番外編:解放
「もう大丈夫ですよ」
「ありがとう、ルド。本当に助かったわ」
ようやく降ろされたのは外に出てからだ。
さぞ重かっただろうに文句も言わず抱えてくれて、頼もしかった。
ところどころから血に匂いがしたような気がしたが、気のせいね。
目隠しを外すと目の前には同僚のマオがいた。
「無事で良かったです」
「マオ!」
驚いた。
何でここに?
「あの、何でここにいるの?ミューズ様は大丈夫なの?」
ルドもそうだが、マオもいるなんて。
ミューズ様の護衛はどうなってるの?
「ティタン様とライカがすぐ戻ってきてくれたので、僕とルドはこちらに来たのです。誘拐されたって知らせが来て、ビックリしたですよ」
本当に公爵家に誘拐の知らせがいったようだ。
「ごめんなさい。こんな事になるなんて思ってなくて」
迷惑をかけてしまったことを謝るが、マオは気にした素振りもない。
「別にチェルシーのせいではないから気にしなくていいのですよ。しかし、身代金目的で侍女を攫うなんて、なかなかない発想だと思うのですが…まぁ狙った人物が悪かったですね」
ふふっとマオが黒い笑みをしている。
確かにルドが容赦なく人を殺めるとは思わなかった。
助けにきたのがルドじゃなかったらもっと穏便だったかもしれない。
「目撃していた街の人もすぐに知らせてくれて、身代金要求の手紙を届けてくれた者にも事情を聞いたのです。その後リオン様に連絡したらすぐにここにチェルシーがいると教えてもらえたのです。リオン様の魔法は探知に向いてますので、あっという間です」
よかった。
目撃者の人達がすぐに知らせてくれたのも功を奏したようね。
リオン様はマオの夫で、凄腕の魔術師だ。
以前結婚式で綺麗な虹色の蝶を見せてもらった事がある。
花弁のようにきらきらと綺麗だったなぁ。
「リオン様にもお礼を言わなきゃ。でも蝶々なんて見なかったわよね?」
リオン様は蝶を操って、自分の目の代わりに出来ると聞いていた。
身近にそのようなものは見なかった気がする。
「あれは目立つから、こういう時は違う形にするそうですよ。こんな風なものに」
マオが呼ぶと黒い小さな蜘蛛が集まる。
この蜘蛛、トイレとかそこらに確かにいたわね。
次々とマオの周囲に寄ってきた。
「うっ!ちょっと、苦手かも…」
一匹、二匹ならばまだいい。
しかし、こんなにたくさんなのはちょっと、いやかなり気持ち悪い。
「慣れれば可愛いものですよ」
マオは平気そうだ。
「これにチェルシーの場所を教えてもらったのです。小さいからどこでも入れるし、隠れられるです。場所がわかったら、ルドに認識阻害の魔法をかけて、潜入してもらったのです。ここのボスを捕らえるまで待つですよ、といったのですが、その前に大暴れしてたですね」
「妻が他の男に触られて我慢できるはずがないでしょう。襲ってきたものは滞りなく切り捨て、チェルシーに傷はつけてないのだから問題ないはずです」
認識阻害、透明人間になる魔法だと聞いた事がある。
転びそうになった時助けてくれたのもルドなのだろう。
ルドがあたしを後ろから抱きしめてきた。
「今度から一人での外出は避けてください。あなたに何かあったら、俺が耐えられない」
「ごめんなさい…」
心配してくれているのが痛いくらいわかる。
「公爵夫人であるミューズ様を狙うならともかくその侍女を狙うなんて、普通は思わないですからね」
マオの言葉にあたしは頷いた。
普通はそうよね。
「それにしても侍女の身代金を勤め先に要求するとは…うちならともかく、侍女の主が応じなかったら、どうするつもりだったんですかね」
「その時はその時で、誘拐した女性を売り払うつもりだったみたいだよ」
首を傾げるマオの言葉に答えたのは、リオン様だ。
あたしが監禁されていた建物から出てくる。
「さっき吐かせてきた。今憲兵たちも呼んで後処理させるから、ちょっと待っててね」
にこにこと微笑んでいる。
相変わらず、綺麗でかっこいい。
公爵のティタン様の弟だが、容姿は全く似ていない。
二人ともとっても優しいところは似ているが。
少し身じろぎするとルドが手を離してくれた。
あたしはリオン様の方を向いて頭を勢いよく下げる。
「リオン様、助けていただきありがとうございます!お忙しいところを、あたしのせいでこんな事させてしまって、本当にすみません!」
「いいんだよ、君が無事で良かった。マオから呼び出しを受けた時はびっくりしたけどね」
顔を上げるように促され、あたしはリオン様を見る。
「君はマオの大切な友人で、義姉様の大事な侍女だ。見捨てるわけがない。それにマオに頼られたら、僕は何だってするよ」
目を細め、優しい眼差しでマオを見る。
「少しは役立ったかな?奥様」
「助かったです、リオン様。ありがとうなのです」
期待に満ちたリオン様の声と、淡々とお礼を述べるマオの声。
温度差を感じたが、リオン様は満足そうだ。
「さて、憲兵が来た。僕は色々伝えることがあるから中に行くけど、チェルシーは入らない方がいい。二人は付き添ってあげて、必要な話をしたら、公爵家に帰っていいよ。後の事は僕に任せて」
そう言うとリオン様は指をくいっと曲げて合図する。
マオのもとにいた蜘蛛達が霧散した。
「二人がいるから、もういいだろう。また後でね」
手を振って、憲兵たちと中に行ってしまった。
薄暗くなってきたが、あたし達は外で事情聴取を受けることになった。
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