第15話 ……俺がてめえらより強かったら、何だってんだ?
「あ?」
「なんだこの陰キャ、てめえが言ったのか?」
「おいおい、この人数相手に何強がってんだ?」
「てめえは黙って、このお姉さんを俺らに献上すりゃいいんだよ」
「ったく、身の程が分かってねえなあ」
龍馬の発言に、その場の空気が変わったにも関わらず…
龍馬と凛花を取り囲み、凛花を無理やり連れて行こうとする不良達は、まるで自分達が天下を取っているかのような立ち振る舞いで、言いたいことを言い続ける。
十数人以上の集団で逃げ場もないほどに、たった二人である龍馬達を取り囲み、自分達の欲望のはけ口として極上の獲物である凛花を狙い定める。
そんな状況に追い込まれながらも、当の龍馬は淡々としており…
まるで意に介した様子は見られない。
「おいこら、何底辺の陰キャが俺らに逆らおうとかしてんだ?」
「いくらなんでもこの人数に囲まれてんだぜ?」
「フクロになんか、されたかねえだろ?」
「おら、とっととこのてめえには絶対に不釣り合いな美人置いて、どっか行けっての」
「それだけでてめえは助かるんだから、安いもんだろが?ああ?」
自分達が圧倒的優位な状況でいることを疑わず、ただただ強気に龍馬に脅しをかけていく。
そして、再び龍馬にしがみついて怯えている凛花に、その手を伸ばしていく。
「!!あ…」
ところが、龍馬はそんな凛花を見捨てて逃げるどころか、逆に凛花が不良達に触れられないようにと…
自分の方へと抱き込んで、手を出させないようにしてしまう。
龍馬のそんな行動に、凛花は一瞬呆気にとられたものの…
すぐに龍馬に護られているという安心感が芽生えてきたのか、龍馬にその両腕を絡ませて、ぎゅうっと抱き着いてしまう。
「てめえ…なんのつもりだ?」
「そんなに俺らにフクロにされてえのか?」
「女の前だからってカッコつけてえとか、そういうやつか?」
「今の世の中、そんなのバカがすることなんだよ」
「いいから俺らにその女、よこせっつってんだろが」
龍馬が抵抗の意思を見せたことにより、不良達の怒気が強くなっていく。
もうすでに一触即発の状況となり、不良達は今にも龍馬に殴りかかっていく姿勢を取っている。
「……頭沸いてんのか?てめえら」
「!!な、なんだと!?」
「……二人とか三人とか、そのくらいの人数で女一人に絡んでくる奴はよく見かけたが…まさか十人以上もいなけりゃ女一人に声かけることもできねえ腑抜けとはな」
「!!て、てめえ!!」
「誰に言ってんのか、分かってんのか!!??ああ!!??」
「……その首から上に付いてるもんの中身、まるで使う気がねえんだな」
「!!こ、このガキ!!」
「!!な、何舐めたクチ聞いてんだこらあ!!??」
「……てめえらこそ、こんな寄ってたかってみてえなマネしなけりゃ、その粋がった態度見せることすらできねえんだろ?舐めたクチ聞いてんじゃねえよ、カス共が」
「!!も、もう許さねえ!!」
「てめえは俺らを怒らせちまった!!」
「ぜってえフクロにしてやっからなあ!!」
挑発とか、煽りとかそんな目的はなく、ただ淡々と思ったことを言葉にしているだけの龍馬。
そんな龍馬の言葉に、不良達は当然ながら激昂してしまう。
「……この女は、俺にとって必要な相棒だ。てめえらなんぞに渡す気なんざ、これっぽっちもねえ」
「!!……」
口調こそぶっきらぼうだが、その凛花を護ろうとする明らかな意思表示の言葉。
それを聞いて、凛花は心がざわつくのを感じてしまう。
「美人の前だからって、カッコつけやがってえ!!」
そんな龍馬の言葉が、ついに喧嘩の火蓋を切ってしまう。
不良の一人が、その右拳を龍馬に叩きつけんばかりに振り回していく。
が――――
「え、え?」
龍馬の左頬を狙って繰り出していった右の手首が、龍馬の左手に軽々と掴まれ、止められてしまう。
避ける様子も見せずにあっさりと自分の拳を止められたことに、殴りかかった不良は呆気にとられた表情を浮かべ、声を上げてしまう。
「……なんだ、これ。てめえこれで殴り掛かったつもりか?」
「え?え?な、何を…」
「……話にもならねえ。よくこんな弱さで人に喧嘩売ろうとか…それもあんな天下取ったような態度取るとか、できたもんだな」
ここ最近は、かなり屈強な男とばかりやりあっていただけに、この不良の一撃は龍馬からすればあくびが出るほど遅く、ハエも止まりそうなほどに威力も弱かった。
しかも、掴んだ手首も決して鍛えているようなものではなく、一人一人は特別喧嘩もしたことがないほど弱い奴らだと、龍馬は半ばあきれてしまう。
「!!び、びくともしねえ!!こ、こんなに力入れてるのに!!」
龍馬に腕を掴まれた不良は慌てて、龍馬の手の拘束から逃れようとするのだが…
岩にでも固められてしまったかのようにびくともしない龍馬の剛力に、だんだん恐怖の方が勝ってしまう。
両手を使って懸命に振りほどこうとしているのに、それすら無駄と言わんばかりにびくともしない龍馬の左手。
じょじょに、じょじょに…
目の前の、自分達が底辺の陰キャだと蔑んだ相手が、決して喧嘩を売るどころか、逆らうことすら許されない存在であると言うことに、気づき始める。
「……なんだ、てめえ」
「!!ひ、ひっ!!」
「……これで全力のつもりか?俺はまだ、綿毛でもつまむくらいの力しか、入れてねえんだぞ?」
「!!そ、そんな…」
「……話にならねえ」
完全に戦意を失ってしまった不良の一人に対し、心底呆れかえったことを示す台詞を吐き捨ててしまう龍馬。
そして―――――
「!!ぎゃ、ぎゃああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」
ほとんど力を込めていなかった左手に、瞬間的にその剛力を加え…
掴んでいた不良の手首を、一瞬にして握りつぶしてしまう。
へし折る、なんて生易しいものではなく、粉々にその手首の骨を握りつぶされてしまった不良から、絶叫の声が激しく響いてしまう。
「……うるせえんだよ」
「!!ぐあっ!!!!!!!…………」
そのつんざくような悲鳴が耳障りだった龍馬は、まるで虫けらを踏み潰すかのような無慈悲さで、手首の骨を粉々に砕かれてのたうち回っている不良の頭を踏み潰してしまう。
アスファルトの地面にひびが入るほどの力で頭を踏みつけられた不良は、そのまま動かなくなってしまう。
「は、はあ?」
「な、なんだこれ?」
「お、おい…こんなの聞いてねえぞ?」
なす術もなく、一方的に、無慈悲に仲間が蹂躙されてしまう光景を見て、不良達の背筋に氷でも落とされたかのような恐怖が走ってくる。
龍馬に踏みつけられて、ぴくりとも動かなくなってしまった仲間の姿に、龍馬への恐怖がその心を闇に染められてしまうかのごとくに浸食していく。
「……数で勝負、なんてのはな。裏を返せば一人一人が弱いからそうするしかねえ、ってことなんだよ」
「!!……」
「……だがな…しょせん髪の毛ほどの貧弱な矢がどんだけ束になってもしょせん貧弱…」
「!!あ……」
「……てめえらみてえなクソ雑魚が何千、何万束になろうが、俺の敵にもならねえよ」
その一言が、不良達の心を恐怖一色に染め上げてしまう。
ここにきて、不良達はようやく気付くこととなる
――――目の前の男は、自分達なんかでは決して逆らうことすら許されない、遥か上の存在だと言うことに――――
「……ふん」
「!!あああ、あぐううううっ!!!!!!」
龍馬の右手が、不良の一人の顔を鷲掴みにし、軽々と持ち上げる。
頭蓋骨を粉々に粉砕されそうなほどの凄まじい圧力に、不良は激痛から来る絶叫の悲鳴を上げてしまう。
「……うるせえよ」
「ひっ、ひぎゃああああああああっ!!!!!」
「お、おい…ぐはあああああああっ!!!!!!」
「や、やめ、ぎゃああああああっ!!!!!!」
さらには、自身が掴み上げた不良を、無造作にごみを投げ捨てるかのように…
軽々と、それでいて勢いよく、恐怖に身体を縛られている不良達へと投げつける。
龍馬の人外級の剛力から、人の身体を勢いよく投げつけられたことで…
投げられた不良はもちろんのこと、それをぶつけられた不良達も強烈な打撲を負い、その意識を手放してしまう。
「あ…ああ……」
「な…なんなんだよ…こいつ…」
「こ、こんな化け物なんて…」
「じょ、冗談じゃねえよ…」
元々、自分達より弱い者を、数の暴力で虐げてきただけの不良達。
それゆえ、元々それほどでもない身体能力を鍛えることさえしてこなかった。
だから、自分達よりも明らかに強そうな人種は避け、相手を選んで暴力をふるってきた、そんな姑息な連中。
今、自分達を数の差を物ともせず、圧倒的な力でねじ伏せにかかってくる…
ぱっと見運動不足な陰キャのような男が、自分達が思わず舌なめずりをしてしまうほどの美女を連れていたことで、因縁をつけて美女を奪い取ってしまおうともくろんだのだが…
まさか、これほどの強者だとは思いもしなかった。
次は自分達が、すでにねじ伏せられた仲間達のようにされてしまうかも…
そう思うだけで、心臓を鷲掴みにされているかのような、凄まじい恐怖が全身を駆け巡ってしまう。
そして、その恐怖が自分達に自由な行動をさせてくれない。
不良達は、もはや戦意どころか逃亡の意思すら、粉々に粉砕されてしまっている。
何をしても全てその純粋で圧倒的な力で、ねじ伏せられてしまう。
その事実が、彼らの心を完全に、へし折ってしまっていた。
「……てめえら、この程度で俺と殺し合いをしようとか…馬鹿にしてんのか?」
もうすでに、龍馬は相手を殲滅することしか頭になく…
目の前の敵を屠ってやろうと、物理的な圧力すら感じさせる…
そして、身も心も凍り付いてしまいそうな程の凍てつく殺意をむき出しにしてしまっている。
しかも、言葉通り何千何万束になろうが一方的にねじ伏せられると確信している…
龍馬にとっては文字通りの雑魚でしかない連中が、半端に因縁をつけてきたあげく、少し力を見せただけで完全に戦意を失っている姿を見て、その怒りをあらわにしてしまっている。
「!!ち、違うんです!!」
「あ、あんたがこんなに強いだなんて…」
「お、俺ら殺し合いだなんて…」
視線を向けられているだけで、意識が飛ばされてしまいそうな殺気を向けられながら…
どうにか命乞いの言葉を声にする不良達。
だが、その言葉も龍馬には――――
「……俺がてめえらより強かったら、何だってんだ?」
何の意味も持たなかった。
「!!ひ、ひいい!!」
さらにその殺気を強くして、ゆっくりと自分達に迫ってくる龍馬に、不良達は絶大な恐怖をその身に感じてしまい、悲鳴を上げてしまう。
己の死がゆっくりと迫ってくる、そのあまりの恐怖に、不良達はそれぞれが履いているボトムスの中心から、怯えの副産物を垂れ流してしまっている。
「……相手が自分より強かったからやめ、なんて…通用すると思ってんのか?」
「!!がはあああああああっ!!!!!!!!」
龍馬の左拳が、目にも止まらぬ速さで振り抜かれ…
一人の不良の顔が、形が変わるほどに撃ち抜かれてしまう。
その威力に、殴られた不良の身体が勢いよく吹っ飛び、5mは先にある建造物の壁へと激突してしまう。
そして、そのままこと切れたかのように、ぴくりとも動かなくなってしまう。
「ゆ、許してください!!許して…」
「……そう懇願してきた相手を、てめえらは許したのか?」
「!!ぎゃああああああああっ!!!!!!!」
龍馬の長い左足が、力任せに一人の不良の身体を蹴り飛ばす。
またしても、距離のある建造物の壁にまで飛ばされて激突し、そのまま意識を手放してしまう。
「や、やめて…」
「お、俺らが悪かったです…」
「ど、どうかお慈悲を…」
「……何、俺に指図してんだ?カス共が」
「!!はぎゃあああああああっ!!!!!!」
「!!げ、げほおおおおおおおっ!!!!!!!」
「!!が、がふうううううううううっ!!!!!!!!」
あまりにも姑息で、あまりにも半端な彼らに龍馬はよほど憤っているのか…
今度は三人まとめて、涙を流しながら懇願してきた不良達を、その右腕の一撃でアスファルトの地面に叩きつけてしまう。
その強烈すぎる一撃に、三人共あっさりと意識を手放してしまう。
「あ、あ…」
「ひ、ひ…」
「こ、殺される…」
「た、助けて…」
真綿でその首を絞めていくかのように、ゆっくりと…
確実に不良達を仕留めていく龍馬。
その姿は、不良達にはもう、人には見えなかった。
ただただ、目の前の敵を無造作に始末するだけの鬼。
そうとしか、見えなかった。
「……一度殺し合いが始まれば、目の前の相手を殺すしか、生きる道はねえんだよ。そんなことも知らずに、こんな真似してやがったのか…ああ?」
着実に残り少なくなっている、無事である不良達に…
龍馬は追い打ちをかけるかのように、強烈な殺気をぶつけていく。
「ひ、ひいい…」
「も、もう、許して…」
「す、すみませんでした…」
そのあまりの殺気の強さに、不良達はもはや言葉で取り繕うことすら満足にできなくなってしまっている。
ただただ、無様に涙や小便を垂れ流しながら、助けを乞うている。
手ひどくやられてしまったとはいえ、あっさりと意識を手放すことができた者の方がまだよかったのかもしれない。
このままでは、確実に肉体よりも先に精神を殺されてしまう…
それほどの絶大な恐怖…
その恐怖の元となる殺気が、龍馬から放たれている。
「……何度も言わせんじゃねえ。もはやてめえらが生き残るには、俺を殺すしかねえんだ…いい加減、力で抗ってみたらどうなんだ?」
そして、その恐怖の対象となる存在から、一切の慈悲もない言葉が飛び出してくる。
不良達にとっては、殺すどころか抗うことすら冗談ではないと言い切れてしまうほど、馬鹿げた戦闘力を持つ相手なのだから…
事実上、龍馬のこの台詞は自分達の命を終わらせる、という宣言にしか聞こえないでいる。
「む…無理…です…」
「ちょ…調子…のって…すんません…でした…」
「も、もう…こんなこと…しません…」
「た…助けて…ください…」
死にたくない一心で、どうにか凍てつかされていたかのように動かなかった身体を、ぎこちなくながらも動かし…
まだ意識を保っていた全員が、恥も外聞もなく、揃って土下座をし、うまく出せない声をどうにか出して必死に懇願し続ける。
もう、嫌だ。
こんな思いするくらいなら、家に引きこもってた方がマシだ。
数の力で弱い者いじめなんて、こんな怖いことだったんだ。
もう絶対こんなことしない。
これからは、もっとまともに生きるから。
だから、助けて。
そんな不良達の切実な思いが込められた土下座と懇願。
目の前の、逆らうことすら許されない圧倒的な力を持った存在にひれ伏すかのごとく、とにかく懇願し続ける。
「……そうか…全員、無慈悲に殺されたい…ってことで、いいんだな?」
そんな不良達の懇願は、弱肉強食の理の中に生きる龍馬には、龍の逆鱗に触れるごとくの行為となってしまう。
一度その敵意を向けてきた以上、龍馬に相手を見逃すと言う選択肢は存在しない。
力で抗ってこないのなら、容赦なく屠るのみ。
一辺の慈悲もない龍馬の、絶対零度のような凍てつく声から放たれた台詞に、不良達はさらなる絶望を、味わうこととなってしまうのであった。
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