差異


 さっきの電話? 間違い電話。最近多いんだよね。

 私の携帯番号と近いだけじゃなくて、名前も似ているみたいで。「もしもし、〇田さんですか?」って聞かれるの。私は〇井だから、一文字違いで。


 大体は、電話を取ったら間違いだとわかって、すぐに「すみません」って言われて切られるんだけど、たまに、留守番電話にメッセージが残っていることもあってね。それが結構気になる内容なのよ。

 「○田先生、お疲れ様です」っていうような内容で始まっていたり。私に間違えられている人、「先生」って呼ばれる立場なんだぁって思ってね。まあ、「先生」って呼ばれる仕事だったら、教師とか、医者とか、弁護士とか、色々思いつくけど、そうじゃないみたいなんだよね。


 「○田さん、マネージャーの何とかです」っていうような電話がかかってきたり、「打ち合わせはいついつがいいですか?」って言ってきたり、極めつけは、「先生! 今回の新譜も最高でしたよ!」と褒められたり……。

 私が、今の仕事に就く前、ほんの数年だけど、音楽活動していたのは知っているでしょ? 本気で頑張っていたのに、メジャーデビューできなくて……。だから、○田さんって人が羨ましくってね。


 でも、○田ってミュージシャン、聞いたことないよね。私も検索したけれど、それらしい人はヒットしない。でも、留守電の中に、「アリーナでのライブの件ですが……」って内容のものもあってね、アリーナでライブするようなミュージシャンが、ネット上に出てこないって、ありえないでしょ。

 だから、もしかしたら、この〇田さんって、実はパラレルワールドの私じゃないかなって思うようになっている。電話の混線みたいに、たまたまつながっちゃった、みたいな。こっちの方がありえないか。


 でもね、深く考えれば考えるほど、ドツボにハマったみたいに、妄想が止まらなくなるんだよね。何が私と〇田さんの違いは何だろうって。どこが分かれ道だったんだろうって。

 苗字が違うから、環境? 姓名判断的なもので、運? 生まれた時の才能の違い?  それらだったらまだいいけれど、努力の量が理由だったら、嫉妬で狂ってしまいそうになるね。





























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る