第14話 魔王、部下と再会するのじゃ
襲撃者の正体、それはわらわの側近を務めておったメイド長、リーメイアであった。
「はぁぁぁぁぁ、一ヶ月ぶりの魔王様……」
わらわの腹に顔をうずめながら恍惚とした声をあげるリーメイア。
なんじゃろな、この異様な光景。
このリーメイアはわらわの身の回りの世話をするメイド長であり、古くからわらわに仕える側近でもあった。
文武両道であらゆる事に優れ、リーメイアに任せればまず問題ないと言うくらいの完璧魔人じゃ。
しかも優れているのは能力だけではなく、見た目も極上であった。
ノワールホークの如き漆黒の髪は最高級の魔法糸と見まごう程の艶やかさであまたの女達を嫉妬させ、その冷酷な美しさは男女問わず魅了する。あと胸がデカイ。凄くデカい。……嫉妬なぞしとらんよ?
ただこ奴には少々困った性癖があっての……うむ、何故かわらわに異常な執着を示しておるのじゃ。
それこそ自身も王を名乗る程の実力がある癖に、何故かいつもわらわを立てようとしおる。
魔族は人族と違い、同性で愛し合う者達も少なくない。
リーメイアもその類かと思ったのじゃが、本人曰く恋愛感情ではないらしい。
じゃあ一体なんなんじゃろうな、この行動は……
「もぞもぞ」
「……これ、そろそろ離れい」
わらわはいつまでもお腹を吸うリーメイアの頭をコツンと叩く。
「………………はっ」
するとたっぷり時間をかけてからようやくリーメイアはわらわから離れた。
「で、そなた何の用じゃ? 魔王城の仕事は良いのか?」
「私の仕事は魔王様のお世話ですので。それ以外の仕事などございません」
「いや魔王城のメイド達を統率する仕事があるじゃろ」
お主自分が魔王城のメイドである事を忘れておるじゃろ。
「それは副メイド長の雑事です。魔王様専属メイド長の私の仕事ではありません」
こ、こやつ、メイド長の仕事を雑事と言い切りおった!?
あとメイド長の業務を副メイド長に押し付けるな。副メイド長が泣くぞ。
「どのみちあそこはもうダメです。居残る意味もございません」
「んん? それはどういう意味じゃ?」
「どうもこうも、魔王様が居なくなった事で宰相が好き勝手し始めたんですよ」
「まぁそれは分かっておったことじゃからの」
わらわを排斥したらそうなるのは自明の理じゃしのー。
「それだけではなく、魔王様が居なくなった事で幹部達も独自の行動を始めました。名目上は宰相指示のもとに纏まっていますが、実質もう分裂状態ですよ」
「その辺りはヒルデガルドの手腕に期待したいところじゃな。なんだかんだ言ってあ奴、有能じゃし」
「無理でしょね。彼女の有能さは魔王様という頂点ありきのものです。魔王様が居たからこそ、魔王様が許可された政策に従っていたに過ぎません」
リーメイアはわらわが許したから幹部達は従っているのだと告げる。
いやー、流石にそこまで無能ではないと思うんじゃがのう。
「ですのでメイド達には暇を出し、私も城を出ました」
「いやいや勝手に首にされたらメイド達可哀そうじゃろ」
魔王城で働きたいと言う者もおったじゃろうに。
「ご安心を。その後で私が雇いなおしました。上司として沈むと分かっている船に残らせる訳にもいきませんからね」
「うーむ、それならまぁ良いか」
次の職場があるのならまぁよかろうて。
「それよりも魔王様ですよ! 何ですか勇者に封印されたって! 何がどうなったら魔王様がそんな出来の悪い冗談みたいなやられ方するんですか!?」
「出来の悪いとは酷いのう。実はじゃな……」
と、わらわは勇者との戦いで起こった事、さらにその後のヒルデガルドの謀反について説明する。
「……成る程、そのような事があったのですね。と言うかあの女、相手の魔力量の見極めも出来なかったのですか!?」
「うっかりしておったんじゃろうなぁ」
何せ千載一遇のチャンスと思ったことじゃろうし。
「そんな訳で久方ぶりの休暇を得る為にやられた振りをしておったんじゃよ」
「……はぁ。そういう事でしたか。人族も愚かならヒルデガルドも愚かですねぇ」
「けどそれなら何故わらわを攻撃してきたのじゃ?」
「それはアレです。私を一ヶ月も放置していた事への不服の現れと思ってください。お陰で私は一ヶ月も禁魔王様を強要されてしまったのですよ?」
禁わらわってなんじゃい。
「まぁお主ならわらわの攻撃を捌けたのも納得じゃわい」
「と言っても私程度では数分が限度ですけどね」
良いよるわい。
「それでいつ事魔王城にお戻りになられるので?」
「いや戻らんよ? わらわ魔王辞めたし」
「……は?」
わらわが魔王を辞めたと告げると、リーメイアがきょとんとする。
「わらわは魔王を引退したのじゃ」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!? どういう事ですかそれ!?」
「いやだって今の魔王国にはわらわ要らんもん。人族も長年の戦争で弱体化して勇者もあのザマじゃし。なにより国自体が一つにまとまって安定しておるからの。建国当初ならともなく、今はもうわらわがおらずとも国を維持する事は容易じゃよ」
わらわはどちらかと言うと戦時中に輝くタイプの武王じゃからのぅ。
「無理ですよ! あの女に幹部達を従えるカリスマと武力はありません! 魔王様の威光なくばあっという間に空中分解を起こしますよ!」
「それならそれでよかろう」
「はぁっ!?」
別に国が崩壊しても構わんと答えると、いよいよリーメイアが混乱の極みに至る。
「寧ろわらわという存在が長年にわたって君臨し続けた事の方がおかしいのじゃ。これを機にわらわは完全に引退し、陰ながら民を見守る事にするのじゃ」
皆にはこれを機にわらわが居なくても国を維持できるように頑張って貰わんとな。
まぁ次期魔王候補は何人か鍛えておったし、ヒルデガルドが駄目でも他の誰かが上手いことやってくれるじゃろうて。
「本心はなんですか?」
「もう魔王とか責任ある立場は嫌じゃー」
いやほんとコレに尽きるのじゃ。
元々魔王にもなりたくてなった訳ではないしのう。
「……分かりました。では私が魔王様のお世話を致します」
「いやこの流れでなぜそうなるのじゃ? お主も自由に生きればよかろうに」
好き好んでわらわなんぞの為に働く必要もあるまいに。
「私の自由は魔王様のお世話をする事です。それに魔王様を切らした生活なんて考えられませんから」
「何でそうもわらわの傍に居たがるのかのう」
「返品は受け付けませんよ。私は私の自由の為に魔王様のお傍に仕えるのですから」
リーメイアは梃子でも動かぬとばかりににんまりと笑みを浮かべる。
「ああもう、わかったわかった。ただしわらわの傍にいるつもりなら人族の振りをしておけ。わらわは冒険者として金を稼いでおるからの」
「承知しました。このような姿で如何でしょうか?」
リーメイアは変身魔法を使うと、ポンと人族の姿に変わった。
「うむ、それなら……って何でまたメイドなんじゃ?」
「魔王様のメイドですから」
……はぁ、もう好きにしたらええわい。
「……リンドじゃ。今の儂はリンド=ラーデじゃ」
「畏まりましたリンド様。私の事はメイア=リーとお呼びください」
「安直過ぎんかの?」
「魔王様も似たようなものでは?」
「違いない。ではお主の冒険者登録を終えたら買い物をしてわらわの島に戻るとするかの」
「島ですか?」
「うむ。わらわの新しい城じゃよ」
「それはお掃除が楽しみです」
「何で掃除なんじゃい?」
「魔王様の事ですから、掃除洗濯は雑に済ませていると確信しておりますので」
「嫌な信頼じゃのう」
「ところでお主、どうやってわらわの正体と居場所を探り当てたのじゃ?」
「わたしが個人的に雇っている密偵達に探させました」
「ほう、有能な密て……」
「やたらと派手な活躍をする幼い少女が居たら知らせる様にと」
「……何でそんな命令で見つけれるんじゃ」
「私の部下は優秀ですから」
「納得いかんのう……」
「では話もまとまった事ですし、魔王様、さっそくお着替えを致しましょう」
そう言って流れる様に無数の服を取り出すリーメイア。
「待て、なぜそうなる?」
「魔王様に一ヶ月お会いできなかった間に新しい衣装が溜まったのです。是非お着替えを。先ほどの接触でスタイルに変わりがない事は確認しておりますから」
さっき突進してきたのはそういう事か!?
くっ、そう言えばこ奴等メイド隊はやたらとわらわを着替えさせようとしておったわ!
ヒルデガルドが反旗を翻した時も新しい服を受け取りに出かけておったしのう。
「ふふふふふっ、我等メイド隊の渾身の作が揃っておりますよ!」
「そう言うのはあとにするのじゃー!」
◆
「と言う訳で今日から一緒に暮らすメイアじゃ。仲良くしてやってくれ」
島に帰って来たわらわ達は、さっそく毛玉スライム達にリーメイアを紹介する。
「メイアです。よろしくお願いします皆様」
「「「よろしくねー」」」
ペコリとお辞儀をするリーメイアに毛玉スライム達がプルプルと体を揺らしながら挨拶を返す。
ふむ、どうやら歓迎されておるようじゃの。
「特技はリンデ様のお世話全般です。今後料理と掃除とお風呂は私のしきりとさせて頂きます」
その言葉えお聞いた瞬間、毛玉スライム達の体が大きく膨れ上がり、右端から左端までウェーブを描くように体を動かしてゆく。
歓迎の踊りかなんかかの?
「わーい、ご飯が炭じゃないんだねー」
「わーい、ご飯が苦くないんだねー」
「救われたー」
……お主等、もしかしてわらわの食事に不満があったのか?
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