番外編:お出迎え

誘拐された経緯やら状況やらを話してサクッと帰された。


意外とあっさりとした聴取だったが、どうやらリオン様が一手に後始末を引き受けてくれたかららしい。


動機も手筈も全てリオン様がボスに聞き出し、残っていた人の殆ども生きていない、というのを聞いて詳しく聞くのは止めた。


悪いことはダメ、絶対に。

ルドとかマオとか容赦ない人もいるのだから。




「無事で良かった…」

公爵家の屋敷に着くとすぐにミューズ様が出迎えてくれた。

他の使用人仲間も心配そうな顔をしている。


「ご迷惑をおかけしてすみません!」

皆心配をかけてしまったことは、もう本当に申し訳ない。


「チェルシーのせいではない、気に病むな。疲れているだろうから、明日はゆっくりと休むといい」

公爵であるティタン様もそう言ってくださる。


優しさが凄く沁みる。


「次はないように気を付けろよ。今回は怪我がなくて良かったけど、万が一とか、どうなるかわからないんだからな。」

ライカも心配してくれてたようだ。


「そうね。あたしもまさか自分が攫われるなんて思ってなかったもの。それに実家じゃなくて、公爵家に身代金の要求をするなんて、考えたこともなかったわ」

それがあったから、すぐに助けがきたのかもしれないけど。


「本当にまさかだったな。何か対策を講じなければなるまい」

ティタン様が困ったような顔をしている。


「今回はリオンがすぐに対応出来たから良かった。ルド、マオ、迅速に連絡をくれて助かったよ」


ルドもマオも頭を下げる。


「いえ、俺の方こそ妻を助けるためとはいえ、すぐに屋敷を離れる許可を頂けて感謝しています」

「そうですね。ティタン様たちがすぐに戻ってきてくれたおかげで、僕たちはチェルシーを助けに向かうことが出来たのです。ありがたかったです」


皆があたしの為に色々としてくれたみたいで、申し訳ないやら嬉しいやら、涙がこみ上げる。


「チェルシー疲れたでしょう?食事も用意してるから、まずは一緒に食べましょ。デザートも用意してもらったわ」

ミューズ様が頭を撫でてくれて、手もつないでくれる。


優しさいっぱいで鼻の奥もツーンとした。


「マオも一緒に付き添うといい」

「ありがとうございます、ゆっくりしてくるです」

マオも伸びをして、あたしの横に来てくれた。


ミューズ様とご飯を一緒に食べられる権利をティタン様が譲ってくれるなんて、今日はなんという高待遇だろうか。


「ではチェルシーまた後で」

「ルドは一緒じゃないの?」


あたしは心配してしまった。

ルドだって疲れてるはずなのに。


「俺は報告がありますので。ゆっくりと食事を楽しんで来てください」


ティタン様とライカと共に、ルドもあたしを見送ってくれた。


ちょっと、いや結構寂しい。


助けにきてくれてずっと一緒だったから、急に離れるのは何か嫌だ。


でも、我儘は言いたくないし、ミューズ様と一緒にご飯を食べられるのも嬉しい事だ。

この幸運を噛み締めようと、ルドと別れ、食堂へと向かう。


屋敷に戻ってきた事とミューズ様に会えた安心感からか、空腹感が少しだけ復活してきた。







「この度は力をお貸しいただきありがとうございました」

「いいんだよ、無事で良かった」


遅れて到着したリオンにルドはお礼を言う。


「思いがけない事が色々起きたが、魔獣もライカが討伐したし、チェルシーも怪我がなくて良かった」

ティタンもホッとしている。


今日一日で色々あり過ぎた。


「皆怪我がなくて何よりです。まさかチェルシーが誘拐されるなんて、話を聞いた時は口から心臓が飛び出るかと思いましたよ」

ルドは苦虫を潰したような顔をしている。


「こっちも切羽詰まった声でルドが連絡してきたから、驚いたぞ。ルドの鬼気迫る様子なんて、そうそうないからな」

ライカの言葉にティタンも頷く。


穏やかで冷静なルドが焦っていたので、即座に緊急事態だとわかった。


「やはり一人で街に行かせるべきではありませんでした。今後はなるべく一緒に付き添おうと思います」


荷物持ちでも何でもするつもりだ。


もう二度と危険な目に合わせたくない。


「そうは行っても難しいだろう、仕事もあるし」

ライカも険しい顔をする。


主の護衛がルドとライカの仕事だ。


大事な仕事な為、二人しかいないので代わりが難しい。


「前々から考えていたが、護衛の者を増やそう。二人の休みも増やしてあげたいからな」


ティタンも気にはしていた。


娘も生まれ、屋敷の守りをもっと強固にしたいとも考えていたところだ。


けれど、なかなか腕が立つ、信頼出来る者を見つけるのが難しく、先送りになっていた。


「今すぐとは言えないが、何とか探す。それまでルドも出来るだけチェルシーに付き添ってくれ」

「はい」


ルドは早くチェルシーに会いたくてそわそわする。


きっと今日の事を引き摺っているだろう、心の傷になっていないか心配だ。




「チェルシーを攫った誘拐犯の殆どは殺してしまいましたが、よろしかったでしょうか、兄様」


ルドが切り捨てたのもあるが、リオンやマオが始末した者も多い。


「あの時のルドとマオの剣幕でどう止めろと言うんだ、とうに諦めてたよ。だが、首謀者くらいは捕らえたのか?」


ティタンの問いにリオンはニコニコする。


「生きてはいますよ。ただ、まともに生活していけるかはわかりませんが」


リオンの様子にルドは少々寒気を感じた。




ルドはチェルシーを外に連れ出す前に、少しだけリオンの様子を見にいった。


泡と血反吐を吐いて顔面を紫色にした遺体達の中で、リオンは魔法を繰り出していた。


ボスらしき男は身動きも取れず、恐怖の表情でリオンを見つめていた。


対称にリオンは終始笑顔だったのが印象的だ。


「聞きたい事聞いたら憲兵を呼ぶよ、先に外に出ていて」


ルドの方を見もせずに、リオンがそう促す。


ルドは頷くとチェルシーを抱えて走った。


一刻も早く外に出ないと、チェルシーが耳にしてはいけない声が聞こえるかもと思ったからだ。


ボスらしき男の四肢には無数の蜘蛛が群がっていた。


それらは男の体を飲み込むかのごとく蠢いていたから、今から尋問が始まるのだろう。


どうやって問い詰めていったのかは、想像したくなかった。



















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