第36話 魔王、伝説の毛玉スライムを目撃するのじゃ
『町を壊しちゃだめー』
グランドベアの片割れが町を破壊するかに思われたその時、なんと巨大な毛玉スライムが現れその凶行を阻止したのじゃった。
「何じゃアレは!?」
長く生きて来たわらわもあのような毛玉スライムは見たことが無い。
もしやあれが毛玉スライムの変異種なのか!?
『リンド様、ガル様より報告です。あの巨大毛玉スライムは味方との事です』
「あれが味方じゃと!?」
もしやガルの知り合いなのか?
いや、今はそんな事を考えてる場合ではないな。
わらわは急ぎ町へとたどり着くと、町の中は大パニックになっておった。
「なんだあの化け物達は!?」
「でっかい毛玉スライムだー!」
「アイツ等に町は滅茶苦茶にされるのか!?」
「毛玉スライム達を追い出したから彼等の王が怒ったんだ!!」
もう町の住民はグランドベアと巨大毛玉スライムの来襲でしっちゃかめっちゃかじゃの。
これは一度落ち着かせなければ暴動が起きるぞ。
「グレートウォール!!」
まずわらわは町の周囲を囲うように土の壁を作りだす。
よし、これでグランドベアの攻撃から町を守る事が出来るのじゃ。
「うわぁっ!? 今度は壁が!?」
「この世の終わりじゃぁー!!」
……ちょっと驚かせ過ぎかの?
さて、どうやって町の者達を説得したものか……よし、こうするか。
「聞け、町の者達よ! あの巨大な毛玉スライムはお主等の味方じゃ!」
「味方……あれが?」
風魔法で町中に自分の声を届けると、町の者達は驚きつつも静かになった。
人間何よりも欲しいのは安心できる情報じゃからの。
「そうじゃ! あれこそは毛玉スライムの王! この町で暮らしていた毛玉スライム達の願いを受けてお主達を助けに来たのじゃ!」
「毛玉スライムが俺達を!?」
そう、この町はわらわが毛玉スライム達の有用性を説いた事で、世にも珍しい毛玉スライムと共存する町となっておった。
わらわはそれを利用した訳じゃ。
「聖女達に見つからぬようにとお主達の手によって町から避難した毛玉スライム達は、ずっとお主達を陰ながら見守っておったのじゃ! そしてこの町の危機を知った毛玉スライム達は道中の危険を顧みず自分達の王の下に行き、この町を守って欲しいと願ったのじゃ!」
町の住人達を言いくるめる為に適当な話をでっち上げるわらわ。
「だから皆安心するが良い! 魔物は毛玉スライムの王とわらわ達が倒すのじゃ!」
わらわの言葉が終わると、町の中がどよめきに包まれる。
これで駄目なら眠りの魔法でも使って町一つ眠らせるしかないのう。
じゃがその心配は無用じゃった。
「毛玉スライム達が俺達の為にそんな事をしてくれたなんて」
「そういや酒のつまみを分けてやったら喜んでくれてたっけ」
「売れ残りの果物をやったら感謝されたな」
「子供達の遊び相手になってくれてたわ」
町の者達は毛玉スライム達との交流を思い出していた。
「アタシ、単に晩御飯の余りをあげてた」
「嫌いなピーマン食べてくれた」
いやお主等は毛玉スライムに謝るんじゃぞ。
「うぉぉー! ありがとうな毛玉スライム達!」
「戻ってきたらご馳走作ってあげるからねー!」
「がんばれー毛玉スライム―!」
冷静さを取り戻した町の者達が毛玉スライムへの応援を始める。
よし、これなら安心じゃの。
わらわは町を後にして巨大毛玉スライムが抑えているグランドベアに向き直る。
すると……
「グォォォォォ!!」
『うわぁー』
巨大毛玉スライムはグランドベアによって転がされておった。
ああ、うん。まぁデカくなっても毛玉スライムは毛玉スライムじゃからのう。
「じゃが時間稼ぎとしては上出来じゃ! あとはわらわにまかせるが良い!」
『おねがいー』
わらわは飛行魔法を発動して巨大毛玉スライムに意識を割いておるグランドベアの懐に飛び込むと、勢いよくその顎に向けてアッパーを放った。
「そりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
「グォゴッ!?」
ドゴンという音と共にグランドベアの体が宙に浮きあがる。
そのまま間髪入れずボディに連打をかますと、回し蹴りを叩き込んでもう一匹のグランドベアの下へと蹴り飛ばした。
『魔王様凄ーい』
よし、あとはグランドベアの子供が説得するまでグランドベア達を守り切れば……
「くそ! 新しい魔物を呼び寄せたのか!」
「だが魔物が町から離れたのは運が良かった。あとはあの娘と巨大な毛玉スライムだけだ!」
しかしそこに神器を回収した勇者達がやって来る。
「こ奴等、わらわがグランドベアを引き剥がしたところを見ておらなんだのか……」
まぁよい、最大戦力である勇者達がこちらに釘付けになるのは寧ろ好都合。
「まずはあのデカい魔物の注意を引きつける! ファイアーバスター!」
勇者が炎の攻撃魔法を毛玉スライム達に放つがそうはさせぬ。
しかしわらわが勇者達の魔法を相殺する前に勇者達の放った魔法が消滅した。
「何っ?」
気が付けば周囲は深い霧に包まれ、この霧によって勇者の魔法はかき消されたようじゃった。
「なんですかこの霧は!?」
「くっ! 周囲が見えん! 不意打ちに気をつけろ!!」
「この魔法は……」
『リンド様、グランドベアの番の説得が完了しました』
「おお、でかしたのじゃ! 巨大毛玉スライムよ、作戦完了じゃ行くぞ」
やはりこの魔法はメイアが目くらましを兼ねて放ったものじゃったか。
『はーい』
勇者達がわわらを見失って折る間に、わらわと巨大毛玉スライムはメイア達と合流する。
「よし、それでは島に転移するぞ」
皆を連れて島へと転移したわらわは、グランドベアをメイア達に任せてすぐに自分だけ転移を行う。
「風よ! 邪悪な意思を吹き払え!」
戻ってくると勇者が風の魔法でメイアの霧を吹き飛ばそうとしておるところじゃった。
うむ、間に合ったの。
「それでは派手にかますぞ! バーニングバスター!!」
勇者の風が霧を吹き飛ばすと同時、わらわの放った魔法がグランドベア達の居た平地に炸裂する。
そして次の瞬間、大地に巨大な炎の塔が生まれた。
「な、何だぁーっ!?」
大地に炸裂した魔法が衝撃波を産み出し、近くに居た冒険者や騎士達が吹き飛ばされないようにひっしに大地や木々にしがみ付いたり、先ほどわらわが産み出した土壁の陰に隠れてやり過ごす。
町の方もわらわの産み出した土の壁のおかげでほぼ無傷じゃ。
そして全ての霧が晴れた後の大地には、巨大なクレーターが出来上がっておった。
「な、何が起きたんだ……!?」
クレーターの巨大さに冒険者達が呆然となる。
「あ、あの魔物達は!?」
我に帰った者達がグアンドベアの姿が無い事に騒ぎ出す。
「あの魔物ならわらわの放った魔法で焼き尽くしてやったのじゃ!」
わらわは飛行魔法で空の上から騎士達に語りかける。
「魔法で……!?」
「そうじゃ! 今の魔法こそわらわの師匠が生み出した奥義! この魔法を喰らってはどんな大魔獣と言えどもひとたまりもないのじゃ!」
まぁ実際には派手なばかりで実用性の低い攻城用の魔法なんじゃがの。
「た、確かにあれほどの威力ならあの魔物達もひとたまりもない……」
「うむ! ただわらわと言えども一発しか使えぬ大技ゆえ、二体目が現れた時にはどうしたものかと焦ったぞ! 幸い何故かやってきた毛玉スライムの王の協力で魔物達を一か所に集めてくれたおかげで事なきを得たがな!」
「あの巨大な毛玉スライム達が町を守ってくれた……?」
よし、これで巨大毛玉スライムが味方と騎士達にも印象付けられたじゃろ。
「だが勇者様は君があの魔物を操っていたと言ったぞ!」
うむ、だから面倒な事になったんじゃよな。
「それならあの魔物達を倒す意味はなかろう? 本当なら最初に作った土壁でお主等を守りながらわらわも共に切り札の魔法を放つつもりだったのじゃ。しかし焦って魔法を暴発させた者が出た事と、勇者達が妙な勘違いをしてくれたお陰で事態がややこしくなったのじゃ!」
まぁそれを言うとわらわの発言も辻褄が合わなくなるのじゃが、まぁ戦場なんて勢いで言い切った者勝ちなのじゃ!
「そ、そうだったのか……」
「さて、そろそろ勇者達が戻って来る。このまま勘違いされたままのわらわがここに居ると厄介な事になる。後の説明は任せたぞ!」
それだけ言うとわらわは飛行魔法で町から離れる。
「ま、待ってくれ! 町を救ってくれた礼を!」
「いらんいらん! その礼は町の為に使うが良い!」
追いかけてくる騎士達を振り払うと、わらわは彼等の目が届かぬところに着陸し、皆の待つ島へと転移したのじゃった。
ふぅ、これで一件落着じゃな。
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