廃仏
うちの寺、泥棒に入ったことがあんの、知ってる?
と言っても、祖父さんの時代、戦後間もないくらいの時だったんけどな。
当時、寺の住職だった祖父さんの父親はなんか、葬式に行っていて、祖父さんとその兄弟は、学校に行っている隙だったらしいよ。
母親? は、すでに亡くなっていたらしい。
で、その泥棒、かなり節操がなかったんだよな。金目のものはもちろん、服とか喰いもんとかも盗られたって。
その中に、うちの仏像も入ってたらしい。
そう、信じられないよな、あんなにデカいもん、どうやって持っていったのかって。警察の話じゃ、複数犯だったぽいらしいが。
なんというかまあ、恐れ知らずというのか、根性があるというのか……。
最初に、盗みの被害を見たのは、学校から帰ってきた祖父さんだったらしい。
家がもぬけの殻になっちまってたから、文字通り、腰抜かしたとか。
ただ、仏像が盗まれていたのには、ほっとしたっていうのが、正直な気持ちだったって。
まあ、それも、ぬか喜びだったんだが。
帰って来たんだよ。仏像だけが。
警察が発見したわけじゃない。盗まれてから三日目、朝起きて仏間に行くと、当然のように鎮座していたとか。
――実は、この仏像、大分曰く付きでな。曰く付きの仏像って言うのも、変な話なんだが。
うちの先祖が平安時代の盗賊で、人を殺しまくっていたから、仏門に帰依した時に、まず供養として彫ったのがあの仏像なんだとか。
そんな由来があるからなのか、祖父さんはその仏像を不気味に思っていたんだ。
だけど、戻ってきただろ? あれ見て、自分の先祖の罪は、まだ許されていないのかって気分になったってさ。
……そうなんだよ。親父の代で、うちの寺、閉めることになるからな。
あの仏像を手放した後に、どうなるかで、この先の自分の身の振り方も、決まるような気がするんだよな。
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