳でお着替えを用意いたしました!」」」


「何で?」


 いや、今とても良い感じでわらわ染めたんじゃけど?


「メイド長だけリンド様の水着姿を見る事が出来て狡いです」


「是非私達の用意した水着も来てください!」


「魔王様のボデーにこの水着を……」


 おい最後のお主! それを水着と呼ぶのは水着への冒涜でないかのっ!?


「「「さぁさぁさぁ!!」」」


 ……温泉は快適じゃったよ。温泉は……の。

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