応酬


 ……先程の録音、聞かせてくれてありがとうございます。母を殺した犯人の声と、その犯行の理由と方法を、知ることが出来ました。

 母があんな殺し方をされたのに、全く犯人に繋がるものが見つからなかったのは、呪い殺されていたせいだったんですね。私も、先程の録音を聴くまで、半信半疑でした。


 色々調べましたよ。警察も一生懸命だったとは思いますが、普通に、我が家に入ってきて母を襲ったとしか考えていませんからね。言い方は悪いですが、頭が固かったんです。

 私は、もっと超常的な、ありえない殺し方だったのかもしれないと、幅広く当たっていきました。候補の一つは呪いだったのですが、どんな本を捲ってみても、母が殺された方法は出てきませんでしたから。


 先生の元に来たのは、呪いの専門家だったら、何か知っているのかもしれないと、藁にも縋る思いからです。それがまさかの正解だったので、驚きました……母が、導いてくれたのかもしれませんね。

 ……あ、そう言うのは信じていないのですか。ちょっと意外ですね。……大丈夫です。詳しい話は、長くなりそうですので。


 もう一つ、先生に確認したいことがあります。録音では、彼は先生に、呪いを跳ね返す術をかけてほしいと頼んでいましたね? それは今も行っていますか?

 ああ、やっぱりやっていますか。いえ、それを解除してほしいとは言いません。先生にメリットがありませんからね。それに、先生が彼の頼みを聞いたのは、自分の術を試したかったからでしょ?


 私、彼のことを赦せません。母は、とても優しい人だったんです。学生時代にそんないじめをしていたとは信じられないくらいに。ああ、でも、彼の話は疑っていませんよ。そうでないと、あんなふうに呪いを完遂できるとは思えないので。

 ただ、彼が恨んでいるのは、学生時代の母です。立ち向かうのには、遅すぎたんです。今の母に仕返しを果たしたって、意味はありません。今の自分が母のせいなんて、逆恨みも甚だしいですよ。


 結局、彼が見ているのは学生時代の母だけなんです。それに、どれほど恨もうとも、私から母を奪っていい理由にはならないんです。

 以上から、私にも彼を呪う権利はあるはずです。だから、私は彼のことを、何年もかけて、全身全霊をかけて呪います。どんな手を使っても。


 ああ、先生は呪いを返す術を解除しなくても良いですよ。ここに来たのは、本当に母が呪い殺されたのか、もしそうだったら、その相手が誰なのかを確認するためでしたから。

 私の強い恨みのこもった呪いと、先生の呪いを返す術、どちらが強いか、勝負しませんか? そちらの方が、先生もそそられますよね?

























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