蜘蛛ノ巣短奇譚

渦中

　毎日毎日、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。

　ベルコンベアで流されるような一日が続くよなぁ。工場なだけに。

　流されてくる部品を組み立てて、別のレーンにおいて、また新しい部品を組み立てて、別のレーンに流してって、何時間もそんなの繰り返しで、どうにかなりそうだよ、ほんとに。

　いやさ、俺も入ってきたばかりの頃は、目ぇキラキラさせて、みんなのために素晴らしいものを作るぞ！　って意気込んでたよ？　そんなの十年以上続けて見ろよ、ほら、こんな淀んだ目になってるし。

　なんかもう、毎日が平日な気がして来るわ。うちの工場、ちゃんと労基は守っているはずなんだけどな。最後に休んだのが、もう何ヶ月も昔のように感じる。

　ま、平日って言っても、やることは昼間にビール開けて、うちの窓に腰かけてさ、河川敷からの風を浴びることぐらいだけどな。ただ、天国みたいに気持ちいいのよ、これが。

　……ああ、確かに、最近暑いから、休日でもそんなことしたら倒れるかもな。いや、クーラーキンキンの部屋で一杯も最高よ？　結局呑めればオールオッケイ。

　けど、暑い日も、ほんと続くよな。先月から毎日最高気温じゃねぇ？　秋なんて、永遠に来ない気もしてくるし。

　こうやって、喫煙所での一服が、清涼剤だわ。ここも半分外みたいなもんだから、ちょい暑いけどな。事務所からひんやりした空気が流れてくるだけ儲けもん。

　家に帰ってからは、すぐに倒れるように寝ているからな。疲れて。最近残業多くないか？　ちょっと異常だよな。そうでもない？

　可哀そうに、まだ若いのに社畜根性が染みついちゃって。もう取れねぇぞ、ご愁傷さま。

　え？　昨日は定時だった？　嘘つけよ。昨日も一昨日も、その前も、残業だったぞ。

　……ふーん。昨日帰った後にしたんだ。良かったな。いいよな、デート。俺何年していないんだろ。

　それで、彼女とどこ行ったの？　あ、待って、当てる。チーズ専門店だろ、ワインも飲める。で、◇◇ってとこの、＊＊＊＊＊＊＊って名前。正解？

　いや、初聞き。俺がそんな小洒落た店、知っているわけねぇじゃん。デートも合コンも、せいぜい高級居酒屋止まりの男だぞ。

　あれ？　でもなんで名前知ってんだろ。前に話してた？　あ、お前も昨日彼女に教えてもらったんだ。じゃあ違うか。　

　さあ。多分、テレビか雑誌で紹介されたのを見たんじゃねぇの？　そんな気にすんなって。

　で？　彼女とのデート、どうだったの？　失敗だったんだろ。どうせ、苦手なくせにブルーチーズ食って、途中で吐いて。

　あはは。図星か。カッコつけようとしたのに、だっせぇのなんの。見捨ててくれない彼女に感謝だな。

　え？　いや、前も同じことしただろ。話したの、覚えてるぞ。あ、違う？　じゃあ、別の奴の話だったのかな。年取ると、記憶が曖昧になって敵わねぇな。

　……っと、そろそろ作業場に戻るか。ん？　ああ、休憩時間、あと五分残っているけどな。俺だって名残惜しいよ。

　ただ、社長が来るんだよ、これから。抜き打ちで、工場長にも内緒でな。お前も知っていると思うけど、社長は時間にうるせぇからな。五分前行動しないと。

　いや、昨日も来てただろ。抜き打ちで。一昨日と同じ話をしていてな、「えー、わが社の方針は……」なんて、長ったらしく話して。お前、俺の隣であくび嚙み殺してたよな？

　初対面？　社長と？　そんなわけあるか。お前も俺も、毎日毎日、社長とここで会っているぞ。何ヶ月も何ヶ月も。ずっとずっと。

　……なんだよ、不思議そうな顔して。俺、なんか変なこと言ったか？

　あっ、と。そんなこと言い合っている場合じゃねぇな。早く戻るぞ。また、退屈な毎日の続きだ。