第8話 魔王、依頼を受けるのじゃ

「さて、どんな依頼があるかのう」


 無事冒険者になったわらわは、さっそく依頼を受けるべく依頼が張られたボードを見に行く。

 依頼ボードには様々な依頼が書かれた紙が貼られており、上位の依頼に行くほど数が減ってゆくのが分かった。

 まぁそうポンポンと上位冒険者の力が必要な依頼が出てきたら、人族もたまったものではないだろうしのう。

 同様に最下位の冒険者であるストーン級の依頼も少ないの。

 こちらは本当に子供のお使いの様な難易度の依頼しか無い故、その一個上のカッパーから増え始める感じじゃ。


「ふむ、ブロンズランクが一番仕事の種類が多いか。討伐が多いのもブロンズじゃな。一応わらわはアイアンランクの依頼まで受けれるんじゃったな」


 アイアンの依頼は難易度こそ違うもののブロンズとそう変わらんの。


「アイアンは護衛依頼や調査依頼増えてくるが、その分拘束期間が長いのう。あまり時間を取られとうないし、ブロンズランクの魔物討伐でもするかの」


 島に毛玉スライム達を残しておる故、早く帰れる依頼が良かろう。


「町からそう遠くない立地でそこそこ良い金になる依頼は……ふむ。おお、これなぞ良さそうじゃの」


 わらわはある魔物退治の依頼を選ぶと、依頼用紙を剥がして受付に持っていく。

 持っていくのはさっき手続きをした受付のおなごの所じゃ。


「あら、もう依頼を受けるの?」


「うむ。これを頼む」


 わらわは依頼用紙を受付のおなごに差し出す。

 受けたのはマッドリザードの討伐依頼じゃ。

 ちなみにマッドは沼ではなくヤバイ奴のと言う方のマッドじゃ。

 目についた相手を手当たり次第に襲う魔物で、各上の相手でも関係なしに挑む故、民草だけでなく騎士や冒険者からも面倒な相手とされておる。


 わらわから見ればこちらの実力を察しても逃げることなく向かってくるので魔力や気配を隠さずに済むから楽なんじゃよね。

 大抵の魔物は自分よりも強い者を本能で察して逃げるからのう。

 逃げないのは本物の実力者か相手の強さを図れぬ未熟者。もしくはこのマッドリザードみたいな誰彼関係なしに襲ってくると言う魔物なのじゃよ。


「これは……貴方の実力なら問題ないでしょうけど、その後が大変よ? この討伐依頼は倒した魔物の討伐照明部位を採取するだけでなく、まるごと持ち帰る必要があるのよ?」


 うむ、それもまたこの依頼を受けた理由であった。

 何せ解体する手間が省けるからの。


「問題ない。魔物を狩った後の事もちゃんと考えてある」


「ポーターでの雇うつもりなの?なら良いんだけど」


「ポーター?」


 聞き覚えのない言葉に首を傾げると、受付のおなごもまた首を傾げる。


「あれ? 違うの? ポーターってのは荷物持ちをしてくれる人の事よ。冒険に必要な荷物や狩った獲物を運んでくれるの。荷物を運ぶだけだから戦闘は出来ないし、怪我をしたら荷物を運んでもらえないから雇う側が守る必要があるわ。自分の身を守れるだけの実力を持ったポーターも居るけど、それだけの実力者は数が少ないから雇うには高くなるわね」


 まぁ自分の身を守れるなら本人が冒険者になった方が稼げるからのう。


「成る程、個人の補給部隊のようなものか。まぁそんなところじゃ」


「オッケー、それじゃあ依頼を受領するわ。さっきの説明でも言ったけど、一度依頼を受けたら違約金を支払わないといけないから注意してね。でも命を失ったら元も子もないから最悪の場合は違約金を支払ってでも命を守るのよ」


「うむ、承知したのじゃ」


 ふむふむ、失敗しても良いから命を守れとは、中々に情の厚いおなごじゃの。

 門番達といい、この町の人間は中々に暖かいのじゃ。


「そうそう、余裕があったら薬草なんかも採取しておくと良いわ。常設依頼だから依頼を受けなくてもお金になるし、万が一の場合は違約金代になるから」


 成程、薬草採取とは新人の金稼ぎだけでなく、そういった使い道もあるのじゃな。


「助言かたじけない。それでは行ってくるぞ」


「マッドリザード達の生息地は隠れる場所が少ないから気を付けてねー!」


 ◆


 地図に書かれていたマッドリザードの生息地の傍にやってきたわらわは、そこで一旦足を止めた。


「さて、そろそろ出てきたらどうじゃ?」


 振り向くことなく声をかけると、舌打ちする音と共に足音が生まれる。


「ちっ、気付いていたのか」


「それだけ殺気をまき散らされれば気付くなと言う方が無理と言うものじゃ」


 振り向いた先に居たのは、先ほど試験で戦った冒険者グラントの息子、ロレンツの姿があった。

 こやつわらわが依頼を見繕っておった時からずっと視線を向けてきとったからのう。

 ただ、その時も町から付けてくる時も、気配を消すのが下手過ぎじゃ。

 これでは獲物に見つからぬように狩りをするのは難しいんでないかのう?


「何じゃ? 父親の面子を潰された恨みでわらわを始末しに来たのか?」


 めっちゃわらわの事睨んでおったしな。


「ば、馬鹿を言うな! そんなことするわけないだろ! 負けた腹いせに殺す奴なんて居ないよ!!」


 いやー、そんな事はないぞー。人族にもそういう結構短絡的は割とそういう連中が多いからのぅ。

 寧ろ権力者にこそ、そういった傾向が強いのじゃよ少年。


「ではどうするのじゃ?」


「勝負だ!」


「ほう?」


 以外にもロレンツの目的はわらわとの決闘じゃった。


「お前も冒険者なんだ。挑まれた勝負から逃げる様な真似はしないよな?」


 ふむ、これは面白いのう。

 どうやらロレンツの狙いはわらわが初依頼を失敗する事で、父親の敗北はこちらの運が良かっただけだと周りに認識させる事にあると見た。


「ほっほっほっ、父親が大好きなんじゃのう」


「なっ!? そ、そんなんじゃない!!」


 愛い奴愛い奴。そんなパパ大好きっ子にはこちらも応えてやりたくなるわい。


「よかろう、その勝負受けてやる」


「そ、そうか……じゃない! ふっ、そうこなくてはな!」


 カッコつけ直すあたり若いのう。


「お前が受けた依頼はマッドリザードの討伐だろう? ならどちらが先に必要討伐数を狩り終えるかで勝負だ。僕が狩ったらお前は依頼失敗をギルドに報告してもらう。代わりにお前が勝ったら僕が狩った分はお前にやろう」


 成程、わらわが勝ったら依頼を達成するだけでなくただで素材も手に入るという事か。

 じゃがそれだけでは足りんの。


「もう一つ条件を追加じゃ。わらわが勝ったらもう二度とわらわに突っかかるでないぞ」


「何だとっ!?」


「そちらから一方的に挑んで来たんじゃから当然じゃろ。それにこちらは別に挑戦を受けなくても良いのじゃぞ?」


 そうなんじゃよね。別にわらわとしては受けるメリットが無いからの。

 はっきり約束させておかんと今後も突っかかってこられては堪らんのじゃ。


「……分かった」


 ちょっとだけ不満げな視線を見せたものの、ロレンツは渋々わらわの要求を受け入れる。

 くくくっ、あっさり受け入れおったわ。やはりまだ若いのう。


 となると後はルールの確認じゃな。


「のう、どうやって先に狩ったと証明するのじゃ?」


 勝負はマッドリザードを先に討伐した方が勝ちというのはよい。

 じゃが広い森の中をやみくもに探してはどちらが先に勝利条件を満たしたのかを確認する事は出来ん。

 魔法使いでない人族は通信魔法も使えんしのう。


「これを使う」


 そう言ってロレンツが取り出したのは、小さな4つの石じゃった。

 石はひし形の八面体の形状をしており、それぞれの面に魔術文字が刻まれておった。


「ふむ、結界石か」


 それは結界石と呼ばれるもので、地面の四方に石を突き刺す事で内部に敵が入れなくなるという防衛用の魔道具じゃった。


「そうだ。獲物を狩ったらここに運べばいい。先に規定数を運び込んだ方が勝ちだ」


 成程、結界の中にしまっておけば盗まれる心配も他の魔物に食われる心配もないのう。


「パーティメンバーの証のコインを持っている者だけが入れるようになっている。特別にお前にも貸してやろう」


「おお、すまんの」


 ふむ、無差別に拒絶するわけではなく、鍵を持っている者が入れる仕組みか。

 なかなか良い物を持っておるではないか。


「というかコレ、グラントに内緒で勝手に持ってきたんじゃなかろうな?」


「…………」


「返事せんか」


 図星かい。子供じゃのう。


「……ち、ちゃんと返すし僕もパーティの一員だから持っていても問題ない!」


 まぁ叱られるのはロレンツじゃし、良いんじゃけどね。


「まぁよかろう。ギルドから依頼された必要討伐数は10体じゃ」


「なら先に10体討伐した方の勝利だ」


「うむ」


 わらわはロレンツが投げてよこした結界のカギを受け取る。


「では……勝負だ!」


 勝負開始の合図と共に、わらわ達はマッドリザード達の生息地へと飛び込んだ。

 さぁーて、それでは冒険の始まりじゃ!

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