第37話 魔王、伝説の正体を知るのじゃ

「まさか巨大毛玉スライムの正体がお主等じゃったとはなぁ」


 島に戻ったわらわは、巨大毛玉スライムの正体に驚く事となった。

 なんと巨大毛玉スラムの正体はお互いの毛を絡ませ合った毛玉スライムの群体だったのじゃ。

 まるで海で群れをつくって巨大魚から身を護る小魚の群れのようじゃな。


「こんがらがったのー」


 ただその代償として、こんがらがった毛はなかなか解けなくなるのじゃとか。

 今は守り人達が総出で毛玉スライム達の毛の絡まりを解きほぐしておる。


「いやー、これはやりがいがあるだなあー」


「お主等よくこれを外せるのう」


 正直言ってハサミで切った方が早くないかの?


「大丈夫だぁ。長年聖獣様の毛を手入れしてきたオラ達なら、この程度朝飯前だぁ」


「……」


 何ともコメントに答えづらい内容にガルが遠い目になる。


「しかし何故こんな事になったのじゃ? いやまぁ助かったのじゃが」


「ああ、それがな……」


 すると遠い目をしていたガルがこちらの世界に戻って来て事情を説明してくれる。


「二体目のグランドベアが町の傍に現れた際に、森の中で暮らしていた毛玉スライム達が我に助けを求めてきたのだ。町を助けてほしいと言ってな」


 成程、聖女から逃す為に町から出された毛玉スライム達は森に隠れておったのか。


「とはいえ我もグランドベアの子供を守りながら親の片割れの相手をしておったのでな、町までは手が回らなかった。そこで動いたのがこ奴だ」


 と、ガルは中央に居た毛玉スライムに前足を向ける。


「こ奴が森の毛玉スライム達をまとめ上げ、巨大な姿となってグランドベアの足止めを行ったのだ」


「何とまぁ」


 毛玉スライムの予想外の行動力には驚きじゃの。


「よくそんな危険な真似が出来たもんじゃのう」


「だって友達が怪我したら嫌だもんー」


「友達のお父さんとお母さんが悪者扱いされるの嫌だったー」


 自分達の身の安全よりも他者の為に動くか。


「どちらかと言えば、お主達の方が勇者に相応しいのう」


「僕達勇者ー?」


「うむ、勇者毛玉スライムじゃの」


「わーい、勇者だー」


「僕達勇者だー」


 無邪気に喜ぶ毛玉スライム達に思わずほっこりしてしまうのう。

 と、そこに地響きのような音を立てながら巨大な獣がわらわ達の下へやってきた。


「お前達が我等の子を救ってくれた者か」


 やって来たのはグランドベアの番じゃった。


「その様子だと正気に戻れたようじゃの」


 我が子と引き離された時は我を失っておったが、我等と意思の疎通が出来るようになっておると言う事は、もう心配は要らぬじゃろう。


「ああ、迷惑をかけた」


「本当にありがとうございます」


「お父さんとお母さんに会わせてくれてありがとう!」


 グランドベアの番は深々と頭を下げてわらわ達に感謝の気持ちを告げてくる。

 元々温厚な魔物故、正気に戻れば理性的じゃの。


「なぁに、たまたま関わっただけじゃからの。気にするではないわ」


「この恩は必ず返す」


「必要な時はいつでも頼ってくださいね」


「僕も頑張るから!」


「はははっ、その時は頼らせてもらうとするぞ」


 と言っても、暫くは面倒事もお腹いっぱいじゃから、島でノンビリするとしようかの。


 ◆勇者SIDE◆


 勇者達が平野に戻って来た時には、全てが終わっていた。

 グランドベアの姿どころか魔王や巨大毛玉スライム達の姿もどこにも見当たらない。


「あの少女と魔物はどこに消えたんだ!?」


 勇者達が困惑していると、騎士団長が部下を伴ってやって来る。


「魔物でしたらその少女が倒してくれましたよ」


「あの少女が!? そんな筈はない! 彼女があの魔物を操っていたんだ!」


「そうは言ってもねぇ、実際あの魔物は居なくなった訳ですしねぇ、あの通り」


 そう言って騎士団長はクレーターとなった平地を指差す。


「これをあの少女が……?」


「ええ。切り札の魔法だったらしく、使うタイミングを計っていたら味方に襲われてそれどころじゃなかったと文句を言われましたよ」


 襲ったのは誰でしょうねぇと騎士団長は勇者達を責める様に見つめる。

 いや、勇者達に批難の眼差しを向けたのは騎士団長だけではなかった。

 騎士や従者、それに冒険者達も勇者に批難の目を向けている。


「魔王を倒したって言うからもっと凄ぇ奴かと思ったら意外と大したことねぇなぁ」


「それどころか魔物が居るのにいきなり俺達を助けてくれた嬢ちゃん達に襲い掛かってたもんなぁ。本当に勇者なのか?」


「くっ……」


「止めておけ。今は何を言っても無駄だ」


 反論をしたいものの、すでにグランドベアも魔王も姿を消している為、説得力がないと近衛騎士筆頭が勇者を止める。

 その結果、勇者達は町を救った恩人に襲い掛かった勘違いの恩知らずと陰口をたたかれる事となるのだった。


 そしてもう一つ、自分達の不甲斐なさの責任を勇者達に押し付けた事で責任を逃れたと思っていた騎士団長達だったが、彼等は彼等で強引に商人からポーションを徴収した事や、そのポーションの配給を盾に冒険者達を脅して肉壁にした事がバレ、領地からは冒険者達が引き上げてしまい、長きにわたって悪評が立つ事になるのだった。


 ただ、その代わりとばかりに毛玉スライム達の評判は鰻登りに上がり、後年には町を守ってくれた毛玉スライム達とその王に感謝の気持ちを伝える大毛玉スライム祭りが開催され長きにわたって町の名物となるのだった。

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