第10話 魔王、お任せするのじゃ

ロレンツを撒いて冒険者ギルドに戻ったわらわは、急いで討伐したマッドリザード10匹を受付に提出する。

 

「はーい、マッドリザード10体を確認しました。状態も非常によく、これなら依頼主も満足してくれると思うわ。というか今どうやってコレ出したの? あとどうやって狩ったの? 傷が全然ついてないんだけど?」


「魔法と拳じゃ」


「……まぁ商売道具は秘密にしておくものよね」


 何か勘違いされた気もするが説明が面倒なので放っておくとするかの。

 それよりもロレンツが戻ってくる前に撤収したいのではよう報酬を寄こしてほしいのじゃ。

 幸いあ奴は疲れ切っておったゆえ、すぐには戻ってこれまい。


「はい、報酬の金貨10枚よ」


 よし、これで依頼は達成じゃ。さっさと買い物して帰るのじゃ。

 ああそうじゃ。帰る前に追加で狩ったマッドリザードの事も確認しておかんとな。


「ところで依頼とは別に狩った魔物を買い取って欲しいんじゃが、ちと量が多いのと用事があってな、査定だけ頼んで金の受け取りは明日にしても大丈夫かの?」


「それって解体済み? それともギルドで解体する?」


「おお、解体もやってもらえるのか?」


「ええ。大型、中型、小型、それに解体の難度や希少性で解体価格が変わるわ。どのくらいの大きさ?」


「マッドリザードじゃ」


「ああ、余った分を売ってくれるのね。それなら一匹あたり銀貨1枚ね。買取査定額から引くこともできるけどそれでいい?」


「うむ、それで頼む」


「お金のことは解体場で責任者と相談して交換用のカードを受け取ってきて。解体場は訓練場の奥ね」


「分かったのじゃ」


「済まぬ、解体を頼みたいのじゃが」


 受け付けの娘に言われ通りに訓練場の奥に行き、解体場の扉を開ける。

 扉を開けると、むせかえる程の血の匂いがムワリと漂ってくる。

 誰に話しかければ良いのかと周囲を見回していたら、近くにいた解体師と思しき厳つい男と目が合う。


「なんだぁ? ここはお前の様なガキが入って来る所じゃねぇぞ。刃物が危ないからさっさと出て行きな」


「解体を頼みたいのじゃ」


「ガキの癖に解体を他人任せぇ? 覚える為にも自分でやんな」


 まぁ道理じゃが、正直解体は若い頃にやり飽きたのじゃ。


「数が多くて手が足りぬのじゃよ」


「数ねぇ、ならそこに出しな。言っとくが二、三匹程度で根を上げたんだったら追い出すからな」


「その程度じゃないから安心せい」


 わらわはマジックポケットから残ったマッドリザードを引っ張り出して並べてゆく。

 ロレンツの狩ったものと区別する為、剣で倒された個体は離れた場所に置いておく。


「ほう、言うだけあってそれなりの数狩って……狩って……おい待て! 一体何匹狩って来たんだ!?」


「ざっと100匹くらいかのう」


「100!?」


「これで全部じゃ。流石にこれを一人で捌くのは大変でのう」


「そ、そうだろうな……」


「買取金額の受け取りは明日にしたいんじゃが、その場合はカードを受け取れと言われておる」


「あ、ああ。分かった。おい、予約カードを持ってこい!」


「へい!」


「カードを受付に持っていけば解体済みの素材の金を受け取る事が出来る。

ただし解体費用は天引きで差っ引かれるし、値段が気に入らないからって買取をキャンセルするのも無しだ」


「分かったのじゃ」


「あとこの数はうちの若い連中を総動員しても一日じゃ無理だ。三日は欲しい」


「構わんぞ」


「助かる。おい! これを明後日までに解体する! 今日バラさない分は氷魔法で冷やしておけ!!」


「「「「へいっ!!」」」」


 解体師の指示を受けて部下らしき若者達がマッドリザードを回収してゆく。


「ああそうそう。刃物で倒されたマッドリザードはロレンツが倒したものじゃから別にして欲しいのじゃ」


「ロレンツ? グラントの倅のロレンツか?」


「そのロレンツじゃ。丁度狩りの場ではちあっての」


「分かった。支払いは別になる様にしておこう。あとは俺達に任せな。キッチリ解体してやるからよ」


「うむ、任せたのじゃ」


 解体を任せたわらわは、ロレンツが戻ってくる前に最低限必要な物資を買いこむと、すぐさま転移魔法で島に戻ったのじゃった。


 ◆


「はー、昨日は疲れたのう。解体はまだかかるし、今日は城でノンビリ過ごすのじゃ」


 翌朝、朝食を食べ終えたわらわは、城を出ると海辺に作った簡易ビーチベットに寝そべる。

 毛玉スライム達はわらわが町で買って来た野菜と地下水の盛り合わせを美味しそうに食べておる。

 なぜかわらわの焼いた焼き肉はあまり売れておらんが……やっぱり肉は好きではないのかの?


「しかし、ちょいと日差しが強いの」


 南国だけあって少々太陽の光が強いみたいじゃな。

 わらわはちょちょいと魔法で地面を操作し、太陽光を遮る大きなパラソルを作る。


「これでよしと」


 うむ、良い感じで涼しくなった。


「わーい日陰だー」


 するとさっそく物珍しさから毛玉スライム達が集まって来た。

 毛玉スライム達は日陰になった地面の上でベターっと体をくっつけて……くっつけておるよな? なんか平べったくなっておるし。

 ともあれ影になって多少は涼しくなった地面でまったりしていた。


 少々海風が強くなってきた故、土を盛り上げて低めの壁を建てれば丁度良い風の強さになる。

 ああ、ええのう。このまったりとした空気。

 久しぶりにノンビリしておるわ。


 マッドリザードの件は気になるが、現状では情報が無さすぎるしのう。

 って言うか折角自由になったのに余計な気苦労を背負いたくないのじゃ!

 と言う訳でこの件を考えるのは止めじゃ止め!

 なんかあったらその時に対策を立てればよかろう!


「わーい、流されるー」


 そしてカサの影に入ってこなかった毛玉スライム達は、安全になった砂浜で波に攫われては戻って来る遊びに興じて負ったのじゃった。

 ……ちゃんと全員戻ってきておるよな?

ちょっとばかり怖い気もしながら、わらわは毛玉スライム達が流されてははしゃぐ声を音楽として楽しむのであった……


 ◆


「さて、解体が終わるまではまだ二、三日かかるんじゃったの。では畑に野菜を植えるとするか」


「魔王様何するのー?」


 城の裏手にある平野にやって来たわらわの下に毛玉スライム達が群がって来る。

 

「うむ、畑を作るのじゃ」


「畑ってなにー?」


 野生の生物であるが故に畑を知らぬ毛玉スライム達が訪ねてくる。


「畑とは……そうじゃな、新鮮で上手い野菜を育てる場所の事じゃ」


「美味しい野菜好きー」


 野菜と聞いて毛玉スライム達が感情を感じられぬ声を上げながら体をプルプルと揺らす。

 野菜は水分が多い故、毛玉スライム達が好む食材のようじゃった。


「うむ、ではさっそく畑を作るとするかの! そーれ盛り上がれ!」


 わらわは土魔法で地面を振動させて土をほぐす。


「わー、地面がプルプル揺れてるー」


 地面の動きが面白かったのか、毛玉スライム達も同じようにプルプルと揺れ始める。


「ええと、地面を耕したら確か種を撒くんじゃよな……はて?」


 そこでわらわはある問題に気付く。


「どうしたのー?」


「いやのう、種のある野菜は分かるんじゃが、種のない野菜はどうすれば良いのかのう?」


「さぁー」


 そうなんじゃよね。よく考えると種を見た事のない野菜が多いんじゃよなぁ。

 ニンジンとか地面に埋まっておったのをまるごと食べておるし。

 そもそも葉野菜とかどこに種があるんじゃ?


「まぁ良い。とりあえず種がある奴だけ撒くとするか」


 わらわは適当にピーマンやトマト、ソラマメと言った種のある野菜を地面にバラまいてゆく。


「これで美味しい野菜になるのー?」


「うむ、しばし待つ必要があるが、数か月もすれば上手い野菜が出来るぞ!」


「わーい」


 収穫の時期を想像して毛玉スライム達が歓喜の声をあげる。

 うむ、そこまで喜んでもらえるとわらわも嬉しいぞ!


 ふぅ、一仕事して良い気分じゃ。


「種のない野菜は町で買えば良いとして、あと必要なものは家具などの少々値の張る品かの。まぁそれはマッドリザードの素材の代金で買えばよいか」


 はー、部下達もおらぬ故、仕事に追われずにのんびりできる生活は最高じゃのー。

 もしかして冒険者ってわらわの転職なのでは?


 尚、畑に種をばら撒いただけでは野菜は出来ないとわらわ達が知ってショックを受けるのはもう少し先の話じゃったりする……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る