第6話 魔王、人族の町に来たのじゃ

 足りない物資を手に入れる為、わらわははるばる海を越えて人族の大陸へとやって来た。


「つっても、転移魔法で一瞬なんじゃがな」


 転移魔法は一度行った事のある場所へと一瞬で行ける魔法じゃ。

 移動距離や運ぶ人数、荷物の多さで消費する魔力が膨大になるが、わらわの魔力なら世界の果てまで転移する事も容易いのじゃ。

 この辺りは人族の領域であるが、過去の戦いで来た事がある故転移が出来たのは幸いじゃな。


「ええと、確か人族の町は……おお、あったあった。それでは必要な物資の買い出しをするかの」


 飛行魔法で人族の町の位置を確認したわらわは、さっそく町に向かおうとしてある事に気付く。


「おっといかんいかん、このままだと人族に攻撃されてしまうわ」


 魔王を辞めたと言えわらわは魔族じゃからな。

 と言う訳で変身魔法を使って人間に化ける事にする。


「これでよしっと」


 人族に化けたわらわから、角と羽根が消え、髪の色も人族に近い色合いに変化する。

 ただこの魔法、一つだけドデカい欠点があるんじゃよなぁ。というのも……

 

「この魔法、何で大人の姿にはなれんのじゃろうなぁ」


 そうなのじゃ。この魔法は何故か元の姿に近しいサイズにしかなれないと言う欠点があったのじゃった。

 その所為で小さい体の者が体格の良い者に変身する事は出来ず、わらわは本来の年齢相応の姿に変身する事が出来ぬのじゃ。

 この魔法、滅茶苦茶術としての完成度が高く、まず変身した事がバレる事はないんじゃが、無理に身長を伸ばそうとすると一気に魔法の精度が下がってしまうんじゃよなぁ。


「ううむ、口惜しいのぅ」


 お陰でこの見た目を変えれず、色々面倒事が多かったんじゃよね、魔王時代のわらわ。

 ともあれ人族に化ける事は出来た故、わらわは人族の町に向かう。

 

「ん? 子供か? 親はどうした」


 町の入り口にやってくると、門番がわらわに声をかけて来た。


「わらわは大人じゃ。親などとっくに墓の中じゃよ」


 わらわ見た目の割に長生きじゃからの。


「そ、そうか……頑張ってるんだな」


 しかしわらわの見た目の所為で門番はわらわが親と死に別れた孤児だと勘違いしたらしい。

 良いんじゃよ、勘違いされるのは慣れておるからの。

 まぁそれを馬鹿にした奴等はブチのめしたがの。


「町に入るには銅貨5枚が必要だが払えるか?」


「うむ、ちゃんとあるぞ」


 わらわは人族の貨幣を取り出して門番に渡す。

 わらわも魔王になる前は色々やっておったからの。人族の貨幣も多少は持っておるのじゃ。

 まぁそこまで多くは持っておらんゆえ、稼いでおかんとのう。


「ん? なんだこりゃ? 見たことない貨幣だな?」


「なんじゃと? ちゃんと人族の国の貨幣じゃぞ?」


はて、どういう事じゃ?

確かにこれは人族の貨幣なんじゃが。

 門番が悩んでいると、もう一人門番がやって来た。


「どうした? 何かあったのか?」


「た、隊長それが、この子供が見た事のない貨幣を持ってきまして」


「ふむ、見せて見ろ」


 隊長と呼ばれた男がわらわの貨幣を見る。


「ああ、これは古い国の貨幣だな。国自体はもうとっくの昔に滅んだが、使えない事はないぞ」


「おお、それは良かった」


 というかあの国滅んどったんじゃの。人族の国はポコポコ滅ぶのう。


「しかしこんなものどこで手に入れたんだ?」


「あ~、困ったら使えと親が遺してくれたんじゃよ」


「……そうか」


 隊長は先ほどの門番と同じような沈痛そうな顔を浮かべる。

 ごめんのぅ、ホントはわらわの親が死んだの数千年前なんじゃよー。


「この貨幣を使う分には問題ない。ただ、価値を知っている蒐集家に売った方が良い金になるぞ」


「ほう、そうなのじゃな。しかしわらわはそういったツテが無いので暫くは使わんでおくとしよう。となるとのう、この町でわらわが金を稼ぐ方法はあるかの?」


 どうやらこの貨幣は使わぬほうが良さそうじゃし、やはり仕事を探すとするかのう。


「そうだな……外から来た子供が店で働くにはツテが無いとなぁ」


「だったら冒険者になったらどうだ?」


 と隊長が冒険者になる事を進めて来た。


「冒険者?」


 たしかアレじゃな。魔物退治やら探索やらをする仕事じゃ。

 危険が多いが一獲千金が出来る事と拗ねに傷を持つ者でも就ける仕事として魔族の間でもそれなりに需要のある仕事じゃよ。


「ああ、危険だが子供でもなれる仕事だ。といってもお前くらいの子供が出来るのは薬草採取とか町の掃除くらいだろうけどな」


 人族の国じゃと生活に困窮した子供の救済措置でもあるようじゃな。

 魔族の子供は大抵自力で肉を狩れるから食うに困る事はないんじゃよね。


「ふむ、では冒険者になるとしよう。どこに行けば冒険者の仕事を受けれるのじゃ?」


 わらわとしても素性を探られない冒険者はうってつけじゃ。


「町に入ってそのまま進むとブーツのマークが書かれた看板がある。そこが冒険者ギルドだ。受付で冒険者登録をすれば色々教えて貰えるぞ」


「分かったのじゃ。感謝する」


「おう、頑張れよ」


「気をつけてな」


 無事町に入ったわらわは、さっそく冒険者ギルドに向かう。

 町の中を少し歩くと、門番達の言った通り直ぐにブーツのマークが書かれた看板が見つかった。

 このあたり文字が読めぬ者の為の措置じゃの。


「ふむ、ここが冒険者ギルドか。実際に入るのは初めてじゃな」


 冒険者ギルドの扉を開いて中に入ると、視線が集まってきた。

 見慣れぬ者への警戒と値踏みといったところか。

 じゃがわらわの見た目が幼いと分かると、すぐに視線は雲散霧消する……いや、まだ何人かはわらわを見ておるな。

 まぁ別に構うまいて。


「あら、可愛らしいお客様ね。冒険者ギルドにようこそ。ご用は何かしら?」


 受付はどこかと周囲を見回していたら、胸の大きい人族の女がわらわに声をかけて来た。

……羨ましくなどないぞ? ホントじゃぞ?


「うむ、冒険者になりに来た」


 わらわは気を取り直すと人族の女に冒険者になる旨を伝える。


「はいはい、冒険者登録ね。お父さんかお母さんは居るかしら?」


「おらぬ」


「……そう」


 やはりこの女も門番達と同じような顔になる。

 この町の人族は随分と情が深いのう。

 過去に出会った人族にはわらわをただの子供と勘違いして売り飛ばそうとしたもんじゃが。


「じゃあ登録をするからこっちに来てね」


 受付らしき場所に連れてこられると、人族の女は反対側に立ってこう言った。


「冒険者ギルドにようこそ」


 なんと、こやつギルドの職員じゃったか。気配が強い故、休暇中の冒険者かと思っておったのじゃが。


「では説明をさせて頂きますね。冒険者への登録料は無料です。ただし最初の依頼を達成した際の報酬から冒険者カードの代金が天引きされます」


「ふむ」


 登録料を支払えぬ子供もおるじゃろうからありがたい事じゃな。

 報酬から天引きされるのなら踏み倒しも出来ぬしのう。


「貴方のお名前を教えて貰えるかしら?」


「ラ……リンドじゃ。リンド=ソーダ」


 いかんいかん、本名を名乗ってはわらわの素性がバレ……ないにしても魔王と同じ名前とあってはいらぬ疑いを招きかねん。

 とりあえずは適当に短くした名前を名乗るとするかの。


「苗字……あ、いえ。リンドちゃんね。それじゃあこれから試験があるからそれを受けて貰うわ」


「ほう、試験とな?」


 ふむ、面白くなってきたのう。

 いったいどんな試験を行うのやら。

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